140話―猛攻! 機巧巨人の戦い!

「面白イ! ならバ、我を倒しテみるガいい! ソノ木偶の坊でナァ!」


「我が君、敵が動きます。迎撃準備を」


「うん! よーし、やるぞ!」


 ラギュアロスが起き上がるのを見ながら、リオとファティマはそう言葉を交わす。ティタンドールとラギュアロスが同時に走り出し、夕焼けに染まりつつある空の下ぶつかり合う。


 互いにタックルを放ち、肩をぶつけ合った。両者共に一歩も引かず、ファーストアタックは互角に終わる。次の瞬間、ティタンドールが一歩下がり、アッパーを相手の顎に叩き込む。


「食らえっ!」


「ぐくっ……」


 魔導ブースターエンジンによる加速が加わった一撃が炸裂し、ラギュアロスの顎を粉砕する。が、仮にも神、ラギュアロスは一撃では沈まない。


 踏みとどまった異神は、ティタンドールの振り抜かれた腕を掴みへし折ろうとする。リオはティタンドールを操縦して振り払おうとするも、万力のような握力から逃れるのは困難だった。


「わわっ、どうしよどうしよ……なんだかこの板も赤くなってるし、このままだと大変だよ!」


「問題ありません。わたくしにお任せくださいませ、我が君」


 コックピット内にあるパネルの一部が赤く染まる。ラギュアロスの攻撃により、ティタンドールの右腕に異常が生じたことを知らせているのだ。


 ファティマはリオに変わってブレインコントロールデバイスにアクセスし、反撃に出る。空いている左腕を変形させ、肘から先を巨大なチェンソーにした。


 その状態で大きく腕を振りかぶり、ラギュアロスの脇腹に高速回転するチェンソーの刃を叩き込んだ。


「さあ、食らいなさい。タイタンブレイド!」


「ぐっ! コのッ!」


 チェンソーの刃を押し当てられ、ラギュアロスは一瞬怯む。その隙にティタンドールの右腕が引き抜かれ、戦いはイーブンの状態に戻った。


 ファティマは左腕を元に戻し、異神に組み付く。ラギュアロスもティタンドールに向かって腕を伸ばし、二体の機巧の巨人はロックアップの体勢を取る。


「ホう、力はまずマずあるヨウだ。とは言エ、どこマデ耐えられルかナ?」


「むぐぐぐぐ……!」


 互いに相手の後頭部と腕を掴み、引き寄せようとする力と引き離そうとする力がせめぎ合う。出力自体はティタンドールの方が上だが、まだ稼働中したばかりで全力を出せていない。


 それを見抜いたラギュアロスは、速攻で畳み掛けケリを着ける方針を取る。ロックアップの体勢を解き、身体を腕ごと回転させティタンドールのこめかみに裏拳を叩き込んだ。


「くっ!」


「うわっ!」


 衝撃でコックピットが揺れ、リオとファティマはたまらず悲鳴を上げる。二人が体勢を立て直す暇など与えんとばかりに、ラギュアロスは拳と蹴りの連擊を打ち込む。


 凄まじい怪力が乗った一撃がティタンドールのパーツを砕き、少しずつ被害を拡大させていく。パネルを見ながら、初めてファティマは焦りに満ちた声を出した。


「我が君、このまま攻撃を受け続ければ機体が致命的な損傷を受けます!」


「反撃しないと……! でも、この猛攻じゃ……そうだ!」


 被害の拡大を知らせるアラームが鳴り響くなか、リオは閃く。自分の持つ盾の魔神の力を、ティタンドールに流し込んで強化すればいいのだ、と。


 リオはファティマの身体を媒介にして、己の魔力をティタンドールへ流し込んでいく。すると、機体に変化が現れる。


「……なんダ? 急に硬く……グッ! これハ!?」


 ティタンドールの身体を、魔力で出来た青色の強化装甲外骨格エグゾスケルアーマーが覆っていく。青地に金の縁取りが施されたアーマーにより、強靭な防御力を得たのだ。


「おやおや、これは……見てごらんよ、アイージャ。壮観だねえ」


「……ああ。そうだな、姉上」


 首から下が騎士を思わせる鎧に包まれたティタンドールを見上げ、ダンスレイルとアイージャは呟く。夕焼けの光に照らされた機巧の巨人は、腕を交差させ相手の攻撃を止める。


 そのまま膝蹴りを叩き込み、ラギュアロスを数歩後退させる。ラギュアロスが反撃するより早く、リオはティタンドールの右腕を変形させ巨大な大砲を作り出す。


「反撃開始だ! 食らえ! ギガノマジカキャノン!」


「そンナもの……グウっ!」


 ラギュアロスは左腕を構成するパーツを展開し、防御シールドを作り出す。が、ティタンドールが放った魔力の砲弾の破壊力は凄まじく、シールドごと左腕を粉砕してみせた。


「バカな!? 我ガ腕が破壊サレるだト!?」


「どうだ! これがティタンドールの本当の力だ!」


 リオの力が流し込まれたことで、本調子でなかったティタンドールの魔導ブースターエンジンが完全に起動したのだ。全力を発揮出来るようになった巨人の力は、ラギュアロスをも凌ぐ。


 砕かれた腕を再生させているラギュアロスに、リオとファティマは決着を着けんと逆襲を敢行する。今度は逆に、ティタンドールの拳と蹴りが異神に襲いかかった。


「我が君、破損した箇所の修復はわたくしが行います。その間、攻撃と防御をお任せしても大丈夫でしょうか?」


「任せてふーちゃん! 結構動くのに慣れてきたから。ほら!」


 リオはそう言うと、ブレインコントロールデバイスを活用し動きのイメージをティタンドールに投影する。ラギュアロスの蹴りを海老反りになって避け、そのまま頭突きを見舞う。


「ほらね?」


「流石です、我が君。ティタンドールの操縦はもう完璧にマスターしましたね」


「えへへ……」


 ファティマに誉められて気をよくしたリオは、ティタンドールを操縦しラギュアロスの攻撃をアクロバティックな動きで回避していく。巨体を感じさせない軽やかな動きに、異神は翻弄される。


「おのレ……! 我は神だゾ! 創命異神たるこのラギュアロスヲここまで愚弄するナど……許せヌわアアァ!!」


「うわっ! なんだ!?」


 ラギュアロスは憤怒の形相を浮かべ、ティタンドールに向かって突進した。身体を密着させてティタンドールの武装を封じ、唯一強化装甲外骨格エグゾスケルアーマーに覆われていない頭部へ攻撃する。


 視覚と聴覚を司るパーツを破壊し、ティタンドールを機能不全に陥れようとしているのだ。リオはラギュアロスを引き剥がそうとするも、相手の身体から展開したパイプに邪魔されてしまう。


「我が君、このままでは……」


「大丈夫だよ、ふーちゃん。こうなることを見越して……頭だけ残してたからね! 最後の強化、いくよ!」


 ティタンドールの頭部が破損していくなか、リオは再び魔力を流し込む。ラギュアロスの拳が振り上げられた瞬間、ティタンドールの額に格納されていた投光器から目映い光が放たれる。


「ぐうっ! 目眩マしカ! ダガ、この程度デ我を止めルことナど……!?」


「出来るさ! ティタンドール、モードチェンジ完了! いけ、レオ・パラディオン!」


 キカイパーツが剥き出しだったティタンドールの頭部が、獅子の頭を模した黄金の兜で覆われていた。リオはティタンドール改め、レオ・パラディオンの両腕を変形させる。


 左腕が剣に、右腕がサークルシールドに変わった。獅子頭の聖騎士となった機巧の巨人は、一瞬の隙を突きラギュアロスを蹴り飛ばして後退させる。


「ぐヌヌ……姿ガ変わったトテ、我には勝てヌ! バラバラにシテくれるワ! ギア・ソーサー!」


「そんな攻撃……効かないよ! シールドストライク!」


 追い込まれたラギュアロスは、両手を巨大な歯車へ変形させ、レオ・パラディオンを挟み両断しようとする。が、リオの力で生み出された強化装甲外骨格エグゾスケルアーマーには傷一つつけることは出来なかった。


 自分より小さく弱い者たちは蹂躙出来ても、同等の存在はそうもいかない。ラギュアロスは、その点を失念していた。キカイの身体を得たことで、傲慢になっていたのである。


 リオは機体を回転させ、右腕の盾で歯車を粉々に粉砕する。


「バカな……バカな! 我ハ神……下賎ナ大地ノ民ごときニ、敗北ナドあり得るワケが……」


「これで終わりだ、ラギュアロス! 裁きの剣を受けてみろ! ジャッジメント・セイバー!」


「チイィ、舐めるナあアァ!!」


 レオ・パラディオンが振り下ろした剣を、ラギュアロスは腕を交差させて防御しようとする。しかし、鋭い切れ味を持つ剣から逃れることは出来なかった。


 腕を、頭を身体を――創命異神は裁きの剣によって、身体を縦に真っ二つにされた。体内でうごめいていた歯車やシリンダーが飛び散り、心臓の役目を果たしていたオーブが砕ける。


「バ……カな……」


「……終わりましたね、我が君。招かれざる者は……土へと還りなさい」


「うん。そうだね、ふーちゃん」


 グリアノラン帝国を脅かしていた機巧の異神は、リオたちの手によって討たれたのだった。

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