165話―弓魔神リーロン・サージェリウス
リーロンが真の力を解放し、戦いは第二ラウンドへ突入した。ロールストーン帯の半ばまで到達したリオたちは、転がる岩を避けつつ戦闘を行う。
「フハハ、いつまで逃げられるか楽しみだな! さあ、始めようか! アローブレイド!」
矢に魔力が送り込まれ、巨大な剣へと形を変える。遠距離からの攻撃ではミラーリングインパクトに跳ね返されるため、近距離による攻撃に切り替えたのだ。
タイヤを駆動させ、乗る雪船に接近してくるリーロンを迎え撃つべく、リオは一旦
「このっ!」
「おっと、残念。リーチは私の方が上のようだな!」
リオは氷爪の盾で反撃しようとするも、相手の方が武器のリーチが長く間合いに入れられない。前に進もうとするも、命綱の代わりの鎖がピンと張ってそれ以上前進出来ないのだ。
そこへアイージャが闇のレーザーを撃ち込むも、リーロンは身をひるがえし離脱してしまう。目標から外れた闇のレーザーは、転がる岩の一つに当たり粉砕した。
「あやつめ、ちょこまかと……。しかし、こう揺れては……くっ、狙いもつけにくい!」
「む……仕方あるまい。まずはロールストーン帯を抜ける! 二人とも、しっかり捕まっとれ!」
アイージャはリーチの足りないリオの代わりにリーロンを攻撃しようとするも、岩を避けるため雪船が右に左に揺れるため狙いを付けることが出来ずにいた。
そこで、まずはロールストーン帯を抜けて船を安定させようとモローはメインマストの根元にあるレバーを倒す。すると、雪船の内部に搭載された魔導エンジンの出力が急上昇する。
「うおっ!?」
「わああ!」
「逃がすものか! ボミングアロー!」
一瞬雪船が浮き上がり、アイージャとリオは浮遊感を味わう。急加速した雪船は、ロールストーン帯から脱出するため全速前進していく。
リーロンは雪船を逃がすまいと、岩に向かって矢を放つ。矢は岩の下部に突き刺さり、一拍遅れて大爆発を起こす。砕けた岩の破片が、雪船目掛けて降り注いでくる。
「チッ、あやつめ、面倒なことを。すまんが、どっちかアレを片付けてくれ。わしは運転で手が離せん!」
「なら、妾に任せよ!」
「僕だって!」
モローは雪船の手動運転を受け持っているため迎撃が出来ず、代わりにアイージャが破片を破壊する。リオはアイージャが破壊しきれなかった破片を壊し、なんとか危機を凌ぐ。
が、残った囮の雪船は岩の破片の直撃を受け全滅してしまう。これでもう、リオたちもリーロンも互いに頼れるものはなくなりイーブンの状況となった。
「ほう、全て防ぐとはなかなかやるな。だが……次はどうかな! スターダスト・アロー!」
「まずい、あいつマストを! てやっ!」
リーロンは雪船のメインマストを狙い、輝く矢を射つ。猛スピードで飛んでくる矢に対し、凍鏡の盾の展開が間に合わないと判断したリオは、大きくジャンプし矢を叩き落とそうとする。
「バカめ! そうするだろうことは予想済みだ! 二の矢を食らえ!」
「うああっ!」
それを見たリーロンは、素早く二発目のスターダスト・アローを射ちリオを攻撃する。一射目は叩き落とせたリオも、間髪入れず放たれた二射目は防げず左肩を貫かれてしまう。
矢はメインマストを貫き、リオをはりつけにしてしまった。アイージャはそれを見て、怒りの叫びを上げる。
「よくもリオを! リーロン……貴様ぁ!」
「ほう、怒ったかい? 結構、怒るがいいさ。どれだけ怒ったところで、お前たちの攻撃など当たらないからな!」
アイージャに対してそう挑発しながら、リーロンは一気に五本の矢を雪船目掛けて放つ。アイージャは驚異的な集中力を発揮し、狙いが定めにくい中矢を全て撃ち落とす。
そのままの勢いでリーロンへ闇のレーザーを浴びせかけ、何発かは命中させるも全くダメージを与えられない。リミッターを解除したことにより、耐久力も上昇しているようだ。
「ハハハハハ!! ムダムダムダ! 全てムダだ! 先日はリミッターのせいで遅れを取ったが、今は違う! お前たちを雪原の塵にしてくれるわ!」
「どうしよう、このままじゃ……。みんな、やられちゃう……」
リオは肩を貫く矢をへし折ろうとするも、恐ろしく頑丈な矢を折るのに苦戦していた。ジャスティス・ガントレットの力を発動しようとするも、痛みのせいで上手く力を使えない。
「ハハハハハ、いい気分だ! それじゃあ、そろそろフィナーレにしよう! 『奴』から移植されたこの力で、トドメを刺してくれる! ビーストパワー、オーバーロード!」
もうすぐロールストーン帯を抜けるというところに来て、リーロンはダメ押しとばかりにさらに力を解き放つ。上半身が展開して巨大なバリスタが出現し、雪船に狙いを定める。
「まずい、あんなの食らったら船が壊れる! なんとか、止めないと……!?」
「む!? な、なんだ!?」
その時だった。リオの持つジャスティス・ガントレットと、リーロンの体内に宿るレケレスの力が共鳴を起こしたのだ。リーロンの身体から紫色のもやが現れ、リオの方へ流れ込む。
「あのもや……まさか、レケレスの……」
「この、力は……」
もやを見たアイージャとリオは、それぞれ違う反応を見せる。もやはジャスティス・ガントレットの手の甲にある最後の窪みに強い寄せられ、そして……。
「うわっ!」
「ぬうっ!」
「ぐっ、目眩ましか!」
毒々しい紫色の閃光が一瞬放たれた後、リオの身体を力が満たしていく。限りなく透明に近い紫色の宝玉が、ガントレットに嵌め込まれていた。
「この力……そうか、これがレケレスさんの……なら!」
リオは紫色の宝玉の力を使い、レケレスが司る毒のパワーを解放する。ガントレット全体が毒々しい色に染まり、蒸気が立ち昇る。
「むう……てやあっ!」
左手で矢を掴んで身体を固定した後、リオは右手を矢に向かって振り下ろし手刀を叩き込む。すると、ガントレットに宿る毒の力が矢を腐食させ、真っ二つに溶断した。
「ねえ様! ここは僕に任せて!」
「うむ、任せたぞリオ!」
「チィィ……ムダな足掻きを! 何をしようがムダなんだよ! ファイナル・アロー!」
リーロンは歯軋りしつつ、バリスタから矢を放つ。スターダスト・アローの比ではない大きさを持つ矢を前に、リオは新たな盾を作り出す。
「ムダなのはそっちさ、リーロン。もう、どんな矢も僕には効かない! 出でよ、溶滅の盾!」
「なっ……」
次の瞬間、リオの目の前にカエルの顔を模した紫色の盾が現れた。盾の表面は不気味に泡立っており、ファイナル・アローが触れた途端溶けてしまう。
あっという間に矢が溶けてしまい、リーロンは思わず唖然としてしまう。そんな彼に向けて、リオは溶滅の盾を蹴り飛ばした。
「これでも食らえ!」
「! しまっ……」
我に返ったリーロンは、慌てて盾を避けようとするももう遅かった。直撃した盾が砕け、表面に張り付いていた猛毒がリーロンに浴びせかけられる。
毒はリーロンのボディを構成するキカイを腐食させ、瞬く間にその機能を喪失させていく。両肩に生えたボウガンの腕が根元から腐り落ち、タイヤが溶ける。
「ぐ、あ、あ……。バカな、こんな、こんなことが……私は、リミッターを解除したんだ……負ける、はずがない……」
「もう終わりだよ、リーロン。お前はここで溶けて死ぬんだ。誰にも看取られることなく一人で、ね」
「おのれええ……! そうは……いかぬうぅぅ!!」
致命傷を負ったリーロンは、最後の抵抗を始める。身体の接続を解除して下半身を切り捨て、腰に内蔵されたブースターを使い上半身だけで飛びかかってきたのだ。
しかし、そんな悪足掻きもリオの前では無意味だった。毒の力を宿したまま、リオは右手を握り締め――飛んできたリーロンの顔面に、正拳突きを叩き込んだ。
「うおりゃああああーーー!!!」
「ぐごあああ!! バカ、な……」
頭脳回路を破壊され、リーロンは完全にその機能を停止した。腐食だらけのスクラップとなり、永遠に雪の中に埋もれ続けるという末路を、たどったのであった。
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