第101話

 あいつ…駆け足でどこにいったんだ? まあいいか…。

「それでアリス…。…なんか用事か?」

「…私、あなたに謝らないといけない…。私のせいで魔族に狙われてるなんて思いもしなかった…。それなのに…わたし……」

「気にするなって…。さっきもいったけど、いつかは倒す事になってたと思うし…」

 僕が笑いながら誤魔化そうとすると、アリスはグイッと近づいて僕の目を見てきた。

「アルの性格だったら…。そういう相手は最後に倒すはず…。…そうでしょ?」

「いや…。まあ…。そうだな…」

「やっ、やっぱり…。わっ、私のせいで…」

 僕の胸の中でアリスは泣き崩れた。僕はどうしていいかわからず、対応に困っていた。

 うーん…。まいったな…。

「おっ、おい…。…ん? なにか変な音…聞こえないか?」

「ぐすっ…。…変な音?」

 それは小さな声だったが、誰かの話し声のようだった。僕は耳を澄ますとスピーカーのようなものから、シャルとシオンさんの声が聞こえてきた。

「…アリスちゃん! もっともっとひっついて押し倒すんだよ!」

「シャ、シャルさま…。こういうのはあまりよくないと思うんですが…」

「…って、いってるシオン様も本気で止めないところをみるとみたいんでしょ?」

「まっ、まあ…少しは…」

「アリスちゃん落ち込んでるから元気だして貰わないといけないし…。アルのコップにさっき…。…あれ? なんかこっち見てない?」

「もっ、もしかしてこちらに気付いているのでは?」

「まっ、まさかー…」

「…俺のコップになに入れたんだ? シャル?」

 僕がスピーカーに話しかけると、スピーカー越しのシャルは焦っていたようだった。

「えっ! 聞こえ…。えーとね…。えーと…。えへへ…。そっ、そのね…。そのー変なものじゃないよ。元気のでる薬だよ」

「わっ、私は反対したんだからにゃ!」

「シオンさま、ずるいですー」

 こいつら…。

「ははっ…。もうっ、バカみたいね…」

 アリスは僕の顔を見て笑っていた。どうやら、泣き止んでくれたみたいだった。

「だな…。そういえば、一個いい忘れてた…」

「…いい忘れてた?」

「…俺のスキルはさ、確かにトラブルを呼ぶんだけど、そのおかげでみんなと知り合えた。本当にそういう意味では感謝してるんだ。アリスやシオンさん…。シャル、みんなと会えて本当によかったよ…」

 僕が心の底からそう思っていると、スピーカー越しからシャルのうるさい声が聞こえてきた。

「…うわぁあん! アルー! わたしもだよぉおー!」

「わっ、わたしもだ…」

 僕はすぐに一言追加した。

「ただ…次、盗み聞きしたら撤回するからな」

「わっ、わかってるよー…。ねーシオンさま…」

「わっ、私は…。その…気をつけるよ…」

 まったく…。でも、なんで教えてもない船の機能が使えるんだ? ……まさか…。

「シャル…。まさか、説明が見えるのか?」

「実はそうなんだよー。じゃあ、早速そこの扉を開けるよ」

 シャルが元気よく大きな返事をすると、一つ目の扉が開いた。

 シャル…。そういうことは早くいえよ…。

「じゃあ、アリス…。いってくるよ…」

 僕は右手をあげてアリスに別れを告げた。

「うん…。気をつけてね…」

 僕が中に入ると一つ目の扉が閉まった。そして、二つ目の扉が開き部屋の中に入ると、壁にはリュックサックとゴーグル付きのマスクと厚手の服がかけてあった。


「…なんだ? このリュックサック?」

 中を開けてみるとそれはパラシュートのようだった。

「…空飛べるから必要ないけど、せっ、せっかくだしな〜」

 けっして、昔やったゲームの装備品に似てるからとかそういった理由ではない…。念の為だ…。

「アルー。少し待っててねー。なんかハッチを開ける前に調整しないといけないみたいだから…」

「了解…」

 僕はゴーグルとパラシュートを装備し厚手の服を重ね着した。まるでどっかの兵士にでもなった気分だった。


「アルー。準備オッケーだよー」

「こっちもオッケーだ。開けてくれ」

 ゆっくりとハッチは開いた。風が吹き荒れ日差しが入ってくる。

「…綺麗な日の出だねー」

 僕は降りたハッチの先に立ち下をみると身震いした。

 たっ、高いなー…普通に怖いぞ…。まぁ大丈夫か…。空も飛べるし…。

「…よし…いくか!」

 僕は倒れるように船から飛び降りて、風を感じながら地面へ落ちていった。ゴーグルが顔に食い込んで若干痛かった。

 

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