第22話R

「なるほど、よくわかりました…。あの…例えば情報とか買うこともできるんですか?」

「そうですね。そういったこともできます。どういった情報が知りたいのですか?」

「世界の異変とか…」

「…つまり、戦争の状況とかですか?」

「いや、そうじゃなくて…。世界で起こっている不思議なこととか…。…なにかないですか?」

「そうですね。そういった情報は曖昧すぎて厳しいかもしれません」

「そうですか…。…そっ、そういえば、僕もギルド員になれるんですか?」

「はい、誰でもなれますよ」

「……そうなんですね!」

 僕はワクワクしながら受付のお姉さんに尋ねると嬉しい回答が返ってきたので、心の中でガッツポーズをしていると、まさか…その直後にガクッと手を下げることになるとは思わなかった。

「…ただし、基本的にステータスを公開してもらわなくてはいけません」

 よっしゃああぁぁぁ…! …ん? …公開?

「公開…ですか?」

「…公開したくないみたいですね?」

 …ギルドに入りたかったけど、公開するなら無理だな。

「でっ、できれば…」

「まあ、非公開でもできるんですが…。ただ…」

「…ただ?」

「個別にくるクエストはないですし、あとステータスで、制限がかかっているクエストには参加できないのでオススメはしません」

 まぁ、履歴書なしで採用しろってのは無理か…。でも、ギルドか〜…。ゲーマー魂をくすぐるな〜…。…一応、登録だけしておこうかなー…。

「あの、非公開で登録お願いします」

「わかりました。それでは、ここにサインをお願いします」

 その後、事務的な処理を終えると僕は依頼書を確認した。確かに書いてあるのは近隣のモンスターの駆除など簡単な仕事ばかりで報酬も少なかった。



「それで…どれか受けられますか?」

「うーん。この討伐に書いてある報酬って、なんで二つあるんですか? この約一万ギルとかって…」

「ああ、それはですね。例えばこのボアの討伐で説明するとですね…」

 受付のお姉さんはイノシシのモンスターが描かれていた依頼書を指差した。

「はい…」

「まず倒してそれを持ってきてもらえば、こっちの基本的な報酬を即金で五千ギル払います。そして、こっちが討伐してしばらくした後に支払われる報酬…これが約五千ギルです。あわせて一万ギルですね」

「…しばらく?」

 どういう意味だろう…。

「…しばらくしてというのはですね。倒してそのモンスターを加工して販売し、お金になるまで時間がかかります。そういった意味です…。ちなみにいうと、お金にならない場合もあります。」

 …なるほど…。なかなか面白いシステムだ…。でも…大変そうな割にあわせて一万ギルなら、かなり取られてるんだろうな…。

「…ちなみに上手く売れた場合は、どのくらいが還元されるんですか?」

「ええと…。大体九十パーセントくらい…」

「きゅっ、九十パーセント!?」

 結構、還元してくれて…。

「…取られるので、十パーセントくらいですね」

「そっ、そうなんですね…」

 …ないなー。…世知辛い世の中だ……。

「でっ、でも、ですね、貴方の持ってくる品質が高ければ、段々と還元率が高くなります」

 …ああ、あれね……。私が作りました的な…。うーん…。でも、一体…なにに引かれてるんだろう…。税金がものすごく高いのかな…。

「ちなみに…ギルドはどのくらいとっているんですか?」

「…教えられません」

「…えっ?」

「…教えられません」

 受付のお姉さんは最高の笑顔で答えた。これ以上聞いても教えてくれはしないようだ。

「…ここは…ボッタクリですか?」

 僕がつい本音を漏らすと、受付のお姉さんはキョロキョロと辺りを見た後で小声で僕に怒った。僕は受付のお姉さんの話を聞く為、少し前かがみになった。

「ひっ、人聞きの悪いことをいわないで下さい! そっ、それはまぁ、そこそこ取っていますけど…ギルドを運営するのだって大変なんですよ!」

「でも、十パーセントって…」

「どっ、どうしても、最初はそれぐらいになるんです! そっ、それにですね! ギルドにお金を収めればギルド内のランクがあがって、その分いい事だってあるんですから!」

「……」

 まぁ、いいか…。このお姉さんが決めてるわけじゃないんだろうし、これ以上聞いても可哀想か…。

「…ん? …薬品製造? …なんでこんなに報酬高いんですか? …間違ってないですか?」

 一番下に置いてあった依頼書を見ると、見間違いでなければ百万ギルと書かれている。僕は目を疑ったが、どうやら僕の目で見る限りは間違ってないようだ。

「間違っていませんよ。…これは報酬を直接依頼主から貰うタイプなので、税金と紹介料以外はかかりません。八割還元といったところでしょうか…」

「なるほど…。ボッタクリではないと…」

「でっ、ですから、ボッタクリではないです! 全くっ…! でも、ここにあるクエストの中でも、特に難しいみたいなので、本当にオススメはしませんね…。…内容は薬草の採取です」

「…なんか…簡単そうだな……」

 僕がゲームの感覚でそういうと、受付のお姉さんは驚いた顔をしていた。僕は討伐クエストでもないただの採取クエスト…。ゲームだと、初級クエストぐらいなものになぜ驚いているのかわからなかった。

「…とっ、とんでもない! …聞いてました!? こんなに高い報酬なのに誰も受けてないんですよ!? …想像してください。どこに生えてるかもわからない薬草を探さないといけないんです。しかも、全部集めなければ報酬ゼロですよ!?」

「たっ、確かに…」

 いわれてみればそうかもしれない。記念に一個くらいクエストを受けてみようかと思ってたんだけど、宿に帰るか…。…帰りに闘技場でもよって帰るか……。

「どうします?」

「…今日は帰ります」

「わかりました。でも、いずれチャレンジしてみてくださいね。このコーラの薬草集めに…」

「受けます!」

 僕は考える前に言葉がでていた。

「…はい?」

「紹介してください。早くっ!」

「わっ、わかりました。わかりましたから、そんなに揺らさないでください!」

 …遊びでやるわけではない。工場見学なんて興味ないけど、もしかしたら冒険のヒントになるかもしれない。…そうだ。それにこれは人助けだ。

 僕は依頼書を握りしめ、全速力でその場所へ向かった。…決して、安く大量にコーラを買えるルートをみつける為にいくわけではない。

 

 

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