第271話

「やられたよ…。彼を取り込んだ時はこんな記憶はなかったんだけどな…」

「ぐっ……。…がっ…! 離せ……」

「…ん? ああ…。…痛かったかい?」

 僕は奴が手を離した瞬間に後ろに剣を無様に力なく振ったが、そこには誰もいなかった。僕は剣を地面に落として、膝をつきながら胸を押さえた。

「…がぁああああ!」

 …なにをされた。心臓は動いてる…。俺はなにをされたんだ…!?

「なるほど…ようやくわかったよ…。神の残骸や鎖のせいかと思ってたんだけど…そうじゃなかったってことか…。狼たちも大人しいわけだ…」

「…っ!」

 必死に顔を上げると、僕のステータスの中から現れた盃のような笛をウルは持っていた。

「そうか…。時を超える者との接触を望んだのか…。しかも、それが…異世界の接触者とは…」

「…うぐっ!」

「ここまで計画していたとしたら…。ヘイムダル…君は恐ろしい男だよ…。まあ…偶然に身を任せた可能性が高いが、条件が揃った以上は時を破壊する事が裏目にでるということか…。さて…どうするか……」

「…がはっ…! はぁ…はぁ…」

 息が…息ができない…。

「まったく…困ったものだな…。……君もそう思うだろ?」

「……返せっ…!」

「…なにいってるんだよ。これは僕の物さ…。僕が取り込んだヘイムダルの力…。数カ月前までは僕の体内にあったんだけどね…。突然、消えたんだ…。おかげで力の制御に困ったよ…。まぁ…そのおかげで彼とも接触できたんだけどね…。でも、まさか…君が持っているとは…」

「…返せぇえええ!」

「これはね…君には似つかわしくない力だ…。君は相反する力によって本来の力を制限されていたんだよ……。だから…これは……!」

 ウルは僕の目の前でそれを粉々に破壊した。すると、粉々になった欠片はウルの体内に輝きながら吸い込まれていった。

「…っ!」

「…やはり、現れないか……。…破壊したけど、取り込む以上はこの世界に存在していたという世界の認識か……」

「あれ…痛みが……。ぐっ…! …みっ、右腕がぁあああ……。…うっ……! ……がぁああああ!」

 僕の不安定なオレンジ色のオーラが消えると同時に胸の痛みは消えた。だが、今度は僕の右腕にあった鎖が黒く染まっていき、腕を引きちぎるかと思うほどの強い力でそれは締まっていった。

「…抗うんじゃない……。…受け入れるんだよ……。元々君の力なんだから…」

「……だっ、だまれ…!」

「さあ、あとはそれを外すだけだ…。君にはそんな縛りはいらない…。…僕を倒したいんだろ?」

 右腕からは視界を遮るほどの黒いオーラが放たれていた。その時だった…。発動するという意識もないのに…鎖をとってもいないのに…僕の持っていた悪魔のスキルが次々に発動した。

「…っ!」

「…素晴らしい……。これだ…これだよ…。…この力だ……! ふっ…はははっ…。もはや…それは意味をなしてないということか…!」

「…ぐっ!」

 バカな…。…全てのスキルが発動してる…だとっ! まずい飲み込まれる…!

 僕は咄嗟にラタトスクで体を強化して、大きすぎる力を逃がす為にルアの剣に黒いオーラを最大まで溜めた。すると、ほんの気休め程度にしかならなかったが、少しだけ痛みは引いた。僕はルアの剣を握ったまま、宙に浮かんでいくやつの笑った目を睨んだ。

「なるほど…。いいよ…。受けてあげよう…。さぁ…おいで…」

「……はぁああああ!」

 僕がドス黒いオーラを纏った剣を振り上げると、ウルの盾はあっさりと砕け散り、そのまま斬撃が天井を突き抜けた。僕は即座に床に落ちた神様の剣を手に握って様子をうかがった。

 ……やったか…。…なわけ無いか……。

「……いいね…。君は強くなった…。僕に一つ近づいた…。でも…まだ…完璧じゃあない…。もう少し…足りないみたいだ…」

「…なっ!?」

「…これでようやくわかるはずだ……。今の僕の強さがね…!」

 僕は目を疑った。僕の暴走したオーラがかわいく見えるほど強く光り輝く…奴のあまりに大きすぎる…そのオーラに…!

「…っ!」

「最後にもう一度聞こう…。……帰る気はないかい?」

「帰るつもりはない…。…お前をぶっ倒すまではな!」

「そうか…。残念だよ…。…ん? ようやく…君のお仲間がきたようだね…」

 

 

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