第211話

「…で、これはどういうことなんだ?」

 僕は気のすむまでアリスを抱きしめた後、神様を問い詰めた。神様は目をそらした。

「いっ、いや〜…。どういうことなんでしょうね〜。不思議な事もあるもんですね…」

「シャルから聞いたんだけどな…。アリスが連れ去られたって…。確かノルンって子もおんなじ事をいってたから、間違いないって…」

「はははっ…。まっ、まぁ、敵を騙すにはまず、味方からといいますか…。私も予想外のことが起きたので…」

「……」

 神様は僕の無言の圧力に耐えられなかったようだ。涙目になって僕の服を揺らしながら話だした。

「だっ、だって、仕方ないじゃないですかー! 私がいっちゃうと変なことに…。わっ、私だって苦しんだんですよ! そんなに責めますか! わっ、私を!? そんなに!?」

「わっ、わかったって…。まっ、確かに…。確かにそうかもしれないな…。…ん?」

「わかってもらえてなにより…。…あれ? どうしました?」

 急に船が揺れながら真横に動き出し、僕は嫌な予感を感じた。すぐに立ち上がり、状況を確認した。

「まずい…。ヘルが暴走してるのか…」

 …くそっ! サーティスのやつがいってた事は本当だったのか!

「…どうしたんですか!? って、なんで飛んでるんですか!? いっ、一体どこにいくつもりですか!?」

「…ちょっと、やり残した事がある。…最後の仕事だ!」

 

 僕は高速で空を飛び、穴の中心の上にたった。海水は異空間にどんどんと落ちていた。

 でかい…。なんてデカさだ…。普通の状態じゃ無理だな…。

「ステータス…。ヴェズルフェルニルをスキルチェンジして発動だ…」

「了解しました…。準備します…」

 僕は鎖を強く握った。

「……」

「準備完了しました…」

 もう一回だけ…。もう一回だけもってくれよ…。

 僕は鎖を勢いよく外して穴の近くに向かって逆さまになって落ちた。

「ステータス、いくぞ!」

「了解…」

 …ヴェズルフェルニル発動!

 僕は右手を押さえた。すると、僕を中心に透明な膜のようなものが、円のように広がっていき、広がりつつあるヘルを徐々に塞いでいった。

 …閉じろ、閉じろ、閉じろぉおお!

「…うぉおあああ!」


 僕は全ての事が終わったあと、船の上に戻った。

「たっ、ただいま…」

「えっ!? アッ、アル…!? どうしたの!? はっ、早く誰かきて! アルに回復魔法を!」

 自分ではよく覚えていないが、ヘロヘロな状態で戻ったらしい…。…可愛らしく言ってみたが、本当はかなりひどい状態だったようだ。普通なら生きているかも怪しい状態で…。

「おっ、おやすみ…」

「きゃあぁあああー!」

 思いっきりその後、船の床に体を打ちつけた。痛みはなかったが、かなり大きな音がした気がする。そして、僕は気を失った。


「もうクソゲーなんて…二度と…やら…。ぐへっ…。…ん?」

「よっ、よかった…。起きたのね…」

 僕が起きると、部屋の中で寝かされていた。どうやら、お昼のようだ。

「…ん? アリスか…。…とりあえずは成功ってことでいいんだよな?」

「成功じゃないわよ!」

「なに!? どういうことだ!? 塞がってないのか!?」

 僕は起き上がってアリスに尋ねるとアリスはため息をついた。

「はぁ…。ちゃんと塞がってるわよ…」

「なんだよ…。驚かせて…」

「あんまり無茶しないでよ…。本当に死んだかと思ったんだから…」

「了解…。そういえば、今はどういう状態なの?」

 目が覚めてアリスに状況を確認すると、リアヌスが他国に上手く働きかけてくれたようで魔族の国との全面戦争は避けられたようだった。

 

「なるほど…。もう帰ったのか…。リアヌスには後でお礼いっとかないとな…」

「そうね…。そういえば、伝言を頼まれてたわ…。暇になったら私の国にくるといい…。歓迎するって…。…いつから、そんなに仲良くなったの?」

 アリスは不思議そうな顔をして僕を見ていた。

「まっ、色々あったんだよ…」

「ふーん…。あっ、それとこんなこともいってたわ…。魔族の国から帰るときに神族の国によるといいって…」

「…神族の国?」

「なんで疑問系なのよ…。あなたは神族の王様になったのよ?」

「そっ、そういえば、そうだったな…」

「っていうか、知らないとこで魔族の王様にもなってるし…。うーん…。魔神王ってどこかしら…」

 魔神王ね…。なかなかすごい響きだ…。

 僕はそんなことをスッカリ忘れていた。

「それと、神様にちゃんとお礼いってよね…。すっごい回復魔法かけてくれたんだから…」

「ああ、そうだな…。神様に…。…えっ? …バレてるの?」

 アリスはやれやれといった顔で僕をみていた。

「まぁね…。私以外はとりあえず知らないけど…」

「そっ、そう…」

「でも、なんか知る前より、知ったあとの方が疑わしいわよね…。あの神様…」

「まっ、まぁな…」

 今頃、神様はクシャミをしているだろう。

「さてと、アルが目を覚ました事、皆に連絡してこないと…」

「まっ、まって…。アリス…。そういえば、ここどこ?」

「どこって? 魔王城の近くの宿屋よ」

「…魔王城?」

 どうやら、僕が寝ている間にユキやエリックと精霊達が元の位置に戻したらしい。僕は服を着替え、皆に会いに行った。


 

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