第261話

「くそっ…! あと少しのはずなんだ…。なにか…なにかが…足りない…」

「そっ、そうかもしれないね…。へっ、へっ…へっくしょん! ここ…水はけが悪すぎるよ…。これじゃあ、風邪ひいちゃう…。一回、戻ろうよ…」

「確かにな…。…ん?」

 僕はその時に閃いた。わざとここの部屋の水はけを悪くしているのだとしたら、面白い方法がある事を…。

「へっくしょん!」

「ノスク…」

「わかってるよ…。帰るんだね…。寒っ……。あっ…ごめん…」

 ノスクは通路に移動して、体をブルブルと震わせて水を辺りに飛ばしてきた。

「いや、ちょっとだけ待っててくれるか…。一つ試したいことがあるんだ…。少し離れててくれ…」

「うっ、うん…」

 僕は水に手を突っ込んでラタトスクを発動して、大量の雷魔法を水に流した。

「…いけっ……! さぁ…これでどうだ…」

「…アル、あそこ…ひかってるよ!」

 僕とノスクは水しぶきをあげながら走った。すると、壁に描かれていた世界地図のとある箇所が光り輝いていた。

「ここは……エルフの城だな…」

「残念…だね…」

「一回、戻るか…」

「うん…」

 僕達は一度エルフの城に戻って、体を拭いて暖まった。ノスクは乾きが悪く、ドライヤーをアナスタシアさんに借りてきて僕が乾かしてやった。


「……」

 多分…相当近いところまではいってるはずだ…。

 僕がボッーとして考え込んでいると、ノスクは振り返ってドライヤーの風を受けた。

「…とっ、とめて!」

「ああ…ごめん…」

 僕はドライヤーのスイッチをきって、ノスクの剣を見ていた。

「なにか…別の方法じゃないと見れないのかな? …あの壁を空間移動とか?」

「うーん…。それは…違うと思う…。水をかけて気付かせたんだ…。きっと…水に関係あるものだ…。…あれ?」

 …どうして…俺の水でできたんだ? できたら、ダメだろ…。こういうのは…。

「うーん…。僕の剣からすごい水魔法でもだせたらよかったのに…」

「……それだ!」

「…えっ?」

「…精霊水だ」

 僕はエリックの考察を話した。雷をも跳ね返す水魔法の事を…。

 

「ノスク…このコップに水を入れてくれるか?」

「うん…」

 僕はコップの中に親指と人差し指を入れて電気を流してみた。

「……」

 少し…流れてる気がする…。

「…ダメみたいだね……」

「ノスク…お前だけが頼りなんだ…。頼む…」

「うっ、うん…」

 その後、何度やってもダメだった。むしろ、やればやるほど最初のときよりも悪くなっていった。

 

「そろそろやめよう…。これ以上やっても無駄だ…」

 なにか…別の方法を考えないと…。今から探して間に合うか…。

「…アル…僕に電撃を流してよ……」

「えっ?」

「多分、僕自身に雷魔法をくらわないとダメな気がする…。僕にはイメージがどうしてもわかないんだ…」

「それは…そうかもしれないけど…」

「じゃあ…決まりだね…」

「いや、危ないって…」

「今から、もっと危険な目にあうんだ…。これくらい乗り越えられなくちゃダメだよ」

「…ノスク……」

 僕達はネズミの墓場にもう一度移動すると、やはり水は抜けていなかったが、ある一定の高さには水が上がらないように段差があり、壁には穴が空いていたようだった。ノスクはジャブジャブと再び水の中に入っていき、僕はそれを見守った。

 

「…本当にいいんだな?」

「うん…。いいよ…」

「…いくぞ……」

 ノスクは部屋の中心に立ち、精神を研ぎ澄ましていたようだった。僕はノスクが返事をして足元に水魔法を発動すると、ラタトスクを発動して雷魔法を水に流した。すると、ノスクは悲鳴をあげて床に倒れた。

「…にゃあああ!」

「…大丈夫か!?」

 僕は雷魔法を止めて駆け寄ると、ノスクに止められた。

「アル…僕が倒れて声をだせなくなるまでは止めないで…。僕だって…頑張ればきっとできるんだ…。明日死ぬかもしれないのに…。ただのダメなニャートじゃあ…かっこ悪いだろ?」

「ノスク…お前…」

 ノスクは剣を支えにして起き上がった。僕はもう一度床に手を付けた。

「いいよ…」

「…いくぞ……」

「…にゃあああ!」

 一時間が過ぎた辺りだろう…。ノスクの悲鳴は止まり、完全に雷魔法が通らなくなった。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る