77.フードエリア 一

 いい具合に時間も経ち、フードエリアに戻ると先ほどまでの人混みは綺麗に解消されていた。なかにはまだ行列ができている店もあるが、それほど待つことも無いだろう。


「祐司さんは気になるお店ありますか?」


「あー、そこのカレー屋とかいい匂いするけどな」


 味一筋、頑固オヤジのこだわりカレーと看板が立っている。


「千佳は?」


「私は……むこうの牛とろ丼とか食べてみたいです」


「うお、あそこだけまだ列凄いな……」


 千佳が指さした先の屋台だけ、異様に長い列ができていた。とはいえもうピークは過ぎている。十数人ってところだし、たいしたこともないだろう。


「それじゃ先に千佳の方に行くか」


「いいんですか?」


「いいに決まってるだろ」


 逡巡する千佳を横目に列へと向かう。すると躊躇いを見せていた千佳も、そのまま後ろについてきて、二人並んで列に加わる。


「あの、祐司さんも食べますか?」


「ん?」


「牛とろ丼です」


「んー、俺はカレーかな、やっぱ。もし牛とろカレーがあれば別だったけど」


 この屋台のメニューは牛とろ丼のレギュラーとハーフの二種類のみ。もうすでに口の中はカレーを受け入れる準備が出来ていたから今からはもう難しい。


「そうですか。でしたら祐司さん、私はこのまま並んでるので、先にカレーを頼んできて大丈夫ですよ」


「? 大丈夫?」


 どういう意味の言葉だろうか。


「えっとですね、私はここに並んでますので、祐司さんはその間にカレーを注文して、あちらの席の確保をしていただけるといいかな、と」


 あちらの席とはこの屋台ゾーンの奥にある青空フードコートのことで、こちらで購入したお昼が食べられるようになっていた。


「……いや、このまま並んでようか」


「どうしてです?」


 千佳の案にノった方が効率がいいのは確かだ。けれど。


「その、なんだ……。はぐれたりすると困るからな」


 こういうフェスで女子を一人にするのはどうか、と。いくら家族連れが多い昼のイベントとはいえ、ナンパがないとも限らないし。


「ふふ、ありがとうございます」


 ……もしかして見透かされている?

 いや、それでもいいか。千佳は柔和な笑みを浮かべる千佳とクラフトエリアの話をしながら順番を消化した。

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