第176話

「…あいつはなんなんだ? …味方か?」

「ルッ、ルアは僕の分身で…。そっ、そんな事より早く止めないと!」

「…分身? …ゴーレムみたいなものか?」

「そうなんだけど…。そうじゃないっていうか…」

 …どうする? …あのバカッ! 考えなしにでやがって…。あーもう…。どうするんだ、これ!?

 僕が頭を抱えているとゼロは胸元を掴んだ。

「おい、聞いているのか!?」

「ごっ、ごめん…。…なに?」

「ゴーレムと同じなら、さっきの奴は放っておいても死なないんだろ?」

「えっ? ああ…たぶん…」

「たぶんか…。まあいい…。お前はお前でカギを手に入れてこい…。あいつが騒ぎ立ててる間にな…。これはチャンスだ…」

「…チャンス?」

 …どういう意味だ?

「ああ、あいつも同じ服を着ていた。つまり、透明化した状態で闘技場を荒らしまわってるはずだ。異変に気付けば警備の手もそっち側に動く…。お前も透明化しているといっても、警備が薄いほうが動きやすいだろう?」

「まっ、まあ、そうだけど…」

「わかってるんなら、サッサと行け! 危なくなったら、あいつも逃げるだろ…。もしものときは私がでてやる…」

「わかった…。頼んだよ、ゼロ…」

「任せておけ…」

 僕はゼロの返事を聞くとステータスに再度問いかけた。

「ステータス! ドゥラスロールはどうやって扱うんだ!?」

「現在、スキルは保持の状態です。全てのスキルは発動しています」

 …保持? …全てのスキルは発動はしている?

「よくわからないけど、魔法みたいに普通にイメージすればいいのか?」

「はい…」

 やってみるか…。

 僕は檻をすり抜けるイメージをした。

「…うおっ!?」

 途端に景色が変わり、まるで急にテレビのチャンネルを変えられたかのような気分になっていた。

 すごいな…。これ…。よっ、よし…行くか!

 

 僕は足音を立てずに牢屋を進んでいくと、そこには様々な種族が牢屋に捕らえられていた。絶望した顔をして…。

「……」

 くそっ…。後で助けてやるからな…。

 僕は周りを確認しながら、ゴブリンたちが入ってきた扉を探した。

 

「……」

 …ここか? 一際、明るい…。行けるか…。

 僕は誰かいないか確認する為、扉に耳をやったが特に人の気配は感じなかった。僕は慎重にゆっくり、ゆっくりと扉を開けた。

「……」

 誰もいない…。確かに警備が薄いみたいだ…。

 警戒しながら、そのまま通路を進むと今度は階段が現れた。

「……」

 上か…。下か…。まあ、上に行ってみるか…。下は闘技場に繋がっているんだろう…。

 階段の下の方を見るとゴブリン達が気絶していた。恐らくルアがやったのだろう。僕は予想を立てて狭い階段を上がっていった。

 

「……」

 なんだこの扉…。全然押してもビクともしない…。まいったな…。

 階段を進んでいくと頑丈そうな鉄の扉が現れた。本当にビクともしない。

「……」

 鍵穴が見つからない…。恐らく外から鍵がかけられてる…。壊すしかないか…。…ん? …まずい、足音がする。…誰かきた!

 僕は空中に浮かび上がり、壁に手をついた。しばらくすると豚顔をしたオークらしきやつを先頭にしてゴブリン達の集団が入ってきた。

「……」

 オークもいたんだな…。というか…。あいつカギを持ってる…。仕掛けるか…。…っていうか、なんだ…この音…。チュウチュウって…。

 音のする方へ振り向くと、通気口らしきとこから大きなネズミが顔まであと数センチというところまで迫ってきた。

「ぎゃあー! ネズミィー!!!」

 …しまった。声をだしてしまった…。

「おい…。今、誰か声をだしたか?」

 まずい…まずい…まずい、まずい。

 僕がどうしようかと考えていると、オークとゴブリン達が辺りを警戒し始めた。

「いえ、誰もだしていないようですが?」

「…扉の外には誰かいるのか?」

「…いえ、特にはいないようです」

「このフロアに侵入者がいるわけでもなさそうだが…。あの通気口にでも隠れているのか? お前たち、少し下がれ…。一応、確認しておこう…」

 僕はその言葉を聞くと、そっ〜と通気口から離れた。オークは足音を立てながら巨大な体で通気口の奥を覗き込んでいた。

「……」

 くそっ…。こんなに近くにカギがあるのに…。だけど下手に動いてバレたら…。くっ、くそー…。なにか、なにかいい方法はないのか…。いや…まてよ…。

 僕はオークが余所見をした瞬間、洗脳系のスキル…ドゥラスロールワンを発動してネズミに影の弾丸を打ち込んだ。

「なにもいないな…。ネズミが一匹いるだけだ…。…ん? なっ、なにをするこのクソネズミ!」

 ネズミはオークが持っていたカギを奪い全速力で扉をでていった。というか、ここまで決まるとは思わなかったが…。

「あの、ネズミ! どうしますか!? 追いかけますか!?」

「いや…。もしかしたら陽動かもしれん…。下の確認が先だ…」

「ですが…」

「問題はない。牢屋のカギを奪われたところであのチョーカーがある…。それに…。まぁいい…。いくぞ…」

 

 

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