第205話

「…君は不思議な感じがするね。なんだか…。…って、ああっ! ごめん! 僕がボッーとして歩いてたせいだ…。服汚れちゃったね…」

 目の前の人物は片手を差し出した。

「いえっ、私こそ…。…えっ!? 男の人ですか?」

「そうだよ?」

 確かに服装や体つきをみれば男の人っぽい感じもするが、中性的な顔をみると女の人にしか見えなかった。

「すっ、すいません…。変なこと聞いて…」

「いいよ。たまにいわれるしね…」

 私はその人の手を取り、立ち上がった。

「あっ、ありがとうございます…」

「よっと…。僕の名前はウル…。君の名前は?」

「私の名前は、アリ…」

「…アリ?」

「アッ、アリアです…」

 私は咄嗟に偽名を使った。流石に王女がここにいるとは思わないだろうが、バレる可能性は消しておきたいからだ。

「アリアね…。いい名前だ…。そうだな…。服を汚してしまったし、なにかお詫びをしないとな…」

「いっ、いえ、そんな事いいですよ…。わたし、いきますね…」

 私がどこかに行こうと思っていると、彼はノルンを指差した。

「いくっていっても…。あの子がまだ並んでるよ?」

 彼は大行列に並んでいるノルンを指差した。私はノルンの魔法が消えていることに驚いた。

「えっ、ええっ!? ごっほん…。そっ、そうですね…。ついうっかり…」

「…じゃあ、あそこのカフェにでもいこうか?」

 彼はお店の外にある座席に私を連れて行った。彼はウェイターを呼び、いくつか適当に頼んでいた。

 うーん…。まっ、まぁ…時間も掛かりそうだし…。少しぐらい、いいか…。

 

「よっと…」

 私が椅子に座ると彼は私の手を急に握り、変なことを喋りだした。

「…君は運命を信じるかい?」

「…運命ですか? 私は信じませんね…」

「そうか…。僕は信じてるんだ…。君とここで会えたのも、なにかの運命だと思うんだよ」

「そっ、それって…。もしかして…私の事を口説いてます?」

 彼は手を離すと、右手を横に振り白い髪を揺らしながら笑い出した。

「はははっ、違うよ。単純に聞きたかっただけなんだ」

「そうですか…」

「ごめんね…。急に変なこと聞いちゃって…。僕ね…すっごい僻地からきたんだ…。それで、ここについたら迷子になってね…。このへんのこと聞きたかったんだ」

「なんだか、アルみたいな…。ごっほん…。そうなんですか…。…でも、なにしにここへ?」

「僕は考古学者でね…。ほら、こんなものとか…」

 彼はどこからか小さな三角形の石や宝石、それに小さな石像を取りだした。

「変わったものですね…」

「どれもいろんな文明の遺物でね…。いろんな想いが詰まったものなんだ…。こういうものをみると少し安心するんだよ…」

「ロマンチックなんですね」

「いや〜そういうわけじゃないんだけど…。はははっ…。まっ、いいか…。それでね…ここにある遺跡を探しにきたんだ」

「ある遺跡?」

「すっごく迷ったんだけどね…。ここにくるまでの条件が、かなり難しいかったから…」

 彼は何かを思い出すように遠い目をしていた。私はふと後ろをみると、ウエイトレスが料理を持って迷っていたようなので手をあげた。

「ここです…。わ〜すごい…。…おいしそう」

「確かにおいしそうだ…。いただこうか?」

 私達は料理を食べることにした。

「おいし…。さっきの話に戻るんですけど…。なんの遺跡を探してるんですか?」

「…勇者の祭壇だよ。…知ってるかい?」

「えっ、ええ…。話ぐらいは…」

「まあ、なかなかみつからないんだよね…。でも、今ならみつけられる気がしてきたんだ…」

「みっ、みつかるといいですね」

「そうだね…。ところで、話は変わるんだけど、さっきのアルって誰なんだい?」

「えっと…。さっ、作家の卵なんです…」

 私はドリンクを飲んだ。ほろ苦い味の中に甘みがあった。

「もしかして、みんなが噂してるエルフの王国を救ったアルって人かい?」

 この人、知ってるのか…。うーん…。

「そうですね…」

「確か回復魔法の達人って聞いたんだけど…」

「そっ、そうですね…」

「…その人に会えないかな?」

「今は無理だと思いますよ…。でも、どうして会いたいんですか?」

 彼はコップをテーブルに置き、にっこりと笑った。

「先輩だからさ…。実は僕も回復魔法が使えてさ。お城で師団を作るって話がでててね…。雇ってもらうことになったんだ…」

「へっ、へぇ〜。そうなんですかー…」

「ってことで、よろしくお願いしますね。…お姫様?」

「こっ、声が大きいです!」

「ははっ、君のほうが大きいよ。黙っててあげるから、少し僕の目を見てくれないかな?」

「…目ですか?」

 私は彼の黄色い目をジッとみた。

 

「アッ、アリスさん!?」

 私は服を引っ張られ後ろをみると、ノルンが涙目になっていた。

「どっ、どうしたの!?」

「どうしたもこうしたもありません! 私の番で売り切れになるし、帰ってみたら私に黙って食べてるし…」

「ごっ、ごめん…。それより、ここに男の人いなかった? 白い髪の…」

 私が尋ねるとノルンは首を横に振った。

「…いえ、いませんでしたよ?」

「そう…。帰ったのかしら…。…あっ! っていうか、魔法が解けちゃってるよ! もう一回かけてよ!」

「…なにいってるんですか? ちゃんとかかってますよ? 夢でもみてたんじゃないですか? …あれ? でも、コップが二つありますね…。まさか、私の分まで…」

「ちっ、違うよ! ほんとにいたんだよ…。まっ、まぁ、いいか…。ノルンちゃん、帰ろう?」

「帰りますか…。はぁ…。いつか、食べたいですね…。あのお菓子…」

「まっ、また今度、買いにこよ?」

「そうですね…。はぁ…」

 私達は城に帰ることにした。その時、妙な言葉が頭に浮かんだ。

「…えっ!?」

 なにっ…。今の声…。ありがとうって…。…気のせいかしら?

「…どうしました?」

「ううん…。なんでもない…。…いこ?」

 私はノルンの手を引っ張り、早歩きで城に帰っていった。

 よし…。これで皆と一緒に戦える…。

 

 私は内心喜んでいた。だが、そんな甘い期待を打ち破るような事件が城の中では起きていた。

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