74話―激闘! 鎧を打ち破れ!

「どうした? 避けているだけでは私には勝てんぞ」


 ガルトロスは分離させた手足を操り、リオへ猛攻を加える。一進一退の攻防が繰り広げられるなか、リオはとある作戦を発動する機会を狙う。


 相手の攻撃の手が緩んだ一瞬の隙を突き、リオは魔力を練り上げていく。その間に、アイージャとダンスレイルはガルトロスを観察し弱点を探る。


(……必ずあるはずだ。奴の弱点が……。それさえ見付かれば、リオの助けになれる……!)


 そんなリオたちを前に、ガルトロスは攻撃をさらに激しいものにする。リオの死角に手足を回り込ませ、背後からも攻撃を繰り出す。


「あぐっ!」


「フン、注意力が足りんな。まあいい。お前を殺し……あの日やり残した仕事を完遂させてもらう!」


「仕事……? 僕とお前の両親や、他の人たちを殺したこと……?」


 後頭部に拳を食らい、よろめきながらリオは問いかける。ガルトロスは左右から挟み撃ちにするように両足を飛ばしつつ、大声で叫ぶ。


「そうだ! 下らぬ戯れ言に惑わされ、私に玉座を譲ろうとしない者など死ねばいい! 栄光を掴めぬ国に居座るより、魔族と共に覇道を進む方がマシだ!」


「……そう。そうなんだ。お前のような奴に、僕のお父さんたちは……」


 ガルトロスの言葉に、リオは怒りを滲ませる。顔も知らない生みの親ではあるが、ガルトロスに殺されたせいで永遠に会うことが出来ないのだ。


「……許さない。お前のせいで、僕はお父さんたちと死に別れたんだ! お前がいなければ、みんな死なずに済んだんだ!」


「だから何だ? 私には情愛などという下らぬものはない。あるのは栄光への渇望のみ! 栄光を掴めるならば、両親も弟も、無辜の民も殺してくれるわ!」


 そう叫びながら、ガルトロスはリオの顎を渾身のアッパーで打ち抜く。リオは踏みとどまり、鎧の腕を掴んでガルトロスを睨みつける。


 手に力を込めて鎧の腕部分を粉々に砕き、リオはガルトロスの胴体部分に突撃していく。ガルトロスは避けようともせず、残る手足を使いリオを迎撃する。


「死ね! リオ!」


「殺されるもんか! 開け、界門の盾!」


「なっ……!? ならば、これならどうだ!」


 次の瞬間、リオは練り上げた魔力を解放し巨大な界門の盾を作り出す。門が開き、リオを迎撃するべく飛んできた手足を吸い込んだのだ。


 予想外の攻撃で攻め手を失ったガルトロスは、最後の手段を取った。残った鎧の胴体部分を使い、必殺のボディアタックを敢行する。


「そんなもの、僕には効かない! 鎧なんてこうしてやる!」


 リオは自身に迫る鎧を見据え、右腕に渾身の力を込めてシールドバッシュを放つ。鎧は木っ端微塵に粉砕され、砂浜の上に散らばった。


「バカな!? 私の鎧はオブシダンメタル製だぞ!? 一撃で砕かれるなど……」


「後は頭だけだ! 食らえ! シールドブーメラン!」


 陽が沈み夜の闇が広がるなか、リオの瞳は空中を漂うガルトロスの頭部を正確に捉える。飛刃の盾を投げたその時、ガルトロスは初めて回避行動を取った。


(……!? あやつ、初めてリオの攻撃を避けたな……。これまではどんな攻撃も避けなかったというのに。もしや、奴の弱点は……)


 ガルトロスの挙動にヒントを得たアイージャは、とある仮説を立てる。必死にリオの攻撃を避け続ける姿を見て、疑惑は確信へと変わった。


「リオ! 奴は頭だけは鎧化出来ていない! 頭を叩けば仕留められるはずだ!」


「……あのアマ、余計なことを!」


 アイージャの叫びに、ガルトロスは怒りの形相を浮かべる。が、彼は気付いていない。そうした反応をすることで、アイージャの言葉が真実であると告白していることに。


「分かった! なら……こうだ!」


 普通に攻撃しても、夜の闇を利用して避けられる。そう考えたリオは一計を案じた。無数の不壊の盾を作り出し、ガルトロスを囲むように空中に浮かべたのだ。


 そして、球場に並んだ盾の中に向かってシールドブーメランを投げ込む。投げ込まれた飛刃の盾は、不壊の盾に当たってバウンドし不規則に反射され始めた。


「フン、そんな小細工如きで……」


「そう? じゃ、もっと追加するよ!」


 軽々と飛刃の盾を避けるガルトロスを相手に、リオはさらに飛刃の盾を投げ込んでいく。盾の数が増えるにつれ、ガルトロスは少しずつ回避が困難になる。


 そして、ついに避けきれなくなり、飛刃の盾が顔面にクリーンヒットした。ガルトロスの動きが一瞬止まったのに合わせ、リオは一気に包囲網を縮めた。


「今だ! それっ!」


「ぐっ……ぐああっ!」


 不壊の盾で作られた包囲網が狭まったことで、それまでの間でたらめに乱反射していた飛刃の盾が一斉にガルトロスに叩き込まれる。


 何度も何度も叩きつけられる飛刃の盾によって、ガルトロスの頭を守る兜に少しずつヒビが入っていく。このままではまずいと感じ、離脱を決意した。


「くっ……チイッ!」


 あらかじめ奥歯に仕込んでおいた転移石テレポストーンを噛み砕き、不壊の盾の包囲網から脱出を試みる。魔力が足りず、少しずつ透けながらガルトロスはリオに叫ぶ。


「……今回は私の負けを認めよう。だが、これで終わりだと思うな! すでにバルバッシュが我が配下と共に王国襲撃の手筈を整えている。これからが本当の戦いだ!」


「いいよ。何度来ても返り討ちにしてあげるよ。バルバッシュもお前も、僕が倒す!」


 そう叫び、リオはガルトロスを睨む。少しして、ガルトロスは虚空へと消える。彼が転移すると同時に、アイージャたちを閉じ込めていた牢獄が砕け散った。


 ようやく自由に動けるようになったアイージャとダンスレイルは、リオの元へ駆け寄っていく。それと同時に、緊張の糸が解けたリオはその場に崩れ落ちる。


「リオ、大丈夫か? しっかりするのだ!」


「ねえ様……僕、勝ったよ。ガルトロスを撤退させたんだ……」


「よくやってくれたね。ありがとう、リオくん。疲れただろ? ゆっくりお休み……」


 ダンスレイルはリオの頭を撫でながら、労りの言葉をかける。疲労が溜まったリオは頷き、あっという間に眠りに落ちてしまった。


「……どう? アイージャ。バルバッシュの気配は感じるかい?」


「いや、感じられぬ。あやつめ、どこかに雲隠れしおったな」


 眠ってしまったリオを担ぎながら、アイージャはダンスレイルの質問に答える。ダンスレイルは無言で肩を竦めた後、翼を広げゆっくりと羽ばたく。


 アイージャはダンスレイルの腰にしっぽを固く巻き付け、落としてしまわないようぎゅっとリオを抱き締める。とにかく、まずはセルンケールへ戻ることを優先したのだ。


「今はリオくんを休ませてあげるのが一番だね。早くセルンケールに行かないと。さ、飛ぶよ」


 ダンスレイルはセルンケールへ向かい夜空を飛ぶ。雲一つない星空の下を飛びながらも、彼女は目敏く見つける。空の一角に輝く、不吉な赤い星を。


「……魔兆星か。不吉なことが起こるのを告げるために輝くというけど……」


「大事が起こらぬように祈るしかあるまい。……無意味であろうけども、な」


 空を見上げ呟くダンスレイルに、アイージャはそう答える。せめて、大きな悲劇が起きないように、と願いながら、セルンケールを目指し飛んでいった。



◇――――――――――――――――――◇



「……ここ、どこ? おかしいな、僕は無人島にいたはずなのに」


 目を覚ましたリオは、気が付くと見知らぬ場所にいた。全てが白に塗り潰された空間を、力なくふよふよと漂っていたのだ。


 何故自分がここにいるのか。そもそも、ここは一体どこなのか理解出来ず戸惑っていると、何かがリオに近付いてくる。


「……なんだろ、これ。キラキラ光ってるけど……」


 目の前に浮かぶ何かに手を伸ばすと、突如輝きが強くなる。あまりの眩しさにリオは咄嗟に目を閉じる。光が消えた後、リオは恐る恐る目を開け、そして……。


「……ここ、どこ? また変な場所にいる……」


 目を開けたリオが居たのは、見知らぬ街の広場だった。人々が行き交うなか、状況を飲み込めず右往左往する。その時、一人の通行人がリオにぶつかった。


 ……が、なんと通行人はリオの身体をすり抜けてしまう。それに驚いているリオは、自分の身体が半透明になっていることに気が付いた。


「あれれ、どうなってるんだろ? もしかして、夢でも見てるのかな……」


「控えーい! 控えーい! リアボーン王のお通りであるぞー!」


 その時、リオの背後から兵士の声が響く。通行人たちは慌てて道を開け、身を屈め頭を下げる。兵士の言葉を聞き、リオはとある仮説が頭の中に浮かぶ。


 ――もしかして、自分は過去を垣間見ているのではないか、と。

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