第242話

「…終わりみたいだな」

「ばっ、バカな……。こっ、こんなはずでは…。ぐゔぅおおお…」

 雷の力がなくなったキメラはボロボロと崩れていき、元の姿に戻るとバタッと倒れた。

「ふぅ…なんとかなったな…」

「一時はどうなることかと思ったけどな……」

「よし……。…ん? …あれ!? あいつ、どこにいった!?」

 いない!? まだ、消えてないはずだ…。

「…アル、あそこだ!」

 少し目を離したすきに、キメラは雷のエネルギーを吸い込んだ物質へ一歩一歩近づいていた。ただ、触れられないように鋼よりも硬い透明な物質で覆ってはある。僕は奴の意識を奪う為に影の弾丸を狙いすまして一発打ち込んだ。

「…くらえ! ……なにっ!?」

 影の弾丸は奴の体を通り過ぎて、エネルギー物質の中にスッと吸い込まれていった。

 なんでだ!? あたったのに…! …くっ! うまく発動できてないのか!

「おい、なにかする前にあいつを止めるぞ!」

「ああっ!」

 僕とエリックは走って止めにいった。キメラは恍惚の表情を浮かべていた。

「こっ、この力は私の……。私のもの…だ…。私の…力だ…。手に入れた…ぞ…」

「無駄な抵抗はやめろ!」

「諦めるんだな!」

「お前たちには渡さん…。もう二度と離さんぞ…。あぁ…やっと手に入れた…」

 奴がそれに触れると強烈なエネルギーが流れて、キメラを一瞬で灰に変えた。

「…なっ!?」

「…おっ、おい! なんだ…。…様子が変だぞ!」

「まさか…」

「おい…天井が崩れ始めたぞ…」

 僕は嫌な予感が頭に浮かんだ。そう…ドゥラスロールⅣだ。全てのMPを利用して爆発的なエネルギーを発生させる。あの恐ろしいスキル…。あれが何らかの理由で発動してしまったのかもしれない…。

「もしかして…爆発するかも…」

「…はぁ、爆発!? どういうことだよ!」

「爆発っていうか…。なんていうか…。似たようなものをコビットの国で見たことがあって…。この辺り一帯消し飛ぶと思う…」

「なっ、なんだよ…。驚かせやがって…」

「…えっ?」

「この前、コビットの国にいったけど、そんな地形はなかったぞ? 無効化する方法があるんだろ?」

 エリックはまだ心に余裕があるようだった。次の言葉を言うまでは…。

「そんなのない…。あの時は空中だったからよかったんだ…。多分、そんなに持たない…。あと、数十秒とか…」

「…どっ、どうする気だ! …おっ、おい!? なっ、なんか、時空が歪み始めたぞ! 早くしないとやばいんじゃないのか!?」

「だから、いま考えてるんだよ!」

 エリックは僕の服を揺らして、冷や汗を垂らしながら焦っていた。僕は必死にこの状況を打開できるような案を考えた。

 ラタトスクを発動して一時停止…。いや、そんな暇もなさそうだ…。できるだけ、硬くして外に…。いや、外に持っていくより、ここでエネルギーを開放したほうが…。

「…おっ、おい!」

「エリック、邪魔しないでくれ! 今、考えてるから…。…ん?」

 エリックの方を見ると僕に話しかけているはずなのに、なぜか僕の方を見ていなかった。僕は不思議に思って、エリックの目線の先を見ようとすると、黒いフードを被った人物が、どこからともなく現れて横を通り過ぎた。

「…詰めが甘いな……」

 …こいつ、誰だ……? …どこから現れた? 全く気配を感じなかったぞ…。

「…あいつだ! 俺を助けてくれたやつは…」

「…えっ? …こいつが? …って、なにしてる。…おっ、おい、危ないぞ! 早く離れ……」

 仮面をつけて黒いフードを被った人物は暴走したエネルギー物質に近づき、光り輝く妙な水の魔法を発動していた。

「なっ、なんだ、この光…」

「…何する気だ……」

 止めたほうがいいのはわかってる…。でも、なぜか足が動かなかった。恐怖とかではなく、この感情はまるで…。

「……きっ、消えた!?」

「…なっ!?」

 眩しい光で僕は目を閉じて再び開けると、暴走したエネルギー物質と黒いフードを被った人物はどこにもいなかった。僕はまるで夢でも見ていたような感じがした。

「…アル、終わったのか?」

「…一応、そうみたいだな」

 僕達はなにが起きたのか理解ができず、ただただ見ていた。

「…今の…なんだったんだ?」

「…わからない……。でも、上が心配だ…。実はまだ生きてるって、オチもあるかもしれないし…。皆のことも心配だ…」

「そうだな…。確かにその通りだ…。用事もすんだし、あんまりこんなところに長くいるもんじゃないな…。急いでここからでよう!」

 僕達は崩れかけた洞窟から脱出した。周りの風景を見ると、雷は消えてウヨウヨいたゾンビモンスターも消えていた。

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