第274話

 消えた…? どこに…いったんだ………。死んだ…? …死んだのか……? 

「………アリスを…どこにやった…?」

「…アリス? ああ…さっきの子か…。……消えたんじゃないかな? この世界から……」

「………質問に答えろ……。…アリスを……アリスを…どこにやったぁあああ!」

 奴はなんの罪悪感も抱いてないような表情をしていた。僕は心の奥底でフツフツと黒い感情が湧いていた。

「君が知らなければ知らないよ…。トドメは僕じゃない…。君がやったんだからね…」

「俺が…俺がやっただと…。よくも…そんなデタラメを!」

「デタラメなんかじゃない…。君のスキルが彼女の存在を掻き消したんだ…。…君の中に彼女を感じないかい?」

「……そんな…。そんなのウソだ…。……ウソだぁあああ!」

 俺が…俺が…やったのか…。違う…。…全部、こいつの…作り話で…! 違う…。俺のせいじゃ…。俺のせいじゃ…。

「まぁ…君は気にしなくていいさ…。放っておいても結果は変わらなかったんだからね…。でも、まぁ…やはり、そういうスキルだったか…。世界を夢へと変える力……。全く…恐ろしい力だよ…」

 …アリスはもう帰ってこないのか? ……なんで……こんなことになったんだ?

「ただ、彼女には少し気になる事があったんだが…今となってはもう遅いか…。……まぁ…気のせいだろう…。…さて、これで少しは……。…ん?」

〈………なぜ? お前は知っているはずだ…。誰よりもな…〉

「……あ…がっ…!」

「…これは……」

 僕の頭の中からどこかで聞いたことのあるような声が聞こえてきたが、誰かは思い出せなかった。そんなことよりも僕は頭が割れるような痛みに耐えるのに必死だった。

「……がぁあああああ!」

「…なんだ…この力は……」

〈……誰のせいだ…? …目の前のこいつのせいか?〉

 …そうだ…こいつの…!

〈…違う……。…全てお前のせいだ……。お前がこの未来を選択した…。お前が私を呼び起こしたのだ…〉

 違う…。俺のせいじゃない……。俺のせいじゃ…。

「だまれ……だまれ、だまれ、だまれぇえええ!」

 僕は自暴自棄になって右腕の鎖を外してしまった。感情に任せて僕はやってはいけない事をしてしまった。僕は考える事をやめてしまったのだ。一番、楽だった…。そう…錯覚してしまった…。

 そっか…。初めから…こうすればよかったんだ…。

「ふっ…はははははっ…。これほどとは…」

「素晴らしい…この力……。これこそ…僕の求めていた力…。滅びの力だ…」

「…うわぁあああああ!」

 僕の叫び声とともに右腕の黒いオーラをは辺りを包みこもうとした。不安定なそのオーラはまるで消えかけの炎のようだった。

「超えてきたか……。僕の…全知を…!」

「だまれ…。お前のせいだ…。…みんな…お前のせいなんだぁあああああ!」

「ははっ…甘いね…。そんな攻撃…。…なにっ!?」

 僕は雷と風と炎を纏い、目にも止まらぬスピードで目の前の敵を切り裂いた。ウルは胸を切り裂かれて後ろに逃げた。

「お前達を…殺す…」

「…ぐっ! 再生も不可能とは…。存在だけではなく、存在した事自体も消すという事か…」

「お前達はいらない…。この世界には不必要な存在だ…」

「…ドウスルキダ?」

「…ユグドラシル、儀式を始める。…もう、十分だ。彼はもう…瞬間的には僕の力を上回るよ…。それに…流石にこれ以上は危険だ…」

「スコシ…アソビスギタヨウダナ…」

「ああ…そうかもしれないね…。……くるよ…」

 僕はそこから先はよく覚えていない…。体が燃えているんじゃないかって思うくらい熱かった気がする…。でも、それ以上の事は思い出せない…。なぜかよくわからないけど強烈な睡魔が僕を襲ったんだ。次に目覚めた時は宙に浮かんだ状態で鎖で縛られていた時だった。

 

「ここは…。…っ!」

 なんだ…この鎖…?

「お目覚めのようだね…」

 ……生きてる…? あのデカいやつも…。…俺は倒せなかったのか? くそっ…。

「……はなせぇえええ!」

「おっと…まだ…そんな元気があるのかい? 驚いたよ…」

「お前だけは…お前だけは…」

「はははっ…。下を見てごらん…」

 下を見ると、皆がガレキの中から傷だらけになって現れた。僕は驚いた。彼等は信じられない事に立ち上がっていたのだ。先程まで絶望していたのに…。

「どうして…」

「アル…悪かった…。お前一人に責任を押し付けてしまった…」

「私は愚かだ…。許してほしい…。まだ…友だと思ってもいいかな?」

「大将…すまねえ…。休憩しすぎちまった…」

「ゴメンにゃ…。すぐにそんなやつやっつけるから待っててにゃ…」

「アル、助けに行くよ…」

「…きちゃ…ダメだ……」

 僕は嫌な予感がして横を見ると、ウルは再び邪悪な笑みを浮かべていた。

「さて…どうしようかな…」

「やめろ…。やめてくれ……。俺の負けでいい…。俺はどうなってもいいから…」

「はははっ…。なら、そうしよう…」

「…えっ?」

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