第97話

 中は明かりがついていて、いくつかの部屋に別れているようだった。

「…アリス達はどこにいったんだ?」

 僕が進むと船長室のようなところにみんなが集合していた。

「…ん?」

 アリスの方をみるとなにか様子がおかしい。よく見るとなにかのボタンを押そうとしている。

「…ったく勝手に押すなっていったのに……。一体…なんのボタン……」

 僕が注視するとボタンの上に加速装置と表示された。

「アッ、アリス、ダメだ! 押すな!」

 僕はアリスに抱きつき腕をあげた。ボタンは押されていないようだった。

「ふぅー…。危なかったー…」

「うわぁ…」

「うわぁ…」

 後ろの方からシオンさんとシャルの引いたような声が聞こえてきた。僕は振り返ると困惑した顔をしていた。

「…どうしたんだ? 二人とも変な顔して?」

「アル…。とりあえず…左手を離してあげたほうがいいと思う…」

「アル…。ひっ、左手だよ…」

 僕が左手をみるとアリスの柔らかなものに触れていた。僕は素早く手を離した。

「…アッ、アリス!? ごっ、誤解だ!」

「…なっ、なにするのよ! こっ、このド変態!!!」

 アリスがバンッと装置を叩くと、ウイ〜ンと妙な音が聞こえ始めた。加速装置のボタンを押してしまったようだった。

「ああっ! バッ、バカ! なんでボタン押すんだ!!!」

「バッ、バカはアルでしょ!? このボタンがなんだっていうのよ!!!」

「みっ、みんな捕まれ! かっ、加速装置だ!!!」

 次の瞬間、恐ろしいスピードで岩にぶつかりながら洞窟の中へと入っていった。

「きゃあああ!!!」

「いやあああ!!!」

「にゃあああ!!!」

「うわぁああ!!!」


 こうして、僕達は文字通り猫の国から衝撃的なスタートを切り、飛空機能を一度も使わないままドワーフの国についた。

いや、正確にいえば気付いたら目的地付近についていたが正解かもしれない。なぜ、飛空機能を使わないまま来たのか疑問に思うかもしれないが、アリスのやつが思いっきり加速装置を叩いたせいで、ボタンが押しっぱなしになっていたのである。

そして、僕自身も冷や汗をたらしながら地獄のような運転に無我夢中で、自動操縦機能を使い運転が安定するまでその事に全く気付かなかった。まぁ、その自動操縦機能があるという事に気付いたのはドワーフの国の付近に入ってからなのだが…。なにはともあれなんとか無事につく事ができた。


「少し横になるか…」

 僕はどっと疲れたので少し休憩することにした。

「どこかいい部屋は…」

 通路に移動して部屋を探していくと、ちょうどベッドのついた小さな部屋が何室かあったので、僕は適当に扉を開けていきその内の一部屋に入った。

「この部屋にするか…」

 誰も使ってないわりにはきれいだな…。雰囲気もいいし…。僕好みの部屋だ…。

「予想より早くついたしもうちょっとだけ寝ておこう…。ステータス…ついたら起こしてくれ…」

「了解しました」

 僕はベッドに横になり毛布の中に入った。

 ほんと…不思議な船だな…。まぁ、いいか…。

「ふぁ〜…。ねよ…」

 僕はこうしてしばらく眠りについた。



 振り返ってみると…この時の僕は地獄のような運転ぐらいで、まだ幸せだったのかもしれない…。これはまだ地獄の入口…。いや、それすらも入っていなかった…。


本当の地獄を味わうのはまた次の話である。

 

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