第243話

「…倒したんだよな?」

 エリックは心配そうな顔をして僕に尋ねてきた。僕は空を見ながら答えた。

「多分、大丈夫だよ…」

「…どこみてるんだ?」

「…鎖が浮いてるんだ」

「…鎖?」

 僕は紫色の大きな鎖をみていた。やはり、倒したら鎖が見えるようになるようだった。だが、安心したというよりは不気味さを感じた。

「まっ、大丈夫だよ! 倒してるって…」

「そっ、そうか…。倒したんだよな…」

 エリックはなぜか暗い顔をしていた。まるで、罪悪感に浸るような表情だった。

「…どうしたんだ?」

「実はな…。少し前にキメラのことを調べたんだ…」

「キメラのことを?」

「どんなクソ野郎なのか…ってな…。予想通りクソ野郎だったよ…。でも、完全なクソ野郎ってわけでも無かった…」

 エリックは急に下を向いた。

「どういう意味?」

「あいつは数十年前に家族を事故で失ってたんだ…。そこから、おかしくなっちまったらしい…」

「……」

 エリックは拳を握りしめていた。僕は何も言葉を発することができず、エリックの話を聞いていた。

「あいつは失った家族を取り戻す為に、とある研究をしていた…。…死者の復活だ」

「…そんなことできるのか?」

「いや、できなかった…。できなかったから、ああなったんだ…。まぁ、神様くらいだよ…。そんなことできるやつ…」

「……」

「その為に力を追い求めて…。自らをキメラにしていった…。まあ…当の本人は副作用で初めの目的すらも、忘れているんじゃないかな…。力を手に入れること以外は…」

「悲しいやつだな…」

 僕は同情してはいけないキメラに、ほんの少し同情した。

「まっ、そんなことはいいんだけど…。ただ…今でも、気になってたことがあってな…。時折、本の間に挟まっていた、あのキャンディー…。あの味が忘れられないんだ…。あれは…あいつに残っていた最後の良心だったのかな?」

 エリックは真っ直ぐな目をして僕を見ていた。何かを言ってほしそうな様子だった。

「…あの時は辻褄を合わせる為にいったけど、エリックを本当に誰もいない場所に連れ去ったほうが研究は捗ったはずだ…。空間を操る技術を持っていたようだし…」

「だよな…」

「そもそも、その時にウルと出会ってたのかもわからない…。魔族の国も、もしかするとまだ乗っ取られてなかったんじゃないかな…」

「なら…」

「うん…。正直、あそこはエリックを閉じ込める場所にしてはあまりにもバレやすいところだった…。いくら、ドワーフの王国から離れてるっていってもだ…。もしかして、誰かに気付いてほしかったのかもしれない…」

 僕はエリックの方を向いて真剣に答えた。

「……」

「ただ…そんなことをしたからって、帳消しにはならない…。エリックにした事はやっぱり許されない事なんだ…。それだけは間違いない…。絶対に許しちゃダメだ…」

「だな…」

「でも、いつか会えるといいな…。家族に…」

 僕は空を見ながら地面に座った。曇った空は少しずつ晴れていった。

 エリックは地面に座って、空を見上げていた。

「はははっ…。当分、無理だろ…。あいつは地獄行きだからな…。でも、まあ…。いつかは会えるといいな…。おっ…! 皆、無事みたいだな…。…船に戻るか!」

「ああ、そうだな!」

 

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