第149話
彼が決意し、まぶたを閉じると僕は手がしびれるほど柄に力を入れて考えた。
…僕に裁く権利があるのか? いや…きっとない…。僕が裁くのは間違っている…。もし、裁く権利を持っている人間がいるとすれば、それはシオンさんだけだ…。
「……」
僕は力を入れた手をゆっくりと緩め剣を鞘に入れた。
「…やらないのかね?」
「僕には貴方を裁く権利がありません…。僕は嘘をついていました…」
僕の言葉に怒ることもなく、優しい声で目の前の男は尋ねてきた。
「…どんな嘘をついていたんだい?」
僕は自分が転生者であり滅びの原因を探し旅をしている事、消えた未来の事について話した。
「…ということです。つまり、僕は神族の生き残りでもなんでもありません…」
「それはわかっていたが、まさかそんなとんでもない事だとはな…。君には驚かされるよ」
「…わかっていた?」
「私は匂いで相手の感情がわかるんだ。…つまり、相手の嘘が見抜けるのさ」
便利な能力だ。でも…。
「…わかっていたなら、なぜ?」
…僕を試したのか? いや、そんな感じではなかった。あの目は本当に死を覚悟している目だった…。
「まあ、君の怒りは本物だったからね…。…どこかで嗅ぎなれたひどい匂いだった」
「…リアヌスさん、本当にすみませんでした。でも、神族の国は独立させてくれないですか? …こんな事をいう権利がないのわかっています…。それでも…お願いします」
「ああ、いいよ」
「なんでも…。えっ!? いいんですか!?」
もっと渋られるかと思ったが、あまりの軽さに拍子抜けしてしまった。
「私もそんな事になっているとは思わなかったからね…。すぐにでも切り離したほうがいいだろう…。…というか、さん付けはやめてくれ。…リアヌスと呼んでくれないか?」
「いいんですか!? リアヌスさん!?」
「リアヌスだ。それと敬語もやめてくれ」
「えっと…。じゃあ、いいのか? リアヌス?」
「ただし、あの料理のレシピを教えてもらおう。…というか話しすぎて、喉が渇いた。コーラが飲みたい…」
「すぐにだすよ!」
僕は急いでバックから二つコーラを取り出すと冷して炭酸をいれた。
「では、私達の同盟に…。…乾杯!」
「えっ!? …かっ、乾杯!」
瓶を重ね合わせた後、シオンさんの顔が一瞬浮かんだ。
もし、この場にシオンさんがいたら…。あの柄を持っていたのが、シオンさんだったらどうしていたんだろう?
「…どうしたんだ? まだ、気になることでもあるのか?」
「…なっ、なんでもない。さて、食べましょう」
僕たちは残った魚を食べた後、交代で見張りをして片方ずつ眠りにつくことにした。
さて先に見張りをしてくれるみたいだし、寝させてもらおう。…ん? …なんだ? …流れ星?
薄く目を開けて空を確認すると、青い光の線が入って一瞬で消えてしまった。その瞬間だった。
「…ぐっあああああ!」
「…どうしたんだ!?」
リアヌスは僕の叫び声に心配して駆け寄ってきたが、答えようにも言葉にならないほど右腕に痛みが走った。
…なんだ!? …鎖が締め付けられる!
「くそっ! ほどけろ!」
右腕の鎖を僕は無理やり解くと、落とし穴に落ちたように一瞬で景色が変化した。そこはなにもない暗闇だった。
真っ暗だ…。さっきまで見えてた星も月もなにも見えない…。…なんだ? …赤い光が見えるぞ…。
僕は赤い光を目指して不思議な空間を飛んで行き、それに近づくと眩しい光が辺り一面に広がりまぶたを閉じてしまった。そして、再びまぶたを開けると見たこともない景色が目の前に広がっていた。
「…ここはどこだ? あんな火山なんてなかったぞ…」
目の前の山は遠く離れていたが、噴火したマグマが川のようにドロドロと下流に流れていた。僕がそんな光景を見ていた…その時だった…。僕は背後に凍りつくような寒気を感じ取り、瞬時に剣を抜いた。
「…っ!」
あと、コンマ一秒でも遅かったら、僕は死んでいたかもしれない。目視できないほど強く鋭い衝撃が何度も僕の剣を揺らした後、どこかで聞いたような声が聞こえてきた。
「今のを防ぐとはなかなかやるじゃないか…」
「…その声、シャドウか!」
声がした方へサッと警戒しながら振り向くと、そこにはシャドウが立っていた。だが、その姿は異質そのものだった。黒い鎧が剥がれ落ち、体のあちこちから青い光を放つ木の枝が生えていた。
「予想以上に早かったね…。ぐっ…! もしかして、君の裏スキルが引き寄せたのかな…」
「…どっ、どうしたんだ!? その姿は!?」
その物体は自身に生えた枝を折りながらよろよろと歩き近づいてきた。
「…俺は今の今まで自分の意思で君を元の世界に戻すつもりで行動していたが、どうやら違ったようだ。まさか、この世界線を選択させられていたなんて…」
「おっ、おい!? 大丈夫なのか!?」
「しかも、この中にとんでもない化物が…。…ぐっ!?」
「いま、リカバリーで治してやる!」
僕が近づこうとすると、シャドウは片手をあげて制止し、息も絶え絶えになりながら語りかけてきた。
「無駄だ! それ以上…近づくな…。今から…君を…あの空間に…連れていく。巻き込んで…すまない。だが…これは復活させては…だめだ。こいつは…君の星も…壊すつもり…だ…。オレヲコロセ…!」
次の瞬間、あたりの空間は歪みどこかで見たような大理石の上に僕は立っていた。どうやらシャドウはデスマッチを発動したようだった。
「シャドウ! なんで、この空間に!?」
返事がない…。だが、それは少しずつ僕に近づきつつあった。僕は視界をそらさずに剣を抜き闇の力を発動すると即座にチャージして間合いをとった。
「…ギャアアアア!」
それは恐ろしい叫び声とともに攻撃を開始した。僕は瞬時に後ろに飛び回ったが、無数の枝が僕を貫こうと迫ってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます