263話―地竜、大暴走!

 エリザベートたちの到着により、今度こそ連合軍が勢いを盛り返し反撃が始まった。バンコ家嫡男、ヘラクレスはグリフォンを駆り、大きな棍棒を振り回し飛竜を蹴散らす。


「オラッ! さあ、かかってこい、空飛ぶトカゲども! 全員まとめて頭をカチ割ってやるぞ!」


「ギャオオオオ!!」


 ヘラクレスを筆頭に、バンコ家の戦士たちは空の戦力としてワイバーンたちを葬っていく。一方、地上ではエリザベートがレイピアを振るい、地竜たちを屠っていた。


 岩のように硬く強靭な地竜のウロコも、剣の魔神の力を得たエリザベートの前には紙くず同然。次々と喉笛を貫かれ、断末魔と共に崩れ落ちていく。


「さあ、どんどんおいでなさいまし! これ以上大暴れさせませんわよ!」


「ガーッハハハハハ!! 勇ましいなぁ、お嬢ちゃんよ!! なら、俺とグランガルが相手してやらぁ!!」


 その時……地響きと共に、地竜グランガルを駆るノーグが突進してきた。長い柄と巨大な両刃を備える大斧を軽々と振り回し、エリザベートの首を狩ろうとする。


 それを見たエリザベートは、共に戦っていた連合軍の兵士たちに下がるよう指示し、一人ノーグを迎え撃つ。初撃をローリングで避け、Uターンしてくる相手を見る。


「我が一撃を!! 食らえぇい!!」


「なら、見せて差し上げますわ。わたくしが授かった……魔神の、剛力を!」


 振り下ろされた大斧を、エリザベートは炎を纏ったレイピアで受け止めて見せた。螺旋を描きながら刃に纏わりつく炎が、強靭度を引き上げているのだ。


 ノーグは全力を込めて斧を振り下ろしエリザベートを両断しようとするも、完全な拮抗状態に持ち込まれてしまった。エリザベートは空いた手で炎の壁を作り、グランガルの攻撃を防ぐ。


「ぐぬうぅ……!! バカな、この俺がこんな華奢なガキにつばぜり合いに持ち込まれただと!?」


「残念でしたわね。見た目だけで判断すると、痛い目に合いますわよ。アッパードスラッシュ!」


 そう言いながら、エリザベートは両足に力を込めて飛び上がり斧を弾き飛ばしつつ斬り上げを叩き込む。残念ながら刃はギリギリのところで回避されたものの、炎は届いた。


 高熱で腕を焼かれ、ノーグは痛みに顔をしかめる。


「ぐぬうっ!! おのれ、よくもやりおったな!! グランガルよ、お前のブレスで生意気な小娘を石にしてしまえ!!」


「グゥー……ガアアァァ!!」


「! おっと!」


 グランガルは大きく息を吸い込み、勢いよく小さな石の粒が混ざった灰色のブレスを吐き出した。エリザベートは背中に炎の翼を生やし空へ逃げる。


 ブレスは扇状に広がり、大通りに転がる兵士たちや竜の死体を石へと変えていく。灰色の石像へと変えられた死体は、泣き声のような音と共に砕けてしまった。


「なんということ……」


「チッ、避けられたか!! まあいいさ、なら……先に他のごみどもを始末するとしようかな!!」


 空中にいるエリザベートへの攻撃をあっさりと諦め、ノーグは撤退していた連合軍へ狙いを定める。石化ブレスを使い、一気に全滅させるつもりなのだ。


 それを阻止するためにエリザベートが降りてくることをノーグはすでに想定しており、いつでもカウンターを叩き込めるよう準備をしてあった。が……。


「残念でしたわね、その手には乗りませんわよ。ファイアー・ウォール!」


「むっ、何ィ!?」


 エリザベートはレイピアを振り、炎を地上へと飛ばす。着弾と同時に炎が燃え上がり、大きな壁となってノーグ・グランガルと連合軍を分断する。


 自分への追撃をさっさと諦めた時点で、エリザベートにはノーグの狙いが読めていたのだ。リオと出会い、共に戦ってきたことで培った洞察力が発揮された。


「ぐううぬうう!! 人の作戦をいちいち潰しおって!! ムカつく小娘だ、ならば……食らえィ!!」


 苛立ちを募らせるノーグは、大斧をシャベルのように使い、石畳を砕いて欠片を上空へ放り投げる。そこへグランガルのブレスが加わり、触れると石化する瓦礫が飛んでいく。


 恐るべき遠距離攻撃を前に、エリザベートは回避に専念しつつ反撃のチャンスを窺う。次々と飛んでくる瓦礫を避け、相手のスタミナが切れるのを待つ。


 が、ノーグとグランガルには無尽蔵のスタミナがあった。場所を変えて瓦礫をどんどん放り投げてくるため、手がつけられなくなってしまう。


「全くもう、どれだけタフなんですの!? ……こうなったら、賭けに出るしかありませんわね。大丈夫、師匠が通った道を、わたくしも辿るだけですわ」


 このままでは先に自分の魔力が切れる。そう考えたエリザベートは、反撃するために危険な賭けに出ることを決めた。かつてリオたちがそうしたように、危機を乗り越えようとする。


 大きく息を吸い込んだ後、エリザベートは超高温の炎を吹き出させ全身に纏う。その状態で、地上にいるノーグとグランガルに向かって勢いよく突進していった。


「とりゃああああーーー!!」


「ガーッハハハハハ!! なんだなんだ、自分から死にに来たようだな!! なら、望み通り石に変えてやる!! そーら、これで終わりだ!!」


「グギャアオオォ!!」


 エリザベートを仕留めるべく、ノーグは特大の瓦礫を放り投げた。そこへグランガルの吐いた石化ブレスが加わり、忌まわしき塊となって放物線を描き飛んでいく。


 それを見たエリザベートは魔力をさらにブーストし、炎の規模を大きくする。両者がぶつかり合った次の瞬間……灰色の瘴気を纏う瓦礫は、炎に触れたところから蒸発していった。


「な、なんだと!? そんなバカな!!」


「ふふっ、この勝負……わたくしの勝ちですわ! この炎を維持している限り、わたくしに瓦礫は当たりませんわよ!」


 驚愕するノーグに、エリザベートは勝ち誇りながらそう叫ぶ。事実、瓦礫が蒸発する速度は凄まじく、炎を貫通することは出来なかった。


 ノーグは一旦場所を移して仕切り直そうとするも、見境なしに地面を掘り返したため、満足に移動することすら出来ない。文字通り、自ら墓穴を掘ったのだ。


「これで終わりですわ! 灼炎三連剣!」


「ぐっ……がああああ!!」


 急降下したエリザベートのレイピアが振るわれ、一瞬のうちに三連続の斬撃が放たれた。全身を切り刻まれたノーグは、地を吹き出しながらグランガルの背から落下する。


 主を倒されたグランガルは怒り狂い、後ろ足としっぽを支えに立ち上がりエリザベートを鋭い爪で切り刻もうとする。が、それよりも早く、少女は空へ逃れた。


「グギアアアア!!」


「うぐう……。落ち着け、グランガル。俺はまだ死んじゃいねえ。まだ、切り札はある……」


「あいつ、まだ息が……!」


 どこまでもしぶとく、ノーグはまだ生きていた。今度こそトドメを刺さんとエリザベートは再度降下しようとするが、彼女を阻むべくグランガルはブレスを放つ。


 その間に、ノーグは懐からあるモノを取り出す。オルグラム配下の竜騎士に与えられる、最後の切り札……茶色い竜魂石を取り出し、握り砕く。


「さあ、最後の反撃だ!! 竜魂……解放!!」


「ギイアアアアァ!!」


 石を掲げたノーグを、グランガルは一息に丸呑みしてしまう。何が起こるのか知らないエリザベートは、困惑して動きを止めてしまった。


「あ、相棒を食べた!? あの竜何を考えていますの!?」


「……ああ、食っていいのさ。おかげで……俺の真の姿を見せられるからな!!」


 次の瞬間、グランガルの身体から目映い光が放たれる。少しして光が消えると、そこには巨大な岩山のような姿になったノーグが立っていた。


「……なるほど。それが狙いだったということですわね? 上等ですわ。わたくしも、まだ本気を出していなかったので……もっと楽しませていただきますわ」


 臆することなく、エリザベートは不敵に笑う。彼女の中に眠る炎は、まだ衰えることを知らない。

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