過去の代償 6


「今後の事なんだが…」


父さんが話を切り出すと、葵さんが、それに答えるように話を続けた。


「……事が落ち着くまで、2人は会わない方がいいと考えています。」

   


え…っ?



「そうだな…」 


「父さん…?」


「愛…紫津木君のためだ。」


「…何で?」


「そうですよね?葵君。」



…え?



「葵君…あなたの気持ちも分かるが、副社長としての見解を聞かせてくれるかな?

いつまでも、ごまかしてはおけないと思うのだが?」


「…どういう意味?…父さん!…葵さん?」



葵さんは俯いていて、目も合わせてくれなかったが、静かに、ゆっくりと語り始めた。



「今…紫津木には、大きな仕事が決まりかけています…。海外ブランドのイメージモデルの話です。 本契約前の大事な時期です…ほんの些細なスキャンダルで、ポシャってしまうかもしれない…。 これが決まれば、アジア人初です。 紫津木は、十分世界に通用する…このチャンスを無駄にしたくないんです…。」



葵さん…



「藍を同席させなかったのは…オレが、拒否すれば済む話だから…? 全ての元凶のこのオレが…藍を拒否すれば…丸く収まる話だから…なんだね…。」


「愛ちゃん…ごめん…」



そうか…そういうことか…


オレ…二度とあの笑顔に会えないんだ…

会っちゃいけないんだ。


オレは、ネックレスを握りしめた。



「愛ちゃんには、幸せになって欲しい。今でも、そう思ってる。 …ごめん…ね…勝手…言って。 オレのせいなのに…ごめん…。」



葵さんが…困ってる…。



「…わかった…藍とは…もう…会わない…」




ぇ…?


今…オレ…なんて言った?



早く、訂正しないと…!


今日これから、デートするんだろ?




あぁぁぁぁぁっ!!


どうすればいい?



藍を救う方法は?



オレと付き合った事で、大好きなモデルの仕事が奪われようとしている。


オレと別れる以外に、何か良い方法ある?




無いか…


無いから、こんな辛そうな顔をしてるんだよね…葵さん。



ここで、オレが決断すれば、全てが解決する…


藍の、これからの仕事も保証されるんだ。



何を迷う?


今まで、いっぱい貰った愛情を藍に返す時が来たんだ。


ありがとう…て…


こんなオレの事…愛してくれて、ありがとう…て…



今朝、もっと抱きしめておけば良かった。


たまには、自分からキスすれば良かった。


好きだよって、言えば良かった。


好きになってくれて、ありがとうって…



藍の笑顔が見たい…




藍!会いたいよ…!




 

ウィィィンウィィィン


携帯のバイブ音が響いた。


隣の葵さんからだ。


葵さんは画面を確認すると、

「すみません」と、父さんの方に頭を下げてから携帯に出た。



「社長…どうされましたか? え?…紫津木が? ケガしたって、どういうことですか?!」



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