57話―強襲! 屍の魔兵団!

「……ホッホッホッ。エルフどもめ、今に見ておれ。わしの兵器で滅ぼしてやるわい」


 一方、キルデガルドはと言うと、研究の末造り出した兵器を起動するための最後の準備を整えていた。側にはミリア――タツナミソウが控えており、彼女の作業を見つめる。


 部屋の一角に設置された、高さ三メートルほどもある肉塊に魔力を注ぎ込んで調整を施した後、刺してあったチューブを引き抜く。すると、肉塊が不気味にうごめき始めた。


「これでよし。さて、後はお主の改造だけじゃ、タツナミソウ。ホッホホホ。スノードロップめ、わしを裏切った報い……受けさせてやろうぞ」


 悪意に満ちた笑みを浮かべながら、キルデガルドはタツナミソウに近付いていく。少女は沈黙を保ったまま、その場に佇むだけだった。



◇――――――――――――――――――◇



 翌日の昼、リオ一行や街の住民たちが見守るなかでバゾルの公開処刑が行われようとしていた。広場に詰め寄った大勢の観衆を前に、バゾルは自分を助けろと喚く。


 が、誰一人としてバゾルの言葉に耳を傾ける者はなく、むしろ彼を嘲り罵り怒りをぶつける。処刑人が首を切り落とすための斧を用意している間、リオはジッとバゾルを見つめる。


「どうした、リオ。何か気になることがあんのか?」


「……何だか嫌な予感がするんだ。こう、胸の中がむかむかして……何も起きないといいんだけど」


 朝起きた時から、リオは何か嫌な予感を覚えていた。魔神としての本能が、何か良くないことが起ころうとしていることを彼に伝えていたのだ。


 処刑人の用意が整い、磔にされていたバゾルが降ろされ断頭台に押さえつけられている間、念のためカラーロの魔眼の力を使い周囲を調べる。


(うーん、今のところ広場の周りは問題なしだね。ただの気のせいで終われば一番いいんだけ……!? あ! あれは!)


 広場を見渡した後、バゾルに視線を戻したリオは目を見開き驚愕する。魔眼の力で透けて見えるバゾルの体内に、エルシャの物と同じ核が埋め込まれていたのだ。


 核からは長い紐のようなものが接続されており、バゾルの頭の方へ伸びていた。これこそが嫌な予感の正体だと悟ったリオは、斧を振り下ろそうとしていた処刑人に向かって叫ぶ。


「ダメ! 斧を振り下ろさないで!」


 が、リオの叫びも虚しく斧が振り下ろされた。バゾルの首が切り落とされた次の瞬間、異変が起きる。息絶えたバゾルの身体が痙攣をはじめたのだ。


「な、なんだ!? 何が起きてるんだ!?」


 観衆がざわめくなか、バゾルの体内に埋め込まれた核が肉体を突き破って隆起する。黒と紫、二つの光を交互に放ちながら核から魔力が放出されていく。


「この反応……間違いない、ワープゲートが生成されている! リオ、エルフたちを逃がすのだ! 恐らく敵が来るぞ!」


「分かった、ねえ様! みんな、バゾルから離れて!」


 リオが叫ぶと、エルフたちは急いで広場から逃げていく。その間も核は光を放ち続け、ついにワープゲートが完成する。宙に浮かぶリング状のゲートから、一人の少女が躍り出た。


「……盾の魔神、覚悟!」


「わっ! 出でよ、不壊の盾!」


 両手に短剣を持った少女――タツナミソウはリオに不意打ちを仕掛けるも、不壊の盾によって攻撃を防がれた。一旦ゲートの中に退避しようとする彼女に、エルシャが声をかける。


「ミリア、待って!」


「ねえ、さん?」


 エルシャの声に、タツナミソウはピタリと動きを止める。その時、リオは見逃さなかった。カラーロの魔眼に映し出された彼女の核が、怪しく輝いたのを。


 タツナミソウは短剣を捨て、ゆっくりとエルシャの方へ近寄っていく。目を涙で潤ませ、両手を伸ばし温もりを求めるようにか細い声を出す。


「……生きてたの? 私、ずっと心配してたんだよ。いつまでもお母様の元に帰って来ないから」


「ごめんね、ミリア。でも、もう大丈夫よ。私があなたを助けるわ。もう、キルデガルドに従わなくていいのよ」


「本当? なら……私と一緒に死ね!」


 次の瞬間、タツナミソウの瞳が紫色に染まる。勢いよくエルシャに抱き着き、背中に手を回して拘束から逃れられないようにしてしまう。


「ミリア、何を……」


「させない! シールドブーメラン!」


 事前にタツナミソウの狙いを察知していたリオは、素早く飛刃の盾を作り出し投げつける。こめかみに盾を受けたタツナミソウは意識を失い、核も機能を停止する。


「な、なんですの? いきなり過ぎて何がなんだか……」


「カラーロの魔眼で視たんだ。この人、エルシャさんと一緒に自爆するつもりだったんだよ。気絶させて核を止めたんだ。……ごめんね」


 困惑するエリザベートに向かってそう言った後、リオはエルシャと共に倒れたタツナミソウ――否、ミリアの頭を撫でながら謝罪する。


 その間、兵士たちが住民や女王を安全な場所に避難させていると、ワープゲートの中から愉快そうな声が響く。その声を聞いたリオたちは、一斉に身構えた。


「ホッホッホッ、よくもまあわしの計画をことごとく邪魔してくれたものよのう。心の広いわしも、流石に怒るぞ?」


「お前が、キルデガルド……!」


 目の前に幼女が現れたことに一瞬面食らったものの、リオたちはすぐに気を取り直しそれぞれの得物を構える。キルデガルドは自身の身長よりも長い杖を突きながら、ゆっくりと歩み出る。


「フン。盾の魔神に斧の魔神が揃い踏みか。ホッホホホ、わしの研究成果の御披露目をするにはいい舞台じゃな。じゃが、その前に……邪魔者どもには消えてもらおうかのう! 出でよ、リビングドラゴン!」


「ガルアアアアア!!」


 キルデガルドが杖を掲げると、ワープゲートから巨大な屍のドラゴンが姿を現した。半分身体が腐っていたが、リオとエリザベートはこのドラゴンに見覚えがあった。


「師匠、この竜……間違いありませんわ! わたくしたちが倒したフレアドラゴンです!」


「ホッホホホ、その通り! 貴様らが去った後、残った胴体を回収したのよ! さあ、暴れよリビングドラゴン! 殺された恨みを晴らすがいい!」


 屍獣と化したフレアドラゴンは雄叫びを上げ、リオ目掛けて突進していく。迎撃しようとするリオをカレンが止め、金棒を構える。


「リオ、お前はあのクソ幼女に集中しな。このドラゴンはアタイたちが潰すからよ!」


「ありがとう、お姉ちゃん。なら、ここで暴れるわけにもいかないから……界門の盾!」


 リオは巨大な扉をフレアドラゴンの足元に作り出し門を開く。街の外に放り出されたフレアドラゴンを追い、カレンとアイージャも門の中に飛び込んだ。


「フン! ムダなことを。わしの駒はあれだけではないぞ。来い! 屍兵ども!」


 キルデガルドの号令に合わせ、ゲートから無数の屍兵たちが出現する。それを見たエルザは倒れたままのエルシャたちを掴み上げ、城の方へ向かう。


「二人は私が城へ運びます! お嬢様、リオさん、ご武運を!」


「ありがとう、エルザさん!」


 残ったリオとエリザベート、ダンスレイルはキルデガルドを睨む。屍兵を従え、妖魔参謀は怪しく笑う。王国を狙う魔の者たちとの決戦が、ついに始まろうとしていた。



◇――――――――――――――――――◇



「オラッ! これでも食らいやがれ! クソドラゴンが!」


「グルガアア!」


 街の外に放り出されたフレアドラゴンに向かって、カレンは金棒を叩き付ける。そこに鎧を纏ったアイージャの闇の魔法が放たれ、朽ちた鱗を吹き飛ばす。


 が、すぐに傷が再生してしまう。それを見たアイージャは舌打ちをしつつ、さらに闇のレーザーをフレアドラゴンに撃ち込んでいく。


「カレン、この屍獣、かなり高い再生能力を持っているようだ。一気に仕留めねば妾たちが不利になりかねんぞ」


「へっ、上等だよ! リオがいなくてもやれるってこと、このクサレドラゴンに教えてやろうぜ!」


 カレンとアイージャは目を合わせ、不敵に微笑む。そして、屍の竜に飛びかかっていった。

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