115話―死闘! 属性剣のジェルナ!
「お前に殺された一族の者たちの無念……晴らしてくれる! 覚悟するがいい!」
そう叫ぶと、レンザーは右腕を頭上に掲げる。斧と槍が一体化した巨大な武器、ハルバードが虚空から現れ彼の手に収まった。
レンザーは軽く見積もっても十キロ近くはありそうなハルバードを片手で軽々と振り回し、ジェルナへ突撃する。ジェルナは水平に振られたハルバードを避け、カウンターを放つ。
「なかなかの使い手らしいな。なら、これは避けられるか? 真空剣!」
「なんのこれしき!」
目に見えない真空の刃を、レンザーは己の感覚のみで見切り易々と避けてみせた。直後、ハルバードを上げ、刃を四角にして攻撃の準備をしていたリオを突撃させる。
「行け! 少年!」
「うん! 食らえ! シールドタックル!」
「ぐっ……」
リオは飛刃の盾を構え、ジェルナに体当たりを食らわせる。ジェルナは双剣を交差させて攻撃を受け止めるも、勢いを殺しきることは出来ず後退した。
そこへすかさずレンザーが追撃を加え、ハルバードの槍の部分による刺突を繰り出す。攻撃が決まるも、頑強な鎧に阻まれ深く突き刺さることはなかった。
「ちっ、頑丈な鎧だ。小娘、命拾いしたな」
「小娘だと? 失礼なジジイだ。私はお前よりも永い時を生きている。年長者を敬わぬ者には……仕置きをくれてやる! 出でよ、灼熱剣!」
ジェルナが叫ぶと、彼女が持つ双剣の刀身に変化が現れる。緑色だった刃が燃え上がる炎のような鮮やかな赤へと変わり、熱気を放ち始めたのだ。
それを見たレンザーは、即座に後退しハルバードを盾のように構える。ジェルナは口角を上げ、どこかコケにするような口調で呟きを漏らす。
「ほう? 一目見て私の剣の力に気付いたか。やはり貴様は侮れぬようだな?」
「そう言うわりには、随分と余裕だな。あまり年寄りを甘く見るなよ、小娘。単に長生きするだけが良しというわけでないことを示してやろう」
二人のやり取りを聞きながら、リオはジェルナが持つ双剣を注意深く観察する。刀身が緑色の時は、真空波による見えない斬撃を放ってきた。
ならば、刀身が赤くなり、熱を放ちはじめた今は……。
「やってみるがいい。我が灼熱剣の一撃から生き残れたの話だがな! ハアッ!」
「レンザーさん、こっちに! 出でよ、不壊の盾!」
ジェルナは赤熱した双剣の刀身同士を叩き付け、前方に熱波を放出する。リオは咄嗟に不壊の盾を作り出し、レンザーを呼び盾の裏側に隠れるよう叫ぶ。
レンザーは迷いなくハルバードを捨て、素早く盾の裏に潜り込んで熱波をかわす。盾が熱を帯び焼けるような痛みをリオの右腕にもたらすも、見事リオは耐えきった。
「済まんなリオくん。腕は大丈夫か?」
「はい、なんとか。それにしても、ジェルナのあの双剣……かなり厄介ですね。多分、まだ能力を隠しているはずです」
リオは火傷を負った右腕を再生させ、レンザーと話し合う。風と火、二つの属性を操るジェルナがまだ実力を出しきっていないとリオは踏んでいた。
「さっきからコソコソと……何を話し合ってもムダだ! 灼熱剣!」
「うわっと!」
再び熱波がリオたちに襲いかかる。今度は熱波を避け、リオとレンザーは反撃に出た。まずはレンザーが素早くハルバードを拾い上げ、真横に薙ぎ払う。
ジェルナは双剣を斜めに構えてハルバードを滑らせ、レンザーの攻撃を受け流してみせた。そこへすかさず、リオが飛刃の盾を勢いよく投げつける。
「隙アリ! シールドブーメラン!」
「くっ……ちょこざいな!」
「おっと、私も忘れるなよ? お嬢さん!」
飛刃の盾をしゃがんで避けたジェルナに、再びレンザーが攻撃を加える。リオの攻撃の隙を埋めるようにレンザーがハルバードを振るい、連続攻撃を叩き込む。
「それそれそれっ! このまま一気に倒してやる!」
「いいぞリオくん! 素晴らしい連携だ! このまま押しきれるぞ!」
二人はジェルナを後退させ、メーレナ邸の入り口まで追い詰める。が、相手はファルファレーの配下
「鬱陶しい奴らめ! その動きを封じてくれる! 食らうがいい! 金剛剣!」
飛刃の盾を叩き落とした後、ジェルナは叫ぶ。再び刀身の色が変わり、今度は黄土色になる。ジェルナが双剣を地面に突き刺すと、リオたちの足元の土が盛り上がる。
異変を察知したリオは素早く飛び上がって難を逃れるも、レンザーは盛り上がった土に両足を拘束され、身動きを封じられてしまう。ジェルナはニヤリと笑い、走り出す。
「ジジイ、まずはお前からだ! 家族の元へ送ってやる! 金剛剣!」
「くっ、そうはいかん!」
レンザーはハルバードを構え、ジェルナの攻撃を受け止める。片方の剣を弾き飛ばし、もう片方の剣による斬撃を斧で捌いていくも、少しずつ劣勢に追い込まれていく。
百戦錬磨の猛者とはいえど、肉体の老いからくるスタミナ不足にはレンザーであっても打ち勝つことが出来なかったのだ。息切れしはじめるレンザーを、ジェルナは嘲る。
「どうした? さっきまでの威勢の良さは。そろそろギブアップした方がいいのではないか?」
「フッ、そうは……フウッ、いかん!」
「そうだよ! ジェルナ、お前の相手は僕がしてやる! こっちを見ろ!」
リオは劣勢に陥ったレンザーを助けるべく、自らの
ジェルナは抵抗し踏ん張るも、頭の中にこびりついたリオの声に抗うことは出来なかった。目の色を変え、弾き飛ばされた剣を拾いリオへ飛びかかる。
「このガキ……! 先に死にたいか、なら望み通りにしてやる! 我が属性剣の錆にしてやろう! 真空剣!」
「やれるものならやってみろ! シールドチェンジ! 来い、破槍の盾!」
双剣に風の力を纏わせ、リオへ斬りかかった。盾と風の刃がぶつかり合い、耳をつんざく不快な金属音がシベレット・キャニオンに響き渡る。
「くっ、なかなか粘るな。大人しく我が剣に斬られればいいものを!」
「それはお断り、かな!」
リオはジェルナの斬撃を盾で防ぎつつ、反撃を叩き込む機会を狙う。が、ジェルナは破槍の盾を警戒してなかなか隙を見せず、反撃に移ることが出来ない。
しばらく攻防を繰り広げた後、業を煮やしたジェルナは次々と属性を切り替え、撹乱戦法でリオのスタミナを削り始めた。風と熱波が飛び交い、リオの体力を削る。
「あちっ! もう、嫌になるなぁ!」
「なら大人しく斬られるがいい。今なら首を一刀両断してやるから……な! 灼熱剣!」
リオは熱波による火傷の痛みに耐えつつ、ジェルナの攻撃を捌く。その様子を見ながら、レンザーは足を固める土をハルバードで砕き脱出を試みる。
幸い、ジェルナはリオとの戦いに意識が向いており、レンザーの行動に気付いていない。
「急がねば……! くうっ、私に全盛期の力があればこのハルバードを投げてあの女を仕留めてやれるのに!」
そう呟きながら、レンザーは必死に土を砕く。その間、リオは熱によるダメージが重なり少しずつ劣勢に追い込まれていた。火傷を治しつつ、ジェルナの攻撃をなんとか避ける。
が、このまま攻防を続けていれば、やがて体力が尽きるのは避けられない。リオが反撃の策を考えるために頭をフル回転させていると、不意にジェルナが金剛剣を使いリオを拘束する。
「しまった!」
「バカめ、油断したな! これで終わりだ! 死ね、魔神よ!」
ジェルナは勝利を確信し、双剣を振るう。黄土色の刃がリオの首に当たる直前、リオの懐から光が放たれる。あまりの眩しさに、ジェルナは思わず後ずさってしまう。
「ぐうっ……! なんだ、この光は!?」
「この光……あっ、そうか! クイナさんから貰った御札!」
光を放つ物の正体に気付き、リオは鎧の中に手を突っ込み御札を取り出す。クイナから貰ったお守り代わりの御札は、溶けるようにリオの中に吸い込まれる。
リオを死から守り、役目を終えたのだ。
「ありがとう、クイナさん……。てやっ!」
クイナへの感謝の言葉を呟いた後、リオは一気に足を引き抜き拘束から逃れる。そのまま、まだ固まったままのジェルナに飛びかかった。
「食らえ! バンカーナックル!」
「ぐ……があっ!」
必殺の一撃が、ジェルナのみぞおちに炸裂した。
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