過去の代償 4


まもるさんは、父さんから座るように促され、オレの隣に座った。

それを見て、オレも座る。



「今までの経緯を説明させていただきます。」



そう話し始めてから、葵さんがオレの目を見た。

無言で、『話していい?』と問いかけられた気がしたので、頷いてみせると、

今度は、一条さんの顔をチラッと見てから、父さんの方を見た。



「ああ…彼は、いいんだ。家族のようなものだからね。」


と、答えてから「君もかけなさい。」と、一条さんを促して、父さんの隣に座らせた。



「…全てのきっかけは、私がまだ大学に通ってた頃、大学構内で、不用意に愛さんに声をかけてしまった事から始まります。」

 


葵さんは、オレに声をかけた理由、

それによって、安堂と村井に目を付けられてしまい、2人に襲われてしまったことを説明した。


葵さんに抜いてもらった事は、上手くオブラートに包んで話してくれた。


そして、その後の事は、藍から聞いた通りに説明してくれている。


藍のためだと思うけど…

話しづらい事をオレの親に話してくれてる葵さん…。


隣で誠実に話してくれてるその姿を見て、不謹慎かもしれないけど、頼もしく感じてしまってる反面、情けなくもある…。

  

何かオレ…守られてばっかりだな…。


脅されていたとはいえ、オレのせいで、皆に迷惑かけてしまっている。


それに葵さんは、当事者としてだけではなく、藍の事務所の副社長としても来ているはずだ。


藍にも迷惑をかけてしまった。


藍が大好きなモデルの仕事にも、影響を与えてしまうかもしれない…。


そう思うと、自分がしてきた事が、今更ながら怖くなった…。



一通り説明を終えると、

葵さんは、テーブルに両手をつき、額を擦り付けるぐらいに頭を下げた。



「御子息が、このような事態に巻き込まれた事は、全て私の責任です。申し訳ありませんでした!」



暫く沈黙が、続いた。

葵さんは、ずっと頭を下げてる。

オレの方が堪えきれずに父さんを見ると、

父さんはオレの視線に気づき、柔らかく微笑んだ。



「…もう、いいんじゃないのかな?

葵君も、自責の念に苦しんだでしょう? だから…どうか、頭を上げて下さい。」



それでも頭を上げない葵さんに、


「それに、こちらにも落ち度はある。」


「…?」



父さんのその言葉に反応して、葵さんが頭を上げると、

父さんは、言葉を続けた。



「セキュリティーがしっかりしたマンションなんて、いくらでもあったろ? 愛が、うちの傘下のマンションを嫌がったとしても、酷過ぎじゃないのかね? 一条。」


「あ…一条さんは悪く無いんです。 オレが、あの部屋を気に入ったから…」


「愛もだ。いくら脅されてたとは言え、不用意に部屋に入れるなんて。」



確かにそうだ。

精神状態が普通じゃなかったにしても、

付け入る隙を与えてしまった事は、事実だ。



「…愛は、すみれに似て美人なんだから、もっと自覚を持ちなさい。」



へ?


意味が分からず一条さんを見ると、ため息混じりに「そこですか?」と、呟き、呆れ顔だ。


全く理解出来ず、助けを求めるように葵さんを見上げると、「まあ…自覚を持たれても困りますけどね…」

と、苦笑している。



「…藍にも、同じようなこと言われたことがあるし…藍の友達の北本君にも言われた事がある。…どういう意味なの?」


「紫津木は分かるが、友達にも…?」


「ご友人にまで…」



葵さんは、ポカンとしてるし、一条さんは、ますます呆れ顔だ。


2人共、教えてはくれないんだね…。



「…で、その紫津木君の事なんだが、同席させなかった理由というのは? そろそろ訊かせてくれるのかな?」



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