第295話

「…っ! …どこにいった!?」

「…アルッ! あそこ!」

 シャルの指差す方を見ると、奴は残った体だけで空に上昇し、風の牢獄を抜け出そうとしていた。

「まっ、まさか…このまま逃げる気か! …早く行かないとっ! …って、なんで覆い被さって!?」

「…奴の攻撃だ!」

 それはウルが先程発動したヘビーレインだった。恐らく巨神はウルの力を掌握しつつある。非常にまずい状態に近づいていた。

「みっ、みんな、どこにいったにゃ!? …グニャアアア!」

「なっ、なんで、真っ暗なの!? …キャアアアア!」

「…………もう…大丈夫だ…」

 僕が隙間から這い出ると直撃を浴びたノスクとウィンディーネは完全に戦闘不能状態になり、リアヌスとシオンさんも体に深く光の矢が突き刺さっていて身動きの取れる状態ではなかった。上空を見ると、第二、第三の光の矢が降り注ぐのが見えた。

「ぐっ…!」

「動けん…!」

「どうするっ、大将!」

「私はまだ戦えるよ!」

 …こっからは…俺が一人でやるしかないみたいだな……。

 僕はなんとか動けそうなエリックとシャルに指令を出した。

「二人共…。…多分、あと…一撃…風の魔力をぶち込めば奴のコアを破壊できる……」

「おう!」

「うんっ!」

「だから…城の中に皆を運んで無事に地上に逃げることだけ考えてくれ…。頼んだぞ…!」

「おっ、おい!」

「アルは!?」

「……また…後で会おう…。約束だ…」

「…っ! …わかったよ!」

「約束だからね!」

「…ああっ!」

 

 僕は奴を追いかけたが、崩れてきた体やヘビーレインを避けながら進んでいるせいでスピードを出せなかった。そんな中、拘束を振りほどいて、奴は今にも体を牢獄から抜け出そうとした。その瞬間だった…。

「…コレハ…マケデハナイ! …カミトノユウゴウヲ!」

「まずい…。逃げられ…」

「…イマコソ…ヤクソクノトキヲ……。……グキャアアアア!」

 眩い光の後、爆音が辺りに響き渡った。僕が目を横にやると飛空艇が遠くに浮かんでいた。

「よしっ…繋がったわ…。ギリギリセーフみたいね…!」

 青いステータス画面が開き、そこにはアリスの顔が映り親指を立てていた。

「…ったく……。……ほんとギリギリだけどな…」

「…なかなかハッキングするの大変だったのよ!」

 飛空艇から高出力のエネルギー波を打ち、巨神の動きを止めたようだ。巨神は体勢を崩し、僕は額にある最後のコアめがけて突進した。

「わかってるって…! じゃあ、今度はシルフの力を発動して俺に貸してくれ!」

「…わかってるわよ! …って、アル、まえ、まえっ!」

「…まえ? …っ! …まずい!」

 移動しながらアリスの風の力と僕の風の力を混ぜ合わせていると、巨神は口を広げて辺りを消し飛ぶ程の熱波と咆哮を僕に飛ばした。

「……っ!」

「ハハハハハッ…。コレデ……」

「………リカバリーフォー…発動!」

 爆炎が舞う中…僕は消し炭になった体を元に戻した。いや、アリスに元に戻してもらったというべきだろう。

「…バカ…ナ……」

「…やっぱり…領域外の魔法は…予知に反映できなかったようだな……」

「…カッコつけてる場合じゃないでしょ? …あんまり無茶しないでくれる?」

「ごっ、ごめん…。一応…確認事項というか…。その…」

 僕がステータス画面の中にいるアリスに謝っていると、巨神は鋭い牙を突き立てて僕を飲み込もうとした。

「ナラバ…ヤツトオナジニシテヤロウ…!」

「ぐっ…ぐっ…まずい飲み込まれる…! ……ぐぅぅううあああ! ………なんてな…」

「…キエッ! ガハッ…」

 僕は奴の上空に空間移動して大剣を振り下ろした。奴の顎は粉々に砕け散った。

「クウカンイドウ…ダト…。キサマノカゲハ…ドコニモソンザイシテイナカッタハズ…。コンナミライモ…」

「正確に言えば…ヘイズルーン……。こいつの効果…今はMPドレインじゃない…」

「ナンダト…ソンナハズ…!? ……ヘンカシテイルダト!?」

「たった今…俺は死んだと同時に初期の効果状態…MPドレインから魔力操作に進化させた」

「…してもらったでしょ?」

「ごほんっ! …してもらった。お前を確実に倒す為、俺は可変できる選択を残しておいたのさ…」

 僕はヘイズルーンや他の悪魔のスキルを確認すると、スキルチェンジはできないが、スキルアップはできるようだったのだ。だから、僕はあの空間に残るアリスやステータス達に操作してもらうことにしたのだ。

「ソッ、ソンナバカナコト…」

 まっ…未来を予測することができるのも…可変できるのも…あと一回になっちゃったけど…。

 僕は風のオーラを極限までチャージして、大剣を両手で握った。お別れの時間だ。

「ナッ、ナゼダ…。ナゼ…キサマガ…アイサレルノダ…」

「…アルッ!」

「じゃあな…。またやろうぜ…」

「…はぁああああ!」

〈…はぁああああ!〉

「……グッキャアアアアアー!」

 剣を突き刺すと、僕の体中のオーラは消えたと同時に、赤いオーラと青いオーラが巨神から噴出してアリスに貰ったペンダントの中に入った。巨神の体は完全に崩壊し、辺りにボロボロと体が落ちていた。

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