第204話

「やっとついたわ…」

「ここですか…」

 教会につくとシスター達は運良く買い物にいくところだったので、私達はカギを閉められる前にこっそりと中に入りシルフィのいる部屋に入った。

「おじゃまします…」

「さてと…。どこかに座るとこが…」

「ええっと…。…これ使っていいかしら?」

 私は真新しい丸椅子をノルンの近くに置いた。

「よいしょっと…。でも、この人よく生きていましたね…。こんなに長い間魂が離れていたのに…」

「…そうなの?」

「まぁ、よほど手厚い看護を受けていたのか…。体質的なものか…。まぁ、先に治しましょうか…。それでは魔法をかけます…」

「うっ、うん…」

 ノルンは両手をシルフィの体の上において呪文を唱え始めた。しばらく見守っていると、ノルンは頭を傾げた。

 

「…ん? う〜ん…。なんですかね…。…これ?」

「…どうしたの?」

「…いえ、シルフィさんに妙な気配を感じるんです」

「…シルフィさんが近くにいるんじゃない?」

「そうですかね…。まぁ、さっさと治しましょう…。…ふっ、ふっん!」

 ノルンは目をつむり再び魔法を発動した。すると、シルフィさんの体が輝きだし妙な光が私の中に吸い込まれていった。

「えっ、えっ!?」

「ふぅ〜…。いい仕事しましたね…。これでもう少ししたら目覚めると思いますよ。…ん? …どうしたんですか? 妙な顔をして…」

「今、何かが入ったんだけど…。失敗してない?」

「しっ、してませんよ! 失敬ですね…。でも、確かに妙な気配が…」

「うっ…。なにこれ…」

「大丈夫ですか!?」

 困惑していると妙な声が頭の中に聞こえ、私は膝をついた。

「ありがとう…。お前たちのおかげで契約は果たされた…」

「…なっ、なに、いってるの!?」

「前の契約者にこの子を助けるようにいわれてたのだ…。だが、私の力では無理だった…。命を存えさせることぐらいしか…」

 私が片目を開けると妙な影が、シルフィさんの頭をなでていた。

「…あなたは…誰?」

「お前が求めるもの…。我の名をよべ…。さすれば力を与えよう…。我の名は…」

「……シ…ル…フ?」

 私が名前をつぶやくと心地良い風が吹き、緑色のオーラが私をつつんだ。

「だっ、大丈夫ですか!? 今、一体何が!?」

「…うっ! …ここにいたんだよ! 風の精霊が…」

「どういうことなんですか!?」

「ええっと…。詳しい事はわからないけど…。そろそろシスター達が帰ってくるかもしれないし、城に帰ろう…」

 私が提案するとノルンは私の手を握って起こしてくれた。

「そうですね…。では、外にでましょうか?」

「…そういえば鍵はどうしよう?」

「大丈夫です。鍵の形は覚えましたから…」

「そっ、そう…」

 なんだか…。泥棒みたいね…。

 私がノルンを変な目で見ているとバレてしまった。

「私の顔をジッーと見て…。絶対に悪い事を考えてるでしょ? 例えば泥棒みたいだとか…」

「そっ、そんなことないよ! そっ、そうだ! 帰ったら美味しいものでも食べよ!」

「私はそういったものは食べなくても平気なんです」

「そっ、そう…。じゃあ、なにか別のものに…」

 私が他の事を言いかけると、ノルンは私の体を揺らした。すごく必死な目だった。

「たっ、食べなくても平気なんですが、食べられないことはありません。どっ、どうしてもというなら、頂きます!」

「そっ、そう…。わかったから、頂いて下さい…」

「ふぅ…。仕方ありませんね…。そこまでいわれては私も断るほうが無粋というものです…。キレイに平らげましょう」

「……」

 私達は教会をでて城に戻っていると、ノルンは急に立ち止まり、私の服を引っ張り小声で話しかけてきた。

 

「ちょっ、ちょっとみてください!」

「どうしたの?」

「なんですかね? あれ?」

「みたことないわね…。子供が集まってるし、お菓子かしら…」

 それはピンク色をした巨大な綿のようなものだった。恐らく異国のお菓子だろう。

「……」

「…食べたいの?」

「いっ、いえっ、そんなことは…。城まで我慢しますよ」

「…おっ、お城にはないよ」

 私がそういうとノルンは悲しそうな顔をしていたので、ポッケにいれたコインを渡した。

「これで買ってきていいよ」

「いえ、そういうわけには…」

「じゃあ、私の分も買ってきてくれないかな? 残りはお駄賃ってことで…」

「そっ、そうですね…。そういうことなら…。神様をパシリにするなら、これぐらいなら安いものですよね!」

 ノルンは駆け足で遠くの方にある駄菓子売り場に向かった。

 …あの子、本当に神様なのかな。

 私がそんな事を思っていると、急に何かがぶつかった。

「いったー…」

「うっ…。ごめん…。大丈夫だったかい?」

「…え?」

 どうやら私が声をだしたせいで、魔法が解けてしまったようだった。

 


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る