58.からかいたくなることもある 一
小湊さんに追い出され、そのまま田舎道を行く。コースもなにも決めていないが、とにかく運動して頭をリフレッシュさせよう。
夏の日差しに焼かれながら走ることしばらく。少しはマシになった気がする。
そろそろいいかと駅に戻ると、待合所のベンチに並んで座る二人が外から見えた。窓越しだが、なんだかいい雰囲気に見える。少し様子をみてみるか。
「にしても、祐司と相楽さんってアレで付き合ってないんだよな?」
「そうらしいわね」
って俺と千佳の話か。余計に出ていきづらい。
「あいつら四六時中一緒だし、あれで付き合ってないって無理があるよなー」
「よねー」
「もうこっちの身にもなれってもんだ!」
「もんだっ!」
……これはアレか? テンパってる須藤を、小湊さんがおちょくって楽しんでる図か? もう少しだけ見守るか。
「あれだけオープンにされると、見させられてるこっちはもうな、なんとも言えない気持ちになるんだよ」
須藤、お前さっきからそれしか言ってないけど大丈夫か?
「なんとも言えない気持ち?」
「そうそう、ほらあいつらって隙あらばイチャつくじゃん?」
「イチャつく?」
「あー、なんだ、その。すぐ膝枕とか、そういうことしようとさ……」
あぁもう、しどろもどろな姿が見ていられない。なにが悲しくて須藤はフラれた相手にイチャつき方なんて教えてるんだ? いや、フラれたってのは須藤の早とちりだけど。駄目だ、
と、一歩踏み込んだ時だった。
「へぇー。それってさ」
一瞬の早業だった。小湊さんが、とん、と須藤の肩を引き寄せて、上半身を引き倒した。
「っへ?」
突然のことに須藤は
「こんな感じかな?」
くふふと見下ろす小湊さんは、指先で須藤の頬を軽く
「ぅふぁ!? っちょ!」
言葉にならない奇声を上げ固まる須藤。……俺はなにを見せられているんだろうか?
「ふふ、なんかいいかも」
より深まる笑みは、それはもう悪魔的な意味で最高ランク。恐怖でしかない。
「あ」
小湊さんと目が合った。
「あー、っと」
気まずい。目を逸らしたが、逃げも隠れもできるようなシチュエーションじゃなかった。進むしかない。
「三十分、くらいでいいか?」
それくらいあれば充分だろう。
「そうね」
にっこりと笑う小湊さんに頷かれ、駅を後にしようと
「三十分ってなにがだよ! 祐司、おま、見捨てる気か!?」
突然の膝枕から、転がり落ちるように脱出した須藤は
どうしてだろう、
「あ~ぁ。まいっか、それじゃ行こ?」
小湊さんは残念そうだが、満足はしたらしい。ぴょんっとベンチから立ち上がり須藤を置いて駅を出る。
「ま、まってくれよ、あれ、上手く立てねぇ、膝が笑ってる!?」
小鹿のように足をガクガクといわせている須藤をからかいながら、家への移動を開始した。
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