ゆでだこ
わたし、
ついこの間センター試験をしたと思ったら気付けば大学生。そして大学生になったわたしは念願の、先輩との同棲生活を手に入れてしまった。
そうなってしまったら勿論、始まるのは爛れ切った生活、ならぬ性活……なんてことはなくてちゃんと大学に通っている。
というか、そうしないと愛想を尽かされちゃうかもって考えると、ゾッとする。
でも、夜はそんなこと考えなくていい。とことん甘えられる。晩御飯を食べて、お風呂に入るまでの空き時間。わたしは先輩――
「ほなみぃ~~」
「はいはい」
わたしは猫なで声で穂南にすり寄る。絨毯の上に寝転がって、穂南の太もも目掛けてごろごろ。
穂南はちょっと面倒くさそうにため息なんてつきながら、勝手に膝枕をするわたしを気にも留めないような素振りをする。
視線はテレビ。でもわたしは知っている。穂南は実は滅茶苦茶に照れているんだ。今もほら、バレないようにわたしがすこーしずれて顔を覗き込むと、顔を真っ赤にしてテレビでやってるバラエティ番組なんて何も頭に入ってこないっていう顔をしてる。
可愛い。
すらっとした体形に切れ長の目やすっきりした鼻筋。髪の毛も大体がアップサイドのポニーテールで、外からはクール系とみられがちの穂南は、実は照れ屋なんだよ。ご存知でしょうか、奥さん。
わたしはそんな、わたしだけが知っている穂南の顔をちらっと盗み見て今日もご満悦。ついでに太ももに頬ずりをしておく。
「ね、穂南」
「うん?」
「呼びたかっただけだよ」
「そっかい」
必死で平静を装っている穂南が愛おしい。隠さなくてもいいのに。でも、そうやって恥ずかしがって隠そうとしている穂南が可愛いからこれはこれでいい。うーん、でもたまにはもっと穂南からもべたべたしてきてくれてもいいのになぁ。
そう思った私は、ゆっくりと上体を起こす。
「ほなみっ」
そして両手を大きく広げて満面の笑みで彼女の名前を呼んでみた。さぁ、どんと来い!
「えっ」
「えっ?」
だけど穂南は困惑したような表情でこちらを見るばかり。
「ハ・グ。 ぎゅーってしよ?」
「う、お……」
わぁ、顔真っ赤。ゆでだこよりも真っ赤に染まった穂南の顔を見て既にわたしもお腹いっぱい。
普段はかっこいいし、わたしの前でもなんでもそつなくこなしちゃう穂南だけど、本当にわたしには弱い。すごく可愛い。
結局思考停止したのか、こちらを見たまま固まってしまった穂南。顔が真っ赤なのは赤信号なのかな?
しょうがないなぁとわたしから近寄っていくところでようやく、穂南が動き出した。
「ま、まって……」
「え、なんで?」
「むり……」
近づいてくるわたしを、穂南は左手を前にやって制した。顔は私から逸らして、右手で覆っている。照れているのかな。
「むりじゃないよー、ぎゅってしてほしいなぁ」
「だめ、むり。 私が死んでしまう」
「それは困るなぁ」
あはは、すっごい照れてる。穂南が横を向いたからわかるけれど、耳まで真っ赤だ。人って、お酒飲んでなくてもここまで真っ赤になるんだなぁ。
そんな穂南の姿を見ていると、もっと加虐心が揺すられてしまう。もっと可愛い穂南が見たい。照れてる穂南が見たい。
「ぎゅってしないなら……こうしちゃうぞ……」
わたしは両手をおろして穂南に急接近した。こちらを直視していない穂南の反応は遅い。ふっふ、これは捕った……!
わたしは一目散にそこを目掛けた。こちらを制するために延ばされた左手を簡単に掻い潜って穂南の顔の横に。そしてゆっくりと口を開けた。
「あぁむ」
「うひゃっ!?」
これはちょっとした悪戯心。穂南の真っ赤に熟れた耳を、わたしはゆっくりと口に含んでみた。味はしない、って当たり前か。
穂南はびくっと体を震わせたけど、わたしを振り払いはしなかった。いつもそう、わたしに怪我があってはいけないからと。本当に穂南は優しい。だからわたしも調子に乗っちゃうんだけれど。
「えへへっ、ほら、ぎゅーしないともっと舐めるぞ」
でもあんまり苛めるのも可哀想。耳はすぐに解放してあげて、代わりに耳元でわたしは囁いた。
「わかったよ……」
「わーい! ぎゅぅ……」
やっとこっちを向いた穂南は、やっぱり顔はまっかっかだったけど。
わたしは改めて両手を広げて、大好きで、大好きすぎる穂南を思い切り抱き締めた。
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