第124話
エリックは吹っ切れた顔をして僕に剣を渡してきた。
「なるほど、それで伝説の剣か…。ドワーフ王には敵わないな…。アル、これで頼む…」
「ああ…。ウィンディーネ、この国をもう一度封印してくれ」
僕が剣を掲げてウィンディーネに頼むと、意地悪そうな顔をして首を左右に振った。
「それじゃ、無理…。使い手いないもの…」
「えぇっ!? あっ、ああ、そうか…。ノスクを連れてこないとな…」
「あの子じゃ無理よ。修行サボり過ぎなのよ。全く…」
「当分、無理って事か…」
まぁ、そこまで急いで封印する必要もないか…。
「違うわよ。それじゃ、無理っていったのよ! …っていうか、外にいいのがあるじゃない?」
ウィンディーネはイジワルそうな笑みを浮かべて外を指差した。指差す方を見ると、空中に浮かんだあの巨大な剣が見えた。
「あの剣は…エリックが作った…」
「ええ…。ほら、ノーム、ヴォルト! 寝る前に手伝って! 嫌そうな顔しない!」
ウィンディーネは眠そうなヴォルトとノームを連れてどこかへ消えていった。
「さてと、精霊達が戻ってきたらエルフの国に帰るか…。そういえば、エリックを降ろさないとな…。…って、エリックの家の前だったな……。まぁ、もうちょっとのんびり…」
慌てた様子でエリックは僕の言葉を遮った。エリックは真剣な顔をして僕に近づき、僕の体を揺らしながら訴えてきた。
「ちょっ、ちょっと待ってくれ! なあ、アル…頼みがある…。俺も連れていってくれ…! 俺は外を見たい…。なにか…掴めそうな気がするんだ…」
「いや、ダメだって…」
「頼む…。俺は精霊の力が使える…。それに武器やこの船の整備だってできる…。きっと、役に立つから…」
うーん…。精霊の力をつかえるし…。大丈夫か…。整備キャラもほしいし…。
「うーん…。危険と隣合わせだけど、それでいいなら…」
「元よりそのつもりだ。みんな、よろしく頼む…。そうと決まれば、荷物を取ってくる!」
エリックは走って船をでていくと、シオンさんが声をかけてきた。
「…なあ、アル? 私のそっくりさんの件はどうなったんだ? …放っておくのか?」
「いや、実は…」
僕はゼロ…。シオンさんのコピーについて話をした。魔族の四天王であるキメラに作られたということを…。
「なるほど…。えげつない事をする…」
シオンさんは拳を握りしめて、悲しそうな顔をしていた。
「いつか…戦う事になるかもしれない…」
「その時は私がやるさ…。もう一人の私だからな…。少し疲れたから部屋にいって休むよ……」
シオンさんは話が終わったのに僕の方をずっと見つめてきた。
「…どうかしたんですか?」
「…にゃ!? いっ、いやっ…その…。なんでもない…」
シオンさんは妙な態度をとった後で、スタスタと歩いていき広間をでていった。
「……」
どうしたんだろう…。まっ、いいか…。俺も疲れたし寝るか…。
「…ねえ、アル!」
僕が部屋に移動しようとすると、アリスは突然大きい声をかけてきた。
「…どうしたんだ?」
「お願いがあるの…。…私も精霊の力が使えるようになりたい!」
「……どうしたんだ? 急に?」
アリスは悲しそうな顔をして下を向いた。なにか言い辛いことがあるようだった。
「私…アルの事が心配なの…。アルのスキル…なんだかとっても嫌な予感がする…。…倒した敵を吸収するなんて、どう考えてもおかしいよ!」
「いや、気をつければ大丈夫…。…って、なんで、それを!? …まさか、シオンさんが!?」
僕はシオンさんの様子が変だったことを思いだしていると、アリスはコクっと首を縦に振った。
「うん…。でも、シオンさんは責めないであげて…。私が問い詰めたの…」
「別に責める気はないけど…。…なんで、わかったんだ?」
「ウィンディーネも変なことをいってたの…。契約者じゃないけど、悪魔みたいな力を感じるって…」
「でも、それだけじゃ…」
「……」
アリスは黙って僕に近づいてきた。アリスは僕の右手をギュッと触って、頬から涙を流していた。
「…おっ、おい!? …どうしたんだ、アリス?」
「…シャルがみたの……。あなたの腕が黒い魔物の腕になっていくとこを…」
「……」
しまった…。あの時か…。
僕はエリックの家で腕が変化していた事を思いだした。僕は意識を失ってしまった事を後悔した。
「それで、思いだしたの…。あなたがモンスターを倒したくないっていってた事…」
「隠してたのは悪かったよ…。心配かけたくなかったから…」
「…そんなこと気にしてるんじゃない! お願いだから、これ以上、敵を倒さないで!」
アリスは大きな声をだしてスキルを使わないよう説得してきたが、僕は聞く耳を持たなかった。
「…なるべくそうしたいけど、あの黒い魔物は手に入れておきたいんだ。魔王を倒す為にもっと力がほしい…。もっとだ…」
「なんで…そんな楽しそうな顔でいうの? アル…なんだかおかしいよ…。…ごっ、ごめん、違うの! そんな事いいたかったんじゃないの…。私、部屋にいくね…」
僕は普通にいったつもりだったが、アリスにはそう見えなかったようだった。アリスは謝ると広間からでていき、僕は一人残された。
「楽しそうな顔…か…」
あまり自覚したくなかったけど…確かにそうかもしれない…。まるでゲームをやってるような感覚に陥るときがある。前よりも更に強く…。
「ああっ…くそっ!」
僕は頭をガシガシと掻きながら、バタッと倒れてソファーに寝転がった。
「少し寝るか…」
僕が疲れて目を閉じると、あの上下左右のわからない暗闇に僕は立っていた。そして、また少しだけ大人びた奴の声が聞こえてきた。
「いやー…今回も驚かされたよ…。精神を切り離して、ドゥラスロールを発動するとはね…」
「ちょ、ちょっと待ってくれ…。今のどういうことだ?」
「…自覚してなかったのか? そうか…。無意識に…」
…精神を切り離す!? なに、物騒な事を…。
「…おい、説明しろよ!」
「あれは…君がもう使っていない子供の時の精神を切り離した存在なんだ…。失った子供心…といってもいいかもしれないね…」
失った子供心…?
「そうだ…。ついでに色々と聞きたいことがあるんだ」
「…なんだい?」
僕は立っているのが疲れたので声のする方を向いて座った。僕は両手を組みながら、見えない相手を必死に見ようとした。
「まずは…お前の正体についてだ」
「んーそうだな…。…普通にいうのもつまらないし…当ててみなよ? チャンスは一回だ」
当ててみろ…か…。いいだろう…。すでに予想はつけてる…。
「お前の正体…ズバリ、裏スキルを確認するスキル…インビジブルビジブルだ!」
僕はどこにいるかもわからない相手に向かって、名探偵になったような気分で自信満々に答えた。
「…残念、ハズレだよ」
「なんだよ…。唯一任意発動タイプの裏スキルでデメリットないから怪しいと思ってたのにな…」
「…なにをいってるんだ? デメリットならあるだろ?」
「…えっ?」
僕はそいつの予想外の答えに驚いていた。
「裏スキルを認識できる事…。それ自体がデメリットだ。認識した時点でより効果が深まる。この世界では特にね…」
「そんなことって…」
「まあ、逆にいえば認識さえしなければ、ある程度否定することもできたのかもしれないね…。もう遅いけど、ハッハッハ…」
「 笑うとこじゃないだろ…。でも、まあいいか…。大変な目にあってるけど裏スキルを認識してなかったら、ここまでこれてなかったかもしれないし…」
「……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます