第183話

 ルアは怒って立ち上がったかと思うと涙目になって、そのままゼロに抱きついた。

「おっ、おい…。抱きつくなって…。どうせまた、うっ…。よっ…よしよし…」

 ゼロは困った様子で頭をなでていた。今度は本当に泣いているようだ。

「アル、こんな子供の言う事を聞いてる場合じゃないにゃ」

「そうだぜ…。一刻も早く援軍を呼ばないと俺たちだって、やばいことになるぞ?」

「エリック、ノスク、聞いてくれ。この子は普通の子供じゃなくて…。なんていうか…。まぁ、後で説明するから…。今はルアの話を聞いてやってくれ」

「聞いてやってくれ? 相棒までそんなこというのか…。怒った…。もう教えない…」

 まずい…。このモードに入ると長い気がする…。

 僕は焦ってゼロにすぐに声をかけた。察してくれという気持ちを伝えるため、目をできるだけ大きくして…。

「ゼッ、ゼロは興味あるよな?」

「わっ、わたしが!?」

「ぐすっ…。…そうなの?」

「いや、私は…。まぁっ、まぁ聞いてみたい気持ちはあるが…」

「…気持ちだけ?」

「聞いてみたい…。ぜひ、聞かせてくれ…」

「ぐすっ…。まぁ、そこまでいうなら教えてあげる…。じゃあ、まずは…」

 よかった…。機嫌が少し直ったみたいだ。

 そう思った途端、ルアはとんでもない行動をとった。ルアは地図を手に取ると、思いっきりビリビリと破ったのだ。

「あっ、ああー! ルア、なんてことするんだ!?」

「こっ、このガキ!?」

「バッ、バカー!」

 僕達は焦ってつい大きな声をだしてしまった。

「文句があるんなら、もう説明やめる…」

 どうするかな…。でも、怒ってやってる感じには見えないんだよな…。

 僕は振り返って二人に説明した。

「ごめん…。もう少しだけ、ルアにやらせてくれないか? 責任は俺が取るから…。地図も後で直しとくし…」

「まぁ、それならいいんならいいけどよ…」

「僕もだにゃ…」

「ルア、頼む…。続きを…」

「じゃあ…」

 ルアはまたビリビリと地図を手に取り破った。

「でも、一体なんで破ってるんだ?」

「…ふんっ」

 ルアはそっぽを向いて、僕の声を聞いてないような態度をとった。

「ゼロ、頼む…」

「…おっ、教えてくれないか?」

「多分、こうなってる…」

「こうなってるって…。これは…」

 ルアが破った地図を見ると先程、指差した箇所に魔王国の地図の一部がのっかっていた。

 これはまさか…。…そういうことなのか?

「やっぱり、時間の無駄だったな…」

「そうだにゃ…」

「二人とも、黙って!」

 僕はルアの肩を掴んで再度尋ねた。

「…ルア、本当にそうなのか?」

「多分…。なんとなくだけど…。そう思う…。あと、地面の下は海じゃなくて…別の空間につながってる…。多分、一回落ちたら誰も助からない…」

「…なんだとっ!? …エリック、座標を調べる方法はあるか!?」

「まぁ、あるけど…。道具もないし…。というか、こんなバカな話を信じるのか?」

「そうだにゃ…」

「俺は…信じる…」

「相棒…」

「それにこんな状況になってるんだ。かえって常識は邪魔になる…」

「確かにバカげてるが、確かにそうかもな…。今回は常識が通用しなさそうだ…。でも、太陽石なんてこんなとこに…」

「…太陽石?」

 前に作った気がするな…。

「ステータス、太陽石を作れるか?」

「了解…。生成開始…。生成中…。生成完了しました」

 僕の右手に小さく輝く結晶のような透明な石が現れた。

「ほんと、なんでもできるんだな…。少しかしてくれ…。座標は覚えてるから調べてくる」

 すっ、すごいな…。

「まかせた、エリック」

 エリックが牢屋からでていったのを見ると、僕は再びルアに尋ねた。

「他に気になることがないか?」

「ほか? うーん…。あっ! そういえば、魔物達の様子がおかしかったんだ」

「魔物達の?」

「うん…。ついてきて…」

「わかった…。ノスクは、ここでまっててくれ…。エリックが帰ってきたら連れてきてくれ」

「了解だにゃ」

「ゼロは一緒にきてくれないか?」

「仕方ないか? ほら、行くぞ…。小僧…」

「小僧じゃなくてルアだよ! さっき話しただろ」

「しらん…」

「しらんって…。話したじゃないか!? 俺の正体とあとは…」

 ルアはゼロに口を抑えられモゴモゴと言っていた。

「わかった…。私の負けだ…。ルア、さっきの話は二人だけの秘密だ…」

「二人だけの秘密? なんかカッコいいな!」

「はぁ…」

 僕達は三人で牢屋をでて闘技場に向かった。

 

「それで、なにがおかしかったんだ?」

 僕は階段を降りているときにルアに尋ねてみた。

「多分、あいつら状態異常にかかってるんだ…」

「…状態異常?」

「相棒みたいに治そうかと思ったんだけど、俺にできるのはケガを治すぐらいだな」

「…お前、そんなことできたのか?」

「みたい…。でも、変なんだよな…。こんなこと、元々はできない気がするんだけど…。…まっ、いっか!」

 ルアは能天気に腕をくんだ。

「それでどんな状態異常なんだ? 多分、洗脳系かな…。あいつら、なにもみえてないんじゃないかな?」

「…どういう意味だ? 透明になってるからじゃないのか?」

「そうじゃなくて…。…ん? ついたみたいだ…。まぁ、みればわかるよ…」

 ルアが重そうな金属製の扉を開けると、そこには信じられない光景が広がっていた。

 



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る