第151話

「でも、おかしいだろ…。…あの黒い魔物は悪魔の力だって神様もいってたじゃないか!?」

「それは間違いありません…。…ですが、あの中にいたのは創造主の精神体だったんです!」

 神様は閉じた空間の方を向いていた。僕は再び取り乱しながら神様に詰め寄った。

「…なんで、そんなことわかるんだよ!?」

「…じゃないと説明がつかないんです……。穴からでようとしていた私に似た力の正体もなにもかも…! …きっと、あなたのスキルを利用しようとしていたんです……。あなたにわざと倒させて、体を乗っ取ろうと…」

 …嘘だろ……。

 僕はその言葉に絶望していた。つまり、僕の今までの行動は全て無意味だったということだ。

「…じゃあ、おっ、俺は世界を救う為に冒険していたんじゃなくて、世界を滅ぼす為に冒険してたってのか!?」

 そんなの…。そんなのひどすぎる…。

「そっ、それは違います!」

「なにが違うっていうんだよ!」

「…もしそうなら、あなたをそのまま媒体にしていたはずです。きっと、あなたの中のなにかが復活を邪魔していたんです…」

 そうか……。だから、シャドウを…。

 今思い出すと最初の黒い魔物はあまりにも弱かった。僕の強さを確かめるように戦っていたのかもしれない。でも、二体目からは本気で僕を確実に倒しにきていた。つまり、予想とちがうことが起きていたのかもしれない。

「でも…とりあえずは、大丈夫ってことでいいのか?」

「はい…。さっきの空間と、この世界の時間の流れを変えました…。これでしばらくでてこれません…。ですが…私にはもうあれを止めることはできません…。あれがでてきたら最後です…。うっ、うっ…」

 神様は涙目になったかと思うと、膝をついて泣きだしてしまった。

「さっ、最後って…。…そんなに強いのか?」

 僕が恐る恐る尋ねると神様は語気を荒げた。

「そっ、創造主ですよ! 今のあなたなんてコテンパンにやられちゃいます! ギッタンギッタンのメッタンメッタンですよ!」

 言い過ぎ…ってわけでもないか…。

「…でも、おかしくないか? もし、本物の創造主なら神様ぐらいの魔法解いちゃいそうだけど…」

「そっ、それは…。うーん…。そうかもしれません…。…じゃあ、あれは一体?」

 まあ、ゲーマー理論だとまだ悪魔の体に馴染んでないとか、後は神の残骸とかいうやつが実は生き残ってたとかそんなところだろう…。まあ、どちらにしても…。

「…神様、諦めるのは早いんじゃないのか?」

「…そっ、そうですね。いざとなったら刺し違えても…」

「そっ、そうじゃなくてだな…。…いただろ? 過去にそういうのを倒したやつが…。そいつに倒し方を教えてもらえばいい。もしくは倒してもらうか…」

 神様は僕の事をなにいってるんだこいつは…って感じの表情をしながら見つめてきた。

「…勇者様の事をいってるんですか?」

「ああ…」

「むっ、無理ですよ! 勇者様がいたのは千年も前の話なんです。勇者様だって人間なんですよ」

「いや、そうじゃなくてだな…」

「まっ、まさか、勘違いしてるんですか? もう一回いいますけど、勇者様の一族は勇者様を含めて滅びたんです。私が眠りについているっていったのは寝てるって意味じゃないんですよ…。…どんだけ、おバカさんなんですか!」

 くっ、口が悪いな…。

「……じゃあ、勇者の魂はどこにあるんだ?」

 僕は前から疑問に思っていた。どうして、神様は勇者の魂の居場所を把握してないのかを…。

「…勇者様はきっと魂だけの状態でフラフラ漂っているはずです…。どこにいるのは、わかりません…」

 僕は勇者のおとぎ話を思いだしていると、ある一つの予想が浮かんだ。

 なるほど…。なんとなくわかってきたぞ…。

「…神様、わからないんじゃなくて、わからなくなったんだろ? 勇者に探すなっていわれて…。ついでにいえば、あまりこの星に干渉するなとかもいわれたんだろ?」

「なっ、なんで、あなたがそんな事を知ってるんですか!?」

 神様は両目を大きく広げて驚いていた。どうやら正解のようだ。

「…なるほどな……」

「…納得していないで早く教えて下さい!」

「……」

 …やっぱりそういうことなのか……。

「やっぱりって、どういうことなんですか!?」

「実はさ…。って神様、心が読めるのか!?」

 僕は試しにテストしてみることにした。

 …神様のバーカ……。

「だっ、誰がバカですか! 早くいわないとあなたの心をもっと読んで恥ずかしいことを大声でいいますよ! あんな事やこんな事まで!」

「…バッ、バカ! 心を読むのをやめろ! 教えないぞ!」

 …まっ、まずい! いろんな理由でまずい!

 僕は神様が返答するまで心を読まれないように頭の中で好きなゲームのタイトルを思い出していた。

「ファイ…ドラ…クロ…なんですか、それ? …呪文? でも、そんな事しても無駄です! もっと深くまで読んじゃえばわかりますから!」

「じゅ、呪文じゃない! ゲームのタイトルだ! …っていうか読むなって! 危ないから!」

「…まあ、流石に可愛そうですからやめときますけど、早く教えて下さい。でも、正直に!…ですよ?」

「…もう、読んでないよな?」

「…はい」

 僕は念の為もう一度テストする事にしてみた。

「……」

 神様のバカ! おっちょこちょいの駄女神! ポンコツピンク!

 僕がどんな悪口を考えてみても、神様は顔色一つかえず僕を見つめていた。

 顔色が変わらないところを見ると流石にやめてくれたのか? 一応、最後にもう一つだけいっておこう…。僕が思いつく一番ひどい言葉を…。うーん…。

「…まだですか?」

「……」

 

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