第79話
僕は皆に話をする前に遠くから様子を見守ることにした。しかし、特に気にする心配もなく揉めてはいないようだった。
「大丈夫そうだな…」
まあノスクは相変わらずビビっていたけど、なれてもらおう…。
ノスクは尻尾がピクッピクッと常に動いていて、足がガクガク震えていた。
僕は一安心して皆に近づいた。
「お金を渡すから装備が整い次第、ここにきてほしい。…いいね? みんなが集合したら出発だ」
「そっ、そんなのいらないよ!」
「そっ、そうです!」
「そっ、そうだぜ!」
「いいから、受け取っとくれ。怪我してほしくないんだ」
僕は少ないながらもお金を手渡した後、酒場からでた。なかなかお金を受け取ってくれなくて苦労したが…。
「ねえねえ、アル?」
「…ん?」
アリスは僕の肩をチョンチョンと叩いた。振り向くとアリスは両手を前にだしていた。
「…ねぇ、私のお金は?」
「…ない」
「まっいっか〜、アルと買い物にいくんだから…。私もちょっとは持ってるし…。それで、今はどこにいってるの? 武器屋、防具屋? それとも、雑貨屋?」
僕は精一杯の爽やかな笑顔で答えた。人を騙すというのは心が苦しい。いや、嘘というわけでもないか…。
「アリスと俺は特別な場所にいこうと思う…」
「とっ、特別な場所!? そっ、それって…」
僕はアリスの優しく手を握って、エスコートした。
「いくぞ…」
「うっ、うん…」
しばらく歩いていくと、目的地についた。僕はアリスの手を握りながら、そのでかい建物を見上げていた。
「よし…ついたぞ…」
「えっ…。ここって…。…ねえ、間違えてない?」
「いや、あってるぞ…」
「なっ、なんだ…。お城じゃない…。…お城?」
僕は逃げようとするアリスの腕をガッと掴んだ。
「お前はお留守番だ…」
「…嫌よ、嫌! 私もいく!」
アリスが騒ぐと遠くの方から門番が歩いてくるのが見えた。
「僕の背中をつねるような、お淑やかな女性とは危険な場所にはいけないからな…」
僕は背中に残るジンジンとする痛みを感じていた。
「あっ、あれはアルが悪いんでしょ!? …痛いから腕を離してよ」
「はぁ…。それにな…仮にもエルフの王女様なんだ。事情を知ったルナにもさっき頼まれたし…。猫の王国としてもアリスを放って置くと国際問題にもなりかねないんじゃないのかな…」
「そっ、それは…そうかもしれないけど…」
僕はアリスの後ろを指差して、小声でつぶやいた。
「門番が近づいてきてる…。…あんまり騒ぐと誤魔化した噂が真実に変わるんじゃないのか?」
「ぐっ…」
「…どうかされましたかにゃ?」
僕が近づいてきた門番に事情を説明すると、門番は慌てて仲間を呼んでアリスは城の中に連れていかれた。アリスの背中は丸くなり、借りてきた猫が連行されているように見えた。
「先にお土産を渡しとくか…」
僕は近くの雑貨屋にいき、ポーション等の回復アイテムを買った後に、ネコ型のおまんじゅうをとお茶らしきものを買って空を飛びアリスを探した。
「いたいた…。なにしてんだ、あいつ…」
アリスは窓ガラスに張り付き、僕を睨みつけていた。僕が近づくとアリスは窓ガラスを開けた。
「作戦成功してよかったわね…」
「そんな睨むなよ…。はい…おみあ…」
アリスはお饅頭の紙包みをビリビリと裂くと、僕の顔を睨みながらお饅頭をムシャムシャと食べ始めた。
「……」
うまそうだな…。僕も一口…。
「…いてっ!」
アリスはお饅頭に伸ばした僕の手を叩くと、何事もなかったかのようにムシャムシャと食べ始めた。僕は手をさすりながら話した。
「はぁ…。…アリスにはやってもらいたいことがあったんだ」
「……こんなお城の中で?」
「シオンさんやシャルがきたときに状況説明できるやつがいるだろ? もしかしたら、ここにすらこれないかもしれない…。あの王様、適当すぎてわかんないと思うんだよ…」
僕がそう言うと、アリスは少し納得したようで睨むのをやめてくれた。
「じゃ、いくからな…」
「…アル!」
僕が窓から飛び立とうとすると、アリスは呼び止めた。
「…どうした?」
僕が近づこうとすると、アリスはお饅頭の中から一つを手に取り僕にポンっと投げた。
「…無事に帰ってこなかったら、そうなるからね!」
「…りょうーかい!」
僕は怒った顔の猫饅頭を口に加えて空に飛び立った。
「さて…ここならいいだろう」
僕は誰もいない林の中にきた。ここに来た理由は二つ…。一つはMPを補充する為だ。
「さてと…チャージするか」
僕はスネークイーターを解除して魔人の姿になった。
相変わらずとんでもないHPとMPだ…。誰かに見つかる前にさっさとチャージしよう…。
「よし…完了! でも、今回チャージ時間かなり長かったな。ちょっと壊れてないか確認してみるか…」
僕はステータス画面からアイテムデータを選択した。
「…あれ? 魔石のMP…多くないか?」
魔石のMPを確認すると、なんとMPが二百万になっていた。
「やっぱり多いよな…。…どうしてだ?」
なにかした覚えはない。増えたって事はゲームだと強化って事になるのか? 強化…強化か…。そんな事した覚えは…いや心当たりが一つだけあるな…。
「まさか…ノームが強化したのか?」
考えてみれば土属性のノームなら魔石のポテンシャルを最大限に増やせるのかも知れない。
「なかなかやるじゃないか。帰ったら褒めてやろう」
僕はスネークイーターを発動し元の姿に戻った。
「よし、新スキル試してみるか…。…えっ?」
僕はステータス画面からスキルを操作しようとしたときにある異変に気付き、あまりの驚きに尻もちをついてしまった。
「…うわぁあああああ! はぁ…はぁ…はぁ…。なっ、なんだったんだ…。いまの…」
スネークイーターを発動して元の姿に戻っていたはずなのに、一瞬右手が元に戻っていなかったのである。
「いや、なにを驚いているんだ…僕は…。別にいいじゃないか…。現実世界じゃないし…」
この世界は所詮、僕のいた世界じゃない…。関係ないじゃないか…。ここでの姿なんて…。
「……」
…でも、現実世界に影響がないなんて本当にいい切れるのだろうか?
「ないとは言い切れない…か…。あまり、スネークイーターを解除しないほうがいいな…」
スネークイーターは、もしかすると解除時間によって…もしくは解除回数によって効果が弱まるのかも知れない。
「まあ、気をつけて使おう…。さてと…予定通り新スキルを試してみるか…」
僕は立ち上がって深呼吸した後、スキルデータを開いた。
「さて、スキル…ドゥラスロールの説明は…」
〈地の虚構を従え、真実となせ〉
「この説明だけじゃわからないな…」
…っていうかなんでスネークイーターを解除していないのに相手のスキルが使えるんだろう…。
「…まさかこれもスネークイーターが弱まっているからなのか!? いや…でも、あいつはプレゼントって言ってたし…」
…あいつ? …そもそもあいつってなんなんだ?
「確か…初めて見たのは、真っ暗な空間だった…」
なにも見えない空間で僕はあいつと出会った。僕が死んだ…あの時…。…でも、なんで僕は生きているんだ? あの時リカバリーは失敗した。でも、あいつは確か決定事項だとかいっていたな…。僕が死ぬことがトリガーとなってスキルが使えるようになったってことなのだろうか?
「まぁ考えてもわからないし、今度聞いてみるか…。…よし、スキル発動!」
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