第266話

「なんだ…ここ…暗いな…。下のほうが明るい…。…ん? …なんだ…あれ…?」

 ……まさか…地球…!?

 僕は驚いて透明なガラスのような床に膝をついて下を見た。白い雲の隙間から、青い地球が見える。そのまま辺りを見渡すと完全な宇宙にいるというよりは、地上から雲の少し上らしきところにいることがわかった。どうやら鎖が見えないので神族の国の上空のようだ。

「でも…寒くもないし…。息もできてる…。…ってことは、ここは隔離された空間ってことか……」

 うーん…。ここは…待ちだな…。下手に動けば危険なだけだ…。皆を待とう…。

「……ん?」

 なんだ…この音…。なにかが崩れていくような…。

 僕が妙な音のする方を振り向くと、薄っすらと七色に輝くに輝く鍵盤のような橋が後ろの方から燃えながら消えていくのが見えた。

「…嘘だろ……」

 どうする…!? どこに逃げれば…!

「……こっちだ…」

「…ゼロ!?」

 姿は見えなかったが、ゼロの声が聞こえるはずもない上空に白色の建物があった。恐らくあれが勇者の祭壇がある場所だろう。僕は急いで飛んで行こうと思ったが、見えない壁に跳ね返されてしまった。しかも、うまく魔法が発動できなくなっているようだった。

「…っ! はっ、走れってことか…」

 僕はもう一度振り向いて崩れて落ちていく橋をみた。恐らく落ちてしまったら、かなりまずい状況になるだろう。

「……」

 ……こういう崩壊イベントはクリアしたあとだろうがぁあああ!

 僕は息を切らしながら、全力疾走でその場所に向かった。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…。疲れた…」

 死ぬかと思った…。もう走れん…。

 僕はなんとか橋が落ちる前にその建物に滑り込めた。僕はゆっくりと息を整えながら仰向けになると、天井に神族の城にあったマークを発見した。

「…まぁ…間違いはなさそうだな……。…歓迎はされてないみたいだけど……。はぁ…。よっと……。……ん?」

 僕は外の様子を見る為に立ち上がったが、その時に壁についていたレバーを引いてしまった。

 …やばい! まずかったか……!?

「……大丈夫みたいだな…? …あれ?」

 橋が元に戻ってく…。

「……なるほど…。トラップの解除レバーみたいだ…。よっ、よかった……。さてと…」

 ここでまつか…。いや…トラップの解除は一人の方がしやすいか…。それに……確かめないといけないことがある…。

「…目印はこれでいいか……」

 僕はバッグからコーラを取り出して、生ぬるいコーラを少し飲んで床においた。これで先に行ったとわかるだろう…。


 祭壇の奥に進むと、白い光が辺りを等間隔に照らしていた。ただ、明らかにゲーマーの勘としか言いようがないのだが、不自然な部屋のつくりに違和感を覚えた。

「なんか…嫌な予感がするな……。…うおっ!」

 悪い予想通りトゲのついた天井が落ちてきた。僕は急いで入口にジャンプした。あと少し遅かったら、串刺しになっていたかもしれない…。

「…あぶねぇ……」

 ここからは慎重に行かないとダメみたいだな…。

 僕は矢が無数に飛び出てくるトラップ…。宝箱を開けると作動するギロチントラップ…。巨大な玉が転がってくるトラップ…そんなRPGゲームに出てくるような王道トラップを全て解除して、安全な道にコーラの瓶を置いて上へと向かった。

 

「まったく…。手のこんだトラップ作りやがって…」

 でも…かなり進んだぞ…。もうそろそろゴールだろ…。

「…なんだ……。割と早かったじゃないか……」

 僕は階段をあがりきると、そこは大きなフロアになっていた。奥の方を見ると、扉の前にゼロは立っていた。

「…ゼロ! …ここにいたのか……」

「ああ…」

「……」

 ……本当にゼロ…なんだよな…?

「…この奥が祭壇だ……」

「…えっ!? ああ…。……なっ、なぁ、ゼロ……。……サーティスは上にいるんだろ?」

「…ああ……」

「…そっ、そっか……。そう…だよな……」

 僕がゼロに近づこうとすると誰かが僕の肩を掴んだ。振り向くとシオンさんがそこに立っていた。

「……アル…!」

「…シオンさん!? 早かったね…。…他の皆は?」

「他の皆はもう少ししたらくるはずだ…。橋を渡ったときまで一緒だったんだが、急に光が私を包んでな…。どうやら、私一人だけここに空間移動したみたいだ…」

 そうか…。シオンさんは…勇者の子孫だから…なにか特別な魔法が発動したのかもしれないな…。

「そっ、そっか…。まぁ…トラップは解除したから、皆もすぐにくると思うよ…。そしたら、上にいるサーティスを倒しに行こうと思うんだ…。ゼロもいるし楽勝だよ…!」

「……アル…。…もう…気付いているんだろ?」

「…なに……。…なんの話?」

 僕は知らないふりをした。そんな現実を受け入れたくなかった。

「私が気付いて…君が気付かないはずがないんだ…。…この上にサーティスはいない……。あいつが…ゼロが最後の……」

「なにいってんだよ! …いくら、シオンさんでも怒るよ……。なあ…ゼロ…お前からもなにかいってやれよ…!」

 僕は心の中で必死に祈った。だが、ゼロの口からでた言葉は僕の望んでいたものではなかった。

「そうだな…。バレてるなら問題ないか…。私は奴の手先だ…」

「……」

 

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