過去の代償 3


何でオレ…笑ってんだろ…?


…涙もとまらないし…



ホント…オレ…


何…やってんの…?



そっか…男娼か…。



情けない事に、今度は、震えが止まらない。


男娼…。この2文字が、重くのしかかる。



オレのしてきた事。


安堂から解放されたからといって、

オレのしてきた罪が許される訳じゃなかった。



そう。…罪だ…。



「愛さま…?」



一条さんが、オレの肩に触れた。


反射的にピクッとなってしまうオレ。



「ご…ごめん…なさい。」


「いえ…。」



そう言う一条さんは、どこか悲しげだ。



「愛さま。社長も私も、愛さまが、男娼だなんて、信じておりません。

ですが、このような事を書かれてしまう理由をご存知なのでしたら、教えていただけないでしょうか? お力になりたいのです。」


「愛…。」



2人とも、そんな目で見ないでよ。


どんな理由があったにしても、オレが、男娼だった事に、変わりはない。


でも…そんな事…言える訳ない…。



「…何も…話せるような事は……何も…無いです。」


「私達の事が、信じられないのか?」



そうじゃない!


そうじゃないんだ…

オレが、してきた事、されてきた事…話した所で、受け止められるの?…父さん。


それに…オレでさえ、忘れてしまいたい事実…。


正直、口に出したく無い。



「そうか…話しづらいのなら、もう一人の当事者に話を訊くしかないか…。」



もう一人…て?


父さんが、一条さんに合図をすると、一条さんは、さっき、オレが入ってきた、秘書室に通じる扉を開けた。



「失礼します。」



一礼して顔を上げ、目と目が合った。



えっ?!



「…愛…ちゃん…?」



彼もまた、オレの姿を捉えると、目を見開いて固まってしまった。



まもるさん。」



相変わらず背が高い。

藍で、高身長は見慣れてはいたけど…

こんなに高かった?

 

オレが、そんなどうでもいいことを考えていると、葵さんは、ツカツカっと足早にオレのところまで来て、上から覆い被さるように、抱きしめてきた。



「愛ちゃん、ごめん! 藍から話は聞いていたけど、力になってやれなかった。 もっと早く気づいていれば…」


「葵さん…!わかったから、」



そうだった。葵さんって、スキンシップが激しい人だった。


しかも、動揺してるのか、“藍”て、言っちゃってますよ!

 


「葵さん、わかったから落ち着いて。父さん達も驚いてるし…」


と、葵さんにだけ聞こえるように、そっと小声で囁くと、漸く離れてくれた。



「ごめんね…凄い痩せちゃってて…動揺した…。」



そんなに痩せたのかな…


葵さんは、父さん達の方に向き直ると、


「失礼しました。取り乱しました。」


と、スーツの襟を直し、深々と頭を下げた。



「いえ…。」と言ってる父さん達は、明らかに引いてる…。



「紫津木本人を希望されていたかと思うのですが、より当事者である私から、お話させていただきます。 紫津木本人には、このメールは見せておりません。 事務所で待つように指示してあります。」



ぇ…?



心臓が、ひっくり返った気がした。



ズキズキする…



何で?…葵さん…



「その理由は、後ほど説明させてください。」



昔から、嫌な予感だけは、良く当たる…。

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