第278話

「……うわぁあああ! ………いててっ……。………ここ…どこだ…?」

 えーと……。……確か…急にこのペンダントが光って…。白い光に飲み込まれたと思ったら…落ちてたんだよな…。……ん? …っていうか…ここは……。

 僕は立ち上がると見覚えのある装置を見かけた。近くに行くと、やはり間違いではなかった。丸い台座に挿されていた黒いメモリーカードとポットに入った精霊達…。ここは少し前に子犬達に案内された場所だった。

「やっぱりだ…。…でも…なんで…僕はここにいるんだ…?」

 うーん…。…僕はシャドウに会いに行こうとも思ってないし…。そもそもこの空間の事までさっきまで忘れてた…。……魔法が暴走したのか? いや…そういえば…変な声がきこえてきたような…。あれは……。誰の声だ……。…確か……。……あれ?

「……みっ、皆のことが思い出せる……! それにリカバリーの事も……」

 ……なにが…起きてるんだ……? 

「すいません…。手荒になってしまって……」

 そうだ…この声だ…。思い出したぞ…。…さっきの声…ステータスの声だ…!

「おい…ステータス……。一体なにが……」

「安心しました…。…無事なようですね……」

 僕は後ろを振り向くと声を失ってしまった。そこにはいるはずのない人物が立っていたのだ。

「……アリス…? ……アッ、アリスじゃないか…!? なんで…こんなところに……」

「……」

「…ぶっ、無事なのか!?」

「……」

 僕が駆け寄って肩に手をかけると、アリスは無表情で僕の事を見続けた。僕は次の言葉を見つけている時に悟った。アリスに恨まれているかもしれないということを…。

 なにいってるんだ…。バカか…俺は……。無事なわけないじゃないか……。…俺がアリスをここにやったんだから……。

「……」

「……どうしました?」

「…………ごめん……。俺のせいなんだ……」

 僕は謝る事しかできなかった…。僕は僕の行動に対して責任を取れない…。だって…アリスはもう…。許してもらえなくても謝る事しかできなかった。

「……なぜ謝るのですか?」

 僕は心が痛かった…。なんというか…本当に…お尻が……。……お尻?

「……いたたたたっ!」

「…ぐるるる!」

「…なんだ!? なにが噛み付いて…!?」

 後ろを見ると、少女が僕のお尻に噛み付いていた。僕は少女を離そうとしたが、一向に離れる気配がなかった。

「…ぐぐるるる!」

「…おっ、おい! …はなせって! アッ、アリス…頼む…。…こっ、こいつ、とってくれ! おい…やめっ…! …いっ、いてぇえええー!」

「……離してあげなさい」

「…ぐぅぐぅぐぐ!」

「……頼めますか?」

「もう…やめなって…。おねぇちゃん……」

「邪魔しないで…! このボケナスが…もう少し噛まないと気がすまないわ! ちょっ、ちょっと…。…そっ、そこ、引っ張るんじゃない!」

「ほら、離れて…。…もっ、もう、暴れないでよ!」

「…離せぇええ! まだ…噛んでる途中でしょうがー!」

 僕は涙目になりながら、四つん這いになってお尻を擦った。とりあえずは大丈夫そうだが、僕は取り押さえられている少女に向かって文句を言った。

「はぁ…はぁ…はぁ…。……なっ、何するんだ、お前は!?」

「次はないっていったでしょうが…!」

「なっ、何の話だ…?」

「まず…頭が高い…! この方は貴方が触れていい存在ではないのです。…恥を知りなさい! …というか、その前に私に感謝しなさい!」

「…なっ、なんでケツを噛まれて感謝しないといけないんだ! 大体、君のことなんて……。……ん? ……あれ? …その耳……。まさか…お前達…モフオとモフコか?」

 僕が名前を呼ぶと白い煙を立てて二人は子犬になってしまった。

「…その名で呼ぶなー!」

 僕は白い子犬の飛び蹴りを喰らいそうになったが、ヒラリとかわしてキャッチした。

「…やっぱり、モフコじゃないか…」

「…違うわよ! …私の名前は……。…あんたのせいで忘れちゃったでしょうが!」

「なっ、なんで、俺のせいなんだよ!」

 僕が文句を言うと、もう一匹の子犬が僕の膝の上に乗ってきた。

「……お兄ちゃんを助ける為だよ」

「…俺を?」

 ……どういうことだ?

「…あんたを救出するのに記憶を失ったのよ! …頼まれなかったら、あんたなんか助けなかったわ!」

「…もう…そんなこと言って……。すっごい心配してたくせに…」

「……許してあげるから、私を離しなさい……。…標的は変わったわ……」

「おっ、お兄ちゃん…。離しちゃダメだよ…」

「おっ、おい…。…頼まれたって……。…誰にだ?」

 白い子犬達はアリスの方を真っ直ぐ向いた。僕は抱きかかえた子犬を下に降ろして、アリスに近づいた。

「……おっ、お兄ちゃん! はっ、離しちゃダメだっていったじゃないか!」

「……覚悟しなさい…!」

「……アリスが助けてくれたのか?」

「……まず…私はアリスさんではありません………」

「なっ、なに言ってんだよ…。どう見たって……」

「私は…彼女の中にあったデータを使わしてもらっているだけなのです…」

「…どういう意味だ?」

「こういったほうがわかりやすいかもしれませんね…。……私は…ステータスです………」

「……君が…ステータス?」

「はい…」

「…じゃ、じゃあ、アリスは!?」

「…残念ながら………」

 …そんな……。

 僕は謝りたかった…。いや…本当は違うのかもしれない…。きっと、この痛みを少しでも取り除きたかったんだと思う…。僕は卑怯者だ…。でも、謝りたかった…。罵られてもいい…。謝る相手もいない…このどうしようもない状況よりはマシなはずだ…。僕は後悔しながら、白い床に手をついて泣いていた。そんな時だった…。

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