過去の代償 8


「…今回の事は、葵君がマスコミを抑えてくれるようだし、大きな騒ぎにはならないだろう。 しかし、人の口に戸は立てられない。

噂が広がるかもしれない。

そうなった場合、君にとって愛の存在は、百害あって一利なしだ。

今回だけじゃない。これからもずっと、君が愛と一緒にいる限り、あの子の過去がついてまわる。 今、別れれば、傷も浅くて済む。別れなさい。」



ズキズキ痛む。


もう遅いよ父さん。

藍と別れなきゃいけないと思っただけで…


凄く…痛い…。

 


「別れません。」



藍…?!



「如月社長のおっしゃる通り、愛と別れて、海外ブランドのイメージモデルを受けたとしても、直ぐにクビです。」



え?!



「それは、どうしてかな?」


「愛と別れた時点で、オレは、死んだも同然だからです。 モデル紫津木藍も、使い物にならないでしょうね。 どっちを選んでも仕事がダメになるなら、オレは、愛と一緒にいる事を選びます。」



藍…


やばい…鼻の奥がツーンとしてきて…


堪えなきゃ…



「親としては、有り難いが、どうしてそこまであの子の事を?

君なら、もっとまともな恋が出来ただろ?」


「…何が、まともな恋なのか…オレには、まだわかりません。

…でも…出逢ってしまいましたから…

愛以外の相手なんて、考えられません。」


「カッコイイ台詞セリフの後で、申し訳無い…。 さっきから気になってたんだが…

紫津木…もしかして、メール見た?」

 


ぁ…そうだよ。

藍には、まだ伝えてないって…。



「見たよ。それが何?」



…見たんだ。はあ…。

あの“男娼”の文字も…


藍には、見られたくなかったな…。



ん?静かだ。 葵さん…?



「…どうしたんスか?顔、真っ赤スよ?」



揶揄ってる声色の藍。

何があったの?



「おまっ…パスワードは? ロック掛かってたろ?」


「ああ。掛かってましたよ。でも…

分かりやすいパスワードだったんで、直ぐに解除出来ました。」


「…っ!」


「でも…嬉しかったな。憶えててくれたんスね。 葵さんが、オレをナンパした日_、」

「おまっ…!」


「葵さん?落ち着いて。オレが絡むと、どうしてそうなるんスか?

お二人が、驚いてますよ?」


「お前なあ…後で覚えとけよ。」


「…如月社長、すみません。オレが愛から離れられない理由が、もう一つあります。」


「あ?…ああ…葵君は、大丈夫なのか?」


「?…大丈夫です。そのうち冷めます。 それより、このケガの事なんです。」


「ぁ…そうだ!そのケガ!何があったんだ?」


「オレ宛てに、こんなものが届きました。」



カチャッ…と、テーブルに何かを置く音。



「このケガは、これが入っていた封筒を開けた時に…。」

 

「…カミソリか?」


「本当にこんな事する人って、いるんですね。」


「だから、勝手に開けるなって、いつも言ってるだろ?」


「暇だったんで、つい…。オレ宛ての郵便物チェックをしようと…」



葵さんの大きなため息が聞こえた。


でもカミソリって…

想像しただけで、膝下がゾワゾワしてくる。



「…で、これは、何かな?」


「オレも、分からなかったんで、画像検索をかけようと、葵さんのPCを借りました。」


「こんな短時間で、分かったのか?」


「写真を撮って、検索かけるだけなんで…。5分もあれば可能です。 で、これは、『ねらわれている学園』というSF学園もののアニメの中に出てくるアイテムのひとつだそうです。」


「どっかで聞いたようなタイトルだな。」


「このバッチは、そのアイテムのひとつで、敵の能力を吸い取る力があるそうで、本来バッチではないらしいんですが、メーカーが、バッチとして売り出したものだそうです。」


「紫津木の能力を吸い取りたいって事か?」


「吸い取ったものを身に付けると、自分の能力に出来るみたいですね。」


「何考えてるのか、わかんねぇな。」


「このアイテムを使うのが、生徒会のメンバーで、書記に如月愛という美少年と、日本人なのに金髪に青い瞳の生徒会長がいて、

そっち系の話じゃないけど、見ようによっては、見える話の作りになってますね。」


「ああ。そっち…。」


「…他にもいくつかアイテムが、あるんですが、その中のひとつを身に付けていた奴を知っています。」



えっ?



「…たぶん、そいつが犯人かと…。」


「どこであった?どんな奴だ?」


「愛の部屋で。…その…オレが追い出した奴らのひとりです。」


「愛ちゃんのストーカーか?」



オレの…?



「だから、オレが邪魔なんじゃないスか?」


 

オレのストーカーが…?

藍を傷つけた?

  


「因みに、そいつが持ってたアイテムは、どんなものなんだ?」


「それを身に付けると、自分の眠っている能力の80%を引き出すことが出来るんだそうです。」


「北○神拳の伝承者か?」


「ケン○ロウですか。」


????????


「そいつ、そんなバッチ付けて、愛ちゃんに何しようとしてたのかな?」


「想像したくないっスね。」



オレも…。


寒気がする。


でも、その人が、藍を傷つけた。


許せない…!



「そんな訳で、愛の傍を離れる訳にはいきません。 そいつは、オレと愛を引き離して、バカな事をする気なんですよ。」



でも…オレが藍から離れる事が、一番の近道なんじゃないのかな?


やっぱり…藍にとって、オレはお荷物だ…。




「愛…?」



ぇ…?


声がする方に顔を上げると



「見つけた。」



跪いて、長い前髪を片手で抑えながら、覗き込んでいる藍が、


目の前に……居た……。



「…スーパーヒーローとまでは、いかなかったけど、まあ…早かったろ?」







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