勇者と仲間は若いほうがいい

kurosuke

第1話 勇者って若者しかなれないのか

 ここはまだ魔王軍と勇者たちが己の信念をかけた戦いが続いている世界。

 若い命がまさに命を懸けて人類の平和を取り戻そうと頑張っている。

 そんな中、家に集まり、酒を飲んではくだを巻いている四人のおっさんがいた。



 エールを一気に煽り、一人の男が口を開く。


「あのさー、なんで勇者って若いのしかいねぇのかなぁ?」


 疑問を投げかけたのは四人の中では一番の若手、今年40歳を迎えたばかりのアフォード。もちろん無職である。


「はぁ? そりゃあ若いほうが運動能力が高いからだろ?」


 アフォードの疑問に答えるのはガイル。去年、鍛冶屋を引退し若夫婦に店を任せている、暇を持て余したガチムチのおっさん(58歳)である。


「それもそうじゃが、若いほうが素直だ。頭も柔軟だからのう、すぐに魔法とか技とか覚えてくれるのじゃ」


 付け足すように答えたのはアフォードの父の友人、セト。町医者をしているひょろひょろのおっさんというか、じじい(65歳)である。


「そんなことよりいい加減働いてくれよ!」


 アフォードの話をぶった切るのはアフォードの父親ルドルフ。魔法学園の園長を務めているじじい(65歳)である。


 現在無職のアフォードは一度も働いたことがない。

 働かずとも親が稼いでくるので、ガリッガリに親のすねを齧りまくっている最中なのである。


「やだよ、今更働きたくないっていうか、働いたら負けっていうか……、そう! 俺が本気出せる仕事がないんだよね」

「そういや、俺の息子の店で雑用してくれる奴を探しているぞ?」

「うちの病院でも掃除してくれる人募集中じゃぞ?」

「夢ばっか見てないで、ごみ拾いでもして来いよ」

「何それ、俺はショボいことはしたくないんだよ、俺は! ……そうだ、どうせなら勇者になるわ」


 年寄りの小言に耐えかねたアフォードは、思い付きで勇者になると言い出したのだ。


「プッ! お前の歳で勇者なんてなれるわけねーだろ?」

「はいはい出ました、アホのアフォード発言じゃ」

「これが俺の息子なんて恥ずかしいわ! お前は勇者じゃなくて魔法使いだろ?」

「なんだよ魔法使いって! ってか何で知ってんだよ、親父ィ!」

「やーいやーい、ドーテー息子ー!」

「ドーテーって言うな! 俺は魔法使いじゃなくて妖精になったんだよ」

「それは女性がなるもんじゃなかったか?」

「どっちでも大体同じ意味じゃな」

「俺は孫の顔も見れんのか……」


 顔を真っ赤にしてアフォードは地団太を踏んでいる。とても悔しいようだ。

 生まれた時から常に三人に成長を見られていたアフォードは、口では敵わないと思うと、急に話を戻しにかかった。


「だから俺、勇者として働くから、協力よろしく!」

魔法使いが何を偉そうに! 話は通しておくからとりあえず魔法学園の用務員にでもなっておけ」

「うるせー! せっかく息子がやる気出してんだ。勇者になってモテモテになれば嫁の一人や二人、孫の五人や十人くらいすぐに会わせてやるよ」


 意気揚々と夢を語るアフォードだったが、ガイルの一言でどん底に叩き込まれることになる。


「つーかお前の仲間になってくれる奴いんのか?」

「…………」

「「「…………」」」

「だっ、だから、協力してくれって言ったじゃん! ……グスッ」


 アフォードは涙目で鼻をすすっている。

 三人のおっさんは哀れんだ目でアフォードを見ている。


「四十にもなるいい歳こいたおっさんが……」

「夢を語って泣くなんてのう……」

「どこで育て方を間違ったのか……」


 人目もはばからず泣き出したアフォードに呆れ顔のおっさんたちは互いに目を合わせ、一回だけならとアフォードの勇者ごっこに付き合うことにした。


「ホントに? じゃあ明日、リモリ森の入り口に昼めし食った後に集合ってことで!」


 鼻をスンスンとすすりながら、アフォードは自分の部屋に戻っていく。

 その様子を見届けてから、ルドルフは申し訳なさそうに頭を下げていた。


「本当にすまん、うちのアフォードアホがまた訳の分からないこと言い出して」

「まあ仕方ない。どうせ俺はいつでも暇だからな、気にすんな」

「儂も息子が病院継いでくれたから、割と暇じゃしの、おぬしが気に病むでない」

「はぁ、いつになったら大人になってくれるのか心配でオチオチ死ねんわ。じゃあ明日、よろしくな」


 おっさんたちも解散し、明日に備えて休むのであった。




 ――翌日昼過ぎ――


 リモリ森の前に集まったおっさんたちは、今頃になって役割を決めていた。

 アフォードは一応勇者ということなので、残りの三人が話し合っていた。


「ガイルは見た目からして戦士じゃな」

「じゃあ医者のセトは僧侶でいいな」

「なら魔法学園の園長である俺は魔法使いだな」

魔法使いの親が魔法使いってなんかウケるな!」

「「「アッハッハッハ!」」」

「何楽しそうにしてんだよ、決まったなら早く行こうぜ!」


 ロングソードを振り回してはいちいち変なポーズをとっているアフォードは、早く戦いたくて仕方がないようだ。

 一応、前衛がアフォードとガイル、後方支援がセトとルドルフということになり、魔物が出る森の奥にドンドン進んでいく一行。

 小一時間くらい歩いたところで後方の二人が息を上げ始めていた。


「はあはあ、なかなか疲れるのう」

「そろそろ休憩にしようぜ?」


 休憩を挟もうとしたとき、少し奥の方から何かの唸り声が聞こえてくる。


「グルルルル」

「な、なんかいる!」

「アフォード落ち着け! アレはポイズンウルフの唸り声だ。落ち着いて対処すれば簡単に倒せる!」


 ガイルの言葉もろくに耳に入っていないアフォードは、向かってくるポイズンウルフを見ると剣をグルグル回し叫んだ。


「必殺! 魔殺剣!!!」

「グルルル、ゴア―!!」


 ポイズンウルフはアフォードの剣をサッと躱すと、アフォードに毒の息を浴びせた。


「うぎゃーっ! し、死ぬぅー!」


 アフォードは倒れて地面でもがき苦しんでいる。

 ガイルは両手剣を握り直し、ポイズンウルフに切りかかる、と同時にルドルフがファイアランスで攻撃を仕掛けた。


「グギャアアアア!」


 見事攻撃が命中し、ポイズンウルフは息絶えた。

 セトはアフォードのもとに駆けつけ、解毒魔法を開始すると、見る見るうちにアフォードの顔色はよくなり、毒が消え去った。


「ふぅ、間一髪だったぜ! サンキュー、セトじい」

「……仕切り直しじゃな」


 セトの一言で町に戻ることが決定した。

 リモリ森の魔物を一人で倒せなければ勇者はもちろん、冒険者にすらなれないのだ。

 力の差が歴然だったため、アフォードは文句を言うこともできず、力なく頷くことしかできなかった。



 その日の夕方、町の酒場にアフォードたちが集まっていた。今日の反省会を開くためである。

 無様な様子を晒したアフォードは、バツの悪い顔で様子を窺っている。


「で、どうだった? 勇者は」

「……力不足を感じたかな? アハハハ……」

「ポイズンウルフは頑張れば子供でも倒せるはずなんじゃがな」

「子供でも!? 毒を吐くのに?」

「あきらめろ、お前に勇者は向いていないのだ」

「……嫌だ。もっと親父がフォローしてくれたらいいんだよ、そうだよ! 一カ月間みんなで修行してさ、レベルアップしてから挑もうぜ!」


 こうなったら何を言っても無駄である。

 アフォードは頑固者だ。言い出したら聞かないし、自分であきらめるまでしつこく繰り返す。

 もっと違う方向に向かえばいい結果が残せただろう。しかしそこはアホのアフォードである。

 面倒くさくもあったが、基本暇なおっさんたちはもうしばらくアフォードに付き合うことに決めたのだ。


「仕方ない、各自一カ月の修業を経て再びリモリ森の入り口に集合だ。それまで互いに干渉することを禁じよう。では解散!」


 ルドルフの声で四人のおっさんは各自修業の旅に向かう。

 だが、アフォードだけは家に帰り、とりあえず寝ることにしたのだった。

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