日本語ピッチアクセント検定 沿革

「中原さん、失礼だけどあなたの日本語はじゃない」

 

 海外の人に日本語を教えるようになってから、とある日本人の知人にこういうことを言われたことがあった。

「この単語のアクセントが間違っている」

「母音の無声化が足りない」

 日本人だけでなく、外国人の方にまで「あなたの発音はこういうところがではない」と指摘され、自分自身が日本語を話すときに戦々恐々としてしまい段々疲れてきた。

 私自身も静岡県出身であるということで自分の日本語が俗にいう「」とずれている自覚はしていた。

 しかし、正直私のようなただのオンラインチューターでマンツーマンで少数の人に教えているだけの人間にとって「アナウンサーなみの標準語の発音」を求める必要があるとは思えず、それぐらいの水準でもいいと割り切ってきた(今でも私の標準語は90%ぐらいの精度だが、そもそも地方出身者なのだしその程度で構わないと思っている)。

 言い訳がましくて申し訳ないが、辞書にある全ての単語のアクセントを一々調べ、具体的に自分の発音のどこが標準語と違うのを徹底的に見つけ出し(辞書と実際に使われている発音が違う場合はそれについて調べる必要もある)、実際に言葉を発するときは常に細心の注意を払う、というのがどれほど大変かというのは分かってほしい。全ての人がピッチアクセントの研究に一生を費やせるというわけでもない。

 人によって「標準語」の定義も違い、地方では東京辺りの言葉とはアクセントや発音が微妙に違う「標準語」が使われているという現実がある。そしてそれらは間違った言語であるというわけでもなく、日本語という言語の実情だと思う。


 しかし私のYouTubeチャンネルもここ数年で成長を続け、登録者が6000人に達したこともあってあまり無責任なことを言えない状況にもなってきた。

 では、私のような地方出身者は「」、または共通語とどのように向き合うべきなのだろうか。


 私は趣味で中国語を長いこと勉強してるのだが、お隣の中国では「普通話水準測試」というのがあり、教員になるには二級に合格しなければならない、などという取り決めがあるらしく、それを聞いた私は日本もそういうものを作ったらいいのではないかと漠然と考えていた。

 共通語のピッチアクセントを五段階ぐらいにレベル分けして、非母語話者なら五級、地方出身者なら二、三級ぐらいをクリアすればそれでOKという感じにすればよいのではないか。

 この構想自体は十年ほど前からあり、ずっと形にしようとは思ってきた。

 そして今、ある程度知名度が出てきたので、いっそのこと自分で民間資格を作ってしまおうと考えている。

 もちろん私も「標準語だけが正しい日本語である」とか「何が何でも東京の言葉に合わせるべきだ」というようなことは断じて思っていない。こういう試験を国が実施すると戦前に方言や訛語を撲滅しようとした「標準語教育」を思わせ、地方の方からの反発は免れられないだろう。

 だがその一方で、私のようなマイナー方言を母語とする人が俗にいう「変なアクセント」で公の場で話すと笑われたりからかわれたりするという現実もあり、方言話者自身が本人の意思で発音を変えたいと思うのは自由だと思う。「訛りを標準語に直す」のではなくて、「(外に出るときに服を着替えるのと同じで)状況に合わせてその場その場で話し方を変える」と考えるわけである。

 そして現在、それを手助けするシステムは声優やアナウンサーの養成所ぐらいしかない。独学で勉強しようにも、NHK日本語発音アクセント辞典などの辞書の付録などを除いて教材が充実しているとは言い難く、ピッチアクセントを覚える人はごく一部の人(言語オタクのような)に限られているような印象を受ける。

 私はより多くの人、もっと一般の方にピッチアクセントの存在を知ってもらいたいと思っている。


 そういうわけで「日本語ピッチアクセント検定」なるものを作り、試験や教科書を作ることによって具体的にどう練習したらいいのかを分かりやすくして、なおかつ日本語を教える立場にある地方出身者ないし非母語話者が――「完全に完璧な標準語」などというような不必要に高すぎる目標ではなく――現実的にどの程度のレベルで共通語を話せればいいのかというのを明文化したい。

 このあくまでも民間の取り決めが、日本語学習の一助になればと思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る