第102話

 僕は昔やったパラシュートを開いて下降するゲームを思い出しながら、怖い気持ちを抑えて少しずつ目を開けていった。

「……こっ、こわっ!」

 やっぱり、怖かった。

 それにしても…ゲームみたいに簡単じゃないな…。なかなかバランスとるの難しいぞ…。

「こっ、こんな感じか…」

 僕は両手と両足を広げて、バランスをとった。

 なんだろう……。なれてくると不思議と少し楽しいな…。それに…。

「…いい景色だ……」

 僕は朝焼けの空を飛び回りながら、あたりの景色を見渡した。

 街や村が点にしか見えないな…。でも、成り行きとはいえ、僕がスカイダイビングをするなんて思わなかった…。こんな経験もできたし、この世界にこれて少しはよかったのかもしれない…。


「よし…。地面も近くなってきたし、そろそろスピード落とすか…」

 僕はしみじみとした気分になりながら、空を飛ぶ魔法を発動した。

「……ん?」

 速度が落ちない……。おかしいな……。

「……あれ?」

 どういうことだ…。

「……」

 まっ、まさか…。

「……ウソだろ…」

 僕は顔面蒼白になり、冷や汗を垂らしながら、指を前にだして魔法を唱えた。

「…ファッ、ファイアーボール!!!」

 ……なにもでない。

「魔法が使えない…。…そっ、そんな、バカな!?」

 …そっ、そうだ! スキルがあったんだ! スキルで空を飛べば…。

「…ステータス!!」

 …ひっ、開かない…。ステータスが…開かない…。

「おっ、おい、ステータス! ひらけって! このままじゃ地面にぶつかる!!!」

 何も反応がなく僕は完全にパニック状態になっていた。

 だっ、だめだ! でも、どうしろっていうんだ!? くそっ! せめてポーションを体にぶっかけて…。

「……」

 ……ただの袋じゃないか…。

 神様からもらったバッグはただの袋になっていた。つまり、他の装備もただの剣や服になってる可能性がある。

「……もっ、もうだめだ…。じっ、地面に…ぶっ、ぶつかるー!!!」

 その瞬間、後ろの方からパシュっと変な音がした。

「なっ、なんの音だ!? ……ぐへっ…」

 上に引っ張るような衝撃があったあと、スピードが徐々に落ちていった。どうやらパラシュートが開いたようだった。

「はぁ…はぁ…。助かった…」

 ネタでつけたから完全に忘れてたな…。…本当につけといてよかった……。でも、異世界にきてまで、こういう変な冷や汗のでる体験はいらないな…。

 僕は風に揺られながら、ユラユラと下に降りていた。そんなとき、もう一汗かくようなことが起きた。もちろん冷や汗の方だ。


「…あれ? ……どうやって操作するんだ?」

 ……わからない…。紐も操作部分もついてない…。まずい……。このままじゃ木にぶつかる!! 

 僕は必死に操作部を探したがそれらしいものは見えず、ただただ風に流されていった。 

「…………うわぁあああ! …ぐへっ……!」

 僕はそのまま大きな木に思いっきりぶつかった。

「………とりあえずは無事だな」

 体の状態を見たが木の葉がクッションになり、そこまでダメージはなかった。

「いててっ…。主人公みたいにカッコよく着地ってわけにはいかないか…」

 僕は見つからない内にさっさと降りようとしたが、パラシュートが木の枝に引っかかって身動きが取れなかった。

「まいったな…。剣で斬るしかないか…。勝手にしまってくれればいいんだけど…」

 僕が困っていると、急にパラシュートは宙に浮き元の状態に戻っていった。

「…なっ! しまった…」

 なんで勝手にしまったんだ…。

「そっ、そうか…。声で操作するのか…。じゃあ、なんであの時ひらいたんだ?」

 僕はパラシュートが開いた時を思いだした。

 …高度が低くなってきたから、勝手に開いたのか? うーん…。ひらけなんて…僕はいって…。いや、いったな……。まさか…ステータスひらけって言葉に反応したのか?

「はははっ……」

 いわなかったらどうなってたんだろ……。

「……いや、考えるのはよそう。見つかる前に隠れないと…」

 僕は木の幹に抱きつき、ズルズルと降りていった。


「よっと…」

 ここがドワーフの国…ニダヴェリールか…。…って、えっ!?

 なんと驚くべきことに目の前でドワーフの兵士二人組が木の上を見ていた。僕はドキドキしながら、動きを止めた。

 …まずい! バッ、バれた…。どうする…!? 逃げるか…!? ………あっ、あれ?

「こっちから声がしたんだがな…」

「ですね…。声はしたんですけど、特に気配はないですね」

 ドワーフ達はなぜか至近距離に僕がいるにも関わらず、僕とは目を合わさずに辺りを探していた。僕は固まったまま二人の様子を見ていた。

「…帰りますか?」

「そうだな…。まぁゴミかなんかが飛んできたんだろ…」

「そうですね…」

 ドワーフ達は辺りを軽く探したあと帰っていった。


「ふー…。緊張した…」

 僕は再び冷や汗をたらしながら、木に寄りかかった。

「…でも、なんでバレなかったんだ? 目の前にいたのに…」

 …まさか!? 気づいてないふりをして応援を…。…って感じでもなかったな…。

「とりあえず、見つかる前にシャルから貰った薬を飲むか…。…って、ええっ!?」

 僕はポケットに手を入れようとすると、とんでもない事に気づいた。なんと体が透けて風景と同化していたのだ。

「こっ、この服、透明人間になれるのか!?」

 どおりでバレないわけだ…。でも、なんで勝手に…。……まさか、隠れないとに反応したのか?

「まあいいか…。これで潜入しやすくなるし…。さっきのドワーフについていくか…」

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