第265話

「偶然だからだ…。確かにないよりはいい…。ただ…ここに書かれている全ての音がだせる専用の楽器がいる…」

 偶然、僕の声が反応したのだとしたら納得がいく…。シャルが光ったっていったことに…。

「…それのなにがまずいの? 光ったならその音を見つけてけばいいよ。…エリックに音の出る楽器を作ってもらえばいいんじゃない?」

「確かにそうかもしれない…。ただ…シャルが反応しない所を見ると…俺達がさっきから話しているのに光ってないんだろ?」

「うっ、うん…」

「声だって音だ…。つまり…その音程や音色…。厄介なのが音の大きさだ…。そいつを見つけ出すのに…もしかしたら、世界中の楽器がいるかもしれない…」

「そんな…」

 僕達はその後で金属板やガラス、ダイヤモンド…。色々な物を作って叩いてみたが、どれも反応しなかった。

 

「一回、休憩にしましょう…。城の皆には楽器を集めてくれるよう連絡します…」

 ユキは休憩を提案してきたが、僕はもう少し挑戦してみることにした。

「俺はここに残るよ…」

「私も…」

「わかりました…。では、私は上で準備をしてきます…」

 ユキは楽器を取りに行く為に上に戻っていった。僕達は次にハープやギターのような弦楽器を作ってガンガン鳴らしたり、ドラムを作ってドンドコ叩いてみたが、全く反応もなかった。


「ねぇ…アル…どうしよう…。一つも見つからない…」

「はぁ…はぁ…。やっぱり…休憩にしよう…。ちょっと…考えたい…」

「…そうだね……」

 僕はシャルの座っている石版の前に移動して、どうするべきかを考えた。


「……」

 一つ疑問が残る…。なぜ…ステータスは上の楽譜が一発でわかったんだ? 仮にもし、あれが正解だとしたら…。

「ねぇ…アル…。…なにか飲み物持ってない?」

「…えっ? ああ…コーラなら…」

 僕はシャルに冷やしたシュワシュワのコーラを手渡した。シャルは美味しそうにゴクゴクと飲み始めた。

「ありがと…。ぷはっー…。生き返る…」

「俺もなにか飲むか…。……ん? なんだ…。…ステータス!?」

 僕が神様のバッグからコーラを取り出そうとすると、後ろが青白く光った。振り向くと、目の前の石版にはステータス画面が映し出されていた。ザッーと音のする合間になにかを言っていたが、僕には聞き取ることができなかった。

「…どうしたの?」

「ステータスだ! おい…ステータス! この音を鳴らしてくれ! …ん?」

 僕はシャルの書いた楽譜を見せたが、ステータス画面からは音は聞こえず、代わりにコップのようなものが映し出していた。僕はそれに手を触れると、ステータス画面の中からそのコップに色がついてでてきた。

「…コッ、コップが急に現れた!?」

「なんでこんなもの…。おい…ステー……。…消えてる……」

 僕が再び前を向くと、少し目を話したすきにステータス画面は消えていた。

「ねぇ…なにかシュワシュワしてるよ…。…コーラかな?」

「…えっ?」

「おいしそう…。…飲んでみたら?」

 確かにコップの中には透明な液体に炭酸のようなものが入っているようだった。

 …喉が渇いたからでてきたのか? ……いや、違う…。今までそんな事はなかった…。だとしたら…うーん…。とりあえず、飲んでみるか……。

「…うまい……」

「私にもわけてー」

「だっ、だめ…! もしかして、危ないやつかもしれないから……」

「うーん…」

 ……でも、完全にサイダーなんだよな…。

 僕は飲み干してその綺麗なコップを上に掲げて観察してみた。

「キレイなコップだね…。変な形だけど…」

「たしかに…。……ん?」

 僕はもう一度そのコップの柄を見ると大きさは違うが、上のヘイムダルとかいう銅像が持っていたものとソックリだったことに気がついた。

「どうしたの…固まって?」

「もしかして…」

 この部分は取れる感じじゃない…。なら…。

 僕は先の尖った方を口に咥えて、思いっきり息を吸って笛を鳴らすように吐き出した。

「…ぐっ……。…ああああっ!」

「どうしたの!?」

「…あっ、顎の後らへんが痛い……」

 これはやった事のある人ならわかるが、本当に痛い…。

 僕は両手で抑えて、痛みのある部分をマッサージした。

「驚かさないでよ…」

「ごめん…ごめん…」

 うーん…違うのかな…。まっ…そうだよな…。普通に考えれば穴のない笛から音が出るわけないよな…。空気が流れないんだから…。魔法でも使わない限り……。…魔法?

「…あれ…音が聞こえる……」

「なるほど…。風魔法を使うのか…。でも、メロディーがグチャグチャだな…。……うっ!」

「…どうしたの? まだ、痛いの?」

 なんだ…。音が流れてくる…。そうか…。こう吹けばいいのか…。

「…君はここから降りてくれ……」

 …俺はなにを言ってる?

「…えっ? うん…」

「……」

 僕はボッーとしながら、本来なら奏でることもできないその綺麗な曲を奏でていた。

「すごい…。石版がずっと光ってる…」

 そうか…。このメロディーが伝えたいことは終わりじゃない…。次の可能性が始まるってことなんだ…。

〈そのとおりだ…。僕はあの終わりを否定する…〉

 …お前、誰だ……。

〈僕はヘイムダルの記憶…」

 …記憶?

〈ずっと…待っていた…。君が最果ての先に来てくれなければ、こんな未来には到底いきつかなかっただろう…〉

 …俺が?

〈君と接触したあと…僕は同じ力の中に隠れていた…〉

 …まさか…お前がステータス?

〈そうではない…。彼女は神の代理者…。私よりも更に上位の存在だよ…。私は神の力を扱えたから、そこに少しだけ居ることができた…〉

 …なら、お前も俺がここに来る事を仕組んだってことなのか?

〈…結果として…力は引き合ってしまった。いや、本来ならくることもでることもできない世界にこれる者など知れているか…。そうだな…。私は仕組んだ…。力を持つ異なる世界の者がそこに来る事を…。私を恨むがいい…〉

 …別に恨んではないよ……。俺だってこの世界がなくなるのは嫌だ…。

〈そうか……。ありがとう……。なら、せめて一つでも力を渡してあげたいんだが……。私にはもう時を越えたせいで…扉を開くことしかできない…〉

 それで…十分だ…。俺はもう…十分貰ってる…。あとは…返すだけさ…。

〈ふっ…彼や彼女が気にいるわけだ…。さぁ…これで…扉は開かれた…。頼む…。未来を紡いでくれ…〉

 僕は光り輝くその閃光のなか、再び目を開けると僕はその場所に驚愕した。

 

 

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