10.秘めたる想い 三

「え? 待て、待てよ……。え? つまりその、なんだ……」


 あぁ、すごく聞きづらい。須藤ならともかくこんなこと、相手はあんまりしたしくもない同じクラスの異性だぞ? でも確かめないと進まない。どうしたって聞かなきゃいけないことに変わりはないんだ。

 せめて普通のこと……なんでないことのようにそつなく聞かなければ。


「フるつもりはなかった?」


 言った。言ったった。言ってやったぞ、噛んだり、どもったり、照れが混ざったり、そんなこともなくスッと聞いてやったぞ!

 さぁどうだ小湊さん、これなら答えやすいだろ? なにせ普通のことなんだから、俺は全然気にしてないし!


「~~~~っ」


 え、待って、どうしてそんな顔で俺を見るのさ小湊さん? まるで羞恥に耐えるみたいにわなわなと体を震わせて……え、なにかマズった? スマートだっただろ?

 っていうか小湊さんも、そんな恥ずかしがるようなキャラじゃないし……。もっとこう『ぶっちゃけ須藤いいかな、って思ってたのよ』くらいさらっと返してくるんじゃなかったのか?


「あー……、悪い。でもこれをはっきりさせとかないとさ、どうしようもないっていうか、その。好き、なんだよな?」


「~~~~っ!」


 熱に浮かされているかのようなうるんだ目でにらみつけてくる小湊さんは頬も真っ赤に染まっている。

 ……いや、こっちにどんな顔しろって言うんだよ、分かんねぇよ。

 はからずも見つめあう形。沈黙という不可視のとばりが降りた。

 もし誰かが通りがかったとしたならば、こんなところで告白か⁉ と思われること違いなし。

 けど言葉のボールは向こうにあって、俺はそれを待つしかなく。どれくらい経っただろうか。実際は数秒だったのかもしれないが、気の遠くなるような感覚を味わった後。

 上気した頬のまま、小湊さんは意を決したようにきゅっと唇を引き結び。コクリ、と小さく、けれど確かに頷いた。


「っ!」


 耐え切れず目を逸らす。確実に、こっちまで赤くなっているだろう。気まずさはもちろんのこと、見ちゃいけないものを見てしまった感が強い。


「ぁ~~もうっずい! これも全部あの馬鹿のせいよっ! あぁ~~」


 頭を抱え、小湊さんは背中を丸めて一人ごちる。

 許さないとかどう煮え湯を飲ませてやろうかとぶつぶつ聞こえるが、それについては聞かなかったことにして。


「コホン。……ともかくその。須藤とのこと、前向きに考えたいんだな?」


「そうよ馬鹿、手伝いなさいよー」


 投げやりになっている。

 追い込んだのは自分かもしれないが、小湊さんは見たことがないほどボロボロだった。


「確認だけど。今回は須藤が空回りして先走ってしまった結果起こった不慮の事故、でいいんだよな?」


 あ、やっと顔を上げてくれた。真っ赤なままだ。


「そうだって言ってるでしょっ、しつこいよ、デリカシーって言葉知らないでしょ馬鹿……」


「ごめん」


 平謝ひらあやまりするしかない。俺に恋愛事の経験があれば、もっと上手うまく出来ただろうけれど……。女子に呼び出されただけで、告白されたと勘違いするような男だからな、俺は。


「はぁぁぁ。まぁ、こういう流れだから、私から告り返すのはなんか違うじゃん?」


 大きく息ついた小湊さんは少しだけ落ち着いたのか、あっけらかんと続けた。


「そう、だな」


 俺からみても、小湊さんから……ってのはない。なんかしゃくに触る。


「でしょ? だから私としては、もう一度やり直させたいの」


「やり直しか」


 もう一度須藤から告白させる。そのように誘導する。


「そう。だけど須藤はあの調子だし、このまま休みに入っちゃったら会う機会もなくなるし……。だからね、篠森は上手いこと私に協力して欲しいの。もう一度、アイツに告らせたいの」


 当然小湊さんの気持ちは隠したままで、だ。大分難しいと思うが、


「分かった、出来るだけ協力する」


 こうまでぶっちゃけられたら手伝うしかないだろう? まぁ、黒歴史のこともあるけどな。


「ちなみにこのこと他の人は知ってるのか……? 言えば千佳も協力してくれると思うが」


「秘密よ、秘密。もちろん千佳にだって内緒だからね?」


 千佳にもか。ぐっと難易度が上がったな。どれだけ自然にもっていけるかが鍵になるだろうが、俺にどれだけのことが出来るだろうか。

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