第272話
皆が駆け寄ってくると、僕を庇うように目の前に武器を構えて立った。そんな姿を見たら…普通は安心するだろう。心強い仲間が来てくれたと…。でも、その時…僕はそんな感情は微塵もわかなかった。
「すまない…。遅くなった…」
「とりあえずは無事で安心したよ…」
「大将…無理しすぎだぜ…」
「…いや……。…えっ?」
「僕達がきたからにはもう大丈夫だにゃ!」
「そうだよ! ギッタンギッタンにしてやるからね!」
「……」
だっ、誰なんだ…。この人たちは…。大切な人なのはわかる…。でも…皆の名前が…思い出せない…。
「…なにっていてるのよ、みんな! ねぇ…アル…なんなのこれ…! …皆は見えないの!?」
赤い服を着た女の子は暴れるように噴出していた僕の右腕の黒いオーラに触れた。
「危ないから触るな…! …ユリス!」
「…えっ?」
なぜかはわからないが、彼女が触れると少しだけ黒いオーラが収まった。だが、僕は自分自身の現状を把握するのに精一杯だった。
…誰だ…ユリスって…? …この子の名前? くそっ…。なんなんだ…。この記憶は…。俺の記憶じゃない…。一体…誰の…記憶だ…。
僕は見たこともない女の子の顔が頭に次々と浮かんできた。僕はそんな自身の状況に更に混乱した。
「…っ!」
「……何言ってるの…?」
「……私達が時間を稼ぐ…。アルはなにか魔法をかけられてるのかもしれない…。しばらく、アルの様子を見ててくれ…。…いくぞっ、みんな!」
「おうっ!」
「うんっ!」
「ああっ!」
「いくにゃ!」
皆の姿がオーラを纏った不思議な姿に変わっていき、目の前で激しい戦いが繰り広げられた。でも、僕は心の何処かで他人事のようにそれを見ていたのであった。皆が大切な人なのはわかっていたのに…。
「…アル、大丈夫なの? …どうしたの?」
「…ああ……」
「…なら、早くリカバリーしてよ!」
「……それって…どうやるんだ? …君は使えないのか?」
「…使えるわけないでしょ……。ねぇ…忘れちゃったの…? 私達の事……。……お願いだから、元に戻ってよ…! うっうう…」
「…ごめん……。でも、全部忘れてるわけじゃなくて…。……ん? …まっ、まずい!」
「…きゃ!」
轟音とともに天井が風で吹き飛ばされたかと思うくらいにあっさりとなくなった。僕は崩れ落ちた破片を見て、目の前の彼女を抱きかかえて床に伏せた。
「……大丈夫か?」
「…うっ、うん……。……なにが…おきたの?」
「巨大な…化物が突然現れて…。天井を薙ぎ払ったんだ…」
「……なにあれ…」
僕達が起き上がると、機械のような巨大な化物が神々しくそこに存在していた。その巨大な化物はゆっくりと動き、空間を歪ませるほどの凶悪な光るオーラを纏った拳を今にも打ち下ろそうとしていた。
「…なっ!?」
「…みっ、みんなが!?」
「…くっ! …君はここでまっていろ!」
「…どっ、どこにいくの!?」
「…奴を止める!」
「止めるって、どうやって…!?」
「大丈夫…。戦い方までは忘れちゃいない…!」
僕は壁を垂直に走って登っていき、化物の体へ飛び乗った。そして、そのまま走りながら体の節々を叩き切ってバラバラにしていき、宙に浮かんでいたウルを空を飛び叩き切ろうとした。
「…おらぁああああ!」
「はははっ…。…やるじゃないか……」
「あとは…お前だけだ…!」
「いや…いや…それは気が早いんじゃないのかな?」
「…なにっ?」
「…後ろ、見てみなよ?」
僕が警戒しながら振り返ると、バラバラにした巨大な化物は青い光を放ちながら元の姿に戻っていった。
「…まさか…ヘイズルーン!?」
「似てるけど少し違うね…。神の力さ…。むしろ、リカバリーに近いよ…。…それよりもここにいていいのかな?」
「…くっ、やめろぉおお!」
「はははっ…」
復活した奴は凶悪な力を感じさせる拳を打ち下ろしたのだった。僕は即座に下に移動して防御魔法を展開したが、奴のとんでもない攻撃に防御魔法は限界がきていた。
くっ…! ヒビが…!
「…皆…今の内に逃げろっ!」
「…ここまでだな……」
「…みたいだな……」
「…なにいってるんだ! いいから逃げろって…! 一旦、逃げてそれから…」
……それから、どうするっていうんだ…。こんな化物を…。でも…ここで…終わりなんて…!
「…大将…流石にあれは無理だ……」
「…ぐっ! さっきみたいに変身しろよ……! 変身してあいつを…」
「…力がでないんだよ。もう、使い切っちゃったのかもね…」
「もうダメだにゃ…。ちょっとでも勝てると思った僕達がバカだったんだにゃ…」
皆は完全に戦意を喪失していた。僕はそんな彼らの姿を見て怒りが湧いてきた。
「……いいから逃げろっていってんだよ! 俺の知ってる皆はこんなやつだったのかよ! 勝てなきゃ逃げてもう一回戦えばいいだろ!」
……ぐっ…! まずい…もう…限界だ…!
大きな衝撃に僕達は飲み込まれた。僕は自分が生きてるのか死んでるのがもわからない状態だった。
「…うっ!」
僕は地面に体を伏せたまま、顔を上げると景色は変わり果てていたが先程いた場所のようだった。周りを見ても皆はまだ生きているようだったが、そんな淡い期待を打ち砕くように化物は二撃目を振り下ろそうとしていた。
「……」
くそっ…。確かにこれは…ダメかもな…。これじゃ、クソゲーもいいとこだ…。
「…ヘビーレイン……!」
「……なにっ!?」
光る小さな矢が降り注ぎ、それに当たると僕は更に身動きが取れなくなった。だが、おかしな事にそれは化物にも効いていた。それでも、相当な威力だとは思うが、二撃目の攻撃はウルの防御魔法により止められた。
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