227話―魔神の絆VS悪逆の絆

「フン、新手か。何人来ようともムダだ。我々の連携を崩すことなど出来ん!」


「本当にそうか、確かめてみればいい。我ら魔神の絆を甘く見ないことだ」


 エルカリオスとダンテの参戦により、数の差はある程度埋まった。とはいえ、リオとレケレスが消耗している状況に変わりはなく、完全に優位に立ったとは言い難い。


「リオよ、レケレスと共に下がっていろ。体力と魔力が回復するまでは戦わなくていい」


「でも……」


「大丈夫だ。私たちは負けん。絶対にな」


 不安げなリオにそう答え、エルカリオスは不敵な笑みを浮かべる。炎のように真っ赤な刃を持つ剣を呼び出し、ロートたちと向かい合う。


 ダンテもすでに槍を構えており、いつでも戦える状態になっていた。二人が並び立つと、ロートたちデストルファイブの面々が先に仕掛ける。


「行くぞお前たち! フォーメーションBだ!」


「了解、リーダー!」


 五人は並びを変え、ロートを中心にひし形の陣形を組む。先頭に立つヴァイスは槍を構え、仲間を率いてエルカリオスたちに攻撃を行う。


「アタシの槍で穴だらけにしてやるよ! 食らいな!」


「へっ、おもしれえ。槍捌きでオレと渡り合おうってか? やれるもんならやってみな! 穿風の槍!」


 ダンテとヴァイス、二人の槍使いがぶつかり合う。互いの操る槍が、相手を貫かんと忙しなく振るわれる。互角の勝負を繰り広げているところに、左右からグリュンとゲルプが襲いかかる。


「私たちもいるということ……」


「忘れるんじゃねえぜ!」


「忘れてなどいない。何のために私がいると思うのだ?」


 三人の連携によってダンテを倒そうとするも、そこへすかさずエルカリオスが割って入る。剣を地面に突き刺し、炎の壁を噴き上がらせてグリュンとゲルプを遮断した。


 連携によってダンテを倒すつもりでいたヴァイスは反応が遅れてしまう。動きが鈍った一瞬の隙を突き、ダンテは風の槍を前方に放った。


「隙だらけだ! スパイラルスピア!」


「しまっ……くっ!」


 攻撃を避けきれず、ヴァイスは脇腹を切り裂かれる。一旦後ろに下がりロートと交代しようと目論むヴァイスに追撃を加えようとするダンテだが、エルカリオスに止められた。


「待て、ダンテ。奥にいる青い服の奴……かなり危険だ。迂闊に踏み込めば返り討ちにされかねん」


「……わーったよ。こっちも下がるぜ」


 チラチラと拳銃を見せながら牽制してくるブラオを警戒し、エルカリオスは助言をする。ダンテは素直に従い、一旦引いてバトンタッチする。


 互いに仲間と交代し、戦況は振り出しに戻った。リオたちが見守るなか、エルカリオスはロートと剣を交え激しい戦いを繰り広げる。


「話には聞いているぞ、お前が魔神たちのリーダーだな? フッ、お前を倒せれば、グレイガ様もさぞやお喜びになられるだろうよ!」


「倒す? 誰が誰を? よもや、お前ごときが私を倒せるとでも自惚れているのか? なら教えてやる。魔神の長兄の力を!」


 そう叫ぶと、エルカリオスは地面から噴き出させていた炎を消し止め、再び三対一……いや、ブラオを含めた四対一の構図に戻す。自分一人で全員を倒す。


 言外にそう告げているのだ。


「バカな奴め! 挟み撃ちだ! サンダボルグハンマー!」


「三方向からの一斉攻撃、防げるものなら防いでみなさい! フラウウィップ!」


「我らの連携を食らえ! フレアスラッシュ!」


 絶妙に時間をズラし、連続で攻撃が叩き込まれる。対して、エルカリオスは地面に突き刺した剣の柄に手を置いたまま、全く動こうとしない。


 そんな兄を見て、リオは思わず大きな声で叫んでしまう。


「危ない! 兄さん、逃げて!」


「逃げる? そんな必要はない。こやらつでは、私を傷付けることは出来ないのだから」


 直後、エルカリオスに三人の攻撃が連続でヒットする。が、その言葉通りロートたちの放った攻撃は、エルカリオスに傷を付けることはなかった。


 魔神の強靭な肌には、かすり傷一つなかったのだ。想定外の事態に、ロートたちは思わず狼狽えてしまう。まさか、ノーダメージだとは思ってたいなかったのだ。


「ば、バカな!?」


「次は私の番だ。教えてやろう、攻撃とは……こういうものを言うのだ!」


「まずい、下がれロート、グリュン、ゲルプ! アクアウォール!」


 仲間の危機を察し、ブラオは弾丸を連射する。弾は空中で水のカーテンに変化し、エルカリオスの攻撃を阻もうとする。対して、エルカリオスは剣を引き抜き、ただ横に薙ぐ。


 彼の攻撃は、ただそれだけでよかった。


「……手応え、あり」


「な……ぐあっ!」


 直後、振られた剣の軌道をなぞるように炎が波動となってロートたちに襲いかかる。水のカーテンを切り裂き、ロートたちを高熱で包み込む。辛うじて、最後尾にいたブラオとヴァイスは攻撃から逃れた。


 が、それ以外の三人の傷は深く、今後の戦闘に支障をきたすことは避けられないだろう。さらに彼らにとって悪いことに、リオとレケレスが回復し戦線に復帰してきた。


「やっぱり、兄さんは凄いや……。一撃で三人を倒しちゃうなんて」


「いや、完全に仕留めたわけではない。あの水のカーテンのせいで威力を軽減された。奴らはまだ戦えるはずだ、油断してはならん」


 その言葉通り、ロートたちはゆっくりとだが起き上がってきた。追撃を岐波えようにも、ブラオが拳銃を連射し、攻撃する暇を与えないよう牽制をしてくる。


「大丈夫か?」


「ああ、水のカーテンのおかげで致命傷は免れた。助かったぞ、ブラオ。とはいえ、そろそろ切り札を使わねばなるまい」


 ブラオに礼を言いつつ、ロートは連絡用の魔法石を取り出す。上空に浮かぶ飛行要塞、ジャスティスデストロイヤーに支援を要請し始めた。


「こちらデストルロート、支援兵器の投下を要請する」


『了解、ジャスティスブレイカーを投下する』


「あれは……。なんだろう、嫌な予感がする……。あれが落ちてくる前に決着を着けないと!」


 そのやり取りの後、ジャスティスデストロイヤーの下部が開き、パラシュートが付いた巨大な自走式大砲が落下してくる。嫌な予感を覚えたリオは、敵が新たな兵器を手にする前に倒そうと仲間たちに呼び掛けた。


 リオは不壊の盾を人数分作り出し、レケレスたちに投げ渡す。そして、ブラオの放つ弾幕を掻い潜りながら接近していく。


「フン、今なら我々に勝てると踏んだか? ムダなことを! どれだけ傷付いても、我らの連携は崩れん!」


「なら、こっちだって連携するさ! 出でよ、界門の盾!」


「よし、任せろ!」


 目には目を、歯には歯を、連携には連携を。リオが界門の盾を作り出すと、その中にダンテが飛び込む。エルカリオスは空から、レケレスはリオに続いて……連携攻撃を仕掛ける。


「ムダだ。今度は額を撃ち抜いてやろう」


「そりゃ無理だ。オレに殴り飛ばされるんだからな!」


「なっ!?」


 リオを狙って引き金を引こうとするブラオだったが、すぐ横に界門の盾が現れ、中から飛び出してきたダンテに殴り飛ばされてしまう。それを見たヴァイスは、すぐさま槍を構える。


「よくもブラオを……おおっ!?」


「ざーんねん、ころんじゃえー!」


 そこへすかさずレケレスが舌を伸ばし、ヴァイスの足に引っ掻けて転倒させる。あっという間に二人が戦線離脱し、建て直しを計るグリュンをエルカリオスがフライングボディプレスで押し潰す。


「てめえらあっ!」


「待て、早まるなゲルプ!」


 次々と仲間をやられ、激昂したゲルプは鉄槌を振りかざしながらリオに突撃する。リオは不壊の盾で攻撃を受け止め、カウンターの蹴りをみぞおちに叩き込んだ。


「食らえ!」


「ぐえっ……」


 リオたちはこれまでのお返しとばかりに、反撃する間もない巧みな連携でロート以外の四人を遠くに吹き飛ばすことに成功した。後はロートを倒せば、支援兵器が来る前に決着を着けられる。


 と思われたその時……。


「まだ……終わらぬ!」


「なろお! ……んなっ!?」


 ブラオは身体を起こし、弾丸を発射する。槍で叩き落とそうとしたダンテだったが、なんと弾は途中で軌道を変え、槍を避けてしまった。


 不規則に軌道を変えてレケレスやエルカリオスの攻撃をかわし、リオの右足を貫く。


「うあっ……」


「怯んだな? 次でトドメだ!」


「やべえ、リオ……げっ、放せてめえ!」


「おっと、そうはいかないよ!」


 片膝をついたリオにトドメを刺すべく、ブラオはフルリロードした弾丸を全て発射する。ダンテたちはリオを助けに行こうとするも、ヴァイス、グリュン、ゲルプ、ロートに妨害されてしまう。


「もー、鞭がじゃまー!」


「貴様、離せ!」


 レケレスはグリュンの鞭に絡め取られ、エルカリオスはゲルプとロートに飛び付かれ動きを封じられてしまった。


「そうはいかないわ!」


「やれー! ブラオ!」


 仲間たちの声援が響くなか、弾丸がリオに迫る。もうダメかと思われた、その時――。


「そうは……いくかよぉ!」


「!? ジールさん!?」


 気を失っていたジールが目を覚まし、リオと弾丸の間に飛び込んだ。リオの身代わりとなり、全身を貫かれてしまう。一拍遅れて血が吹き出し、ジールは崩れ落ちる。


「ジールさん、どうして!?」


「……おめえはよ、腐ってたオレの性根を……叩き直してくれた。だからよ、今までの償いと、礼を……しねえと、だ……ろ……」


 そう言い残し、ジールは事切れた。リオは彼の亡骸をそっと抱き締め、小さな声でありがとう、と呟いた。


「フン、バカな奴だね。あのまま寝てればよかったものを。そうすりゃ、ムダ死にしなくて済んだのに」


「……なんだと?」


 ジールを侮辱するヴァイス……いや、ディシャに、リオは怒りに満ちた声を向ける。その冷徹な響きに、その場にいた全員の動きが止まった。


「……許さない。誰一人として、ジールさんの犠牲を嗤うことは許さない。彼の死は……ムダなんかじゃない」


 次の瞬間、凄まじい冷気が周囲一帯を包み込む。全てが凍り付き、白銀の世界が現れた。リオは立ち上がり、右手を強く握り締める。


 リオの作り出す『世界』が今――悪逆の使徒たちに牙を剥く。

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