42話―激突! 脅威なる融合獣!

「ふむ……こいつが私の相手か? 異様不自然極まりないな」


「シュルルルルルル……!!」


 ゆっくりと翼を羽ばたかせながら、スフィンクスはそう呟く。目の前にいる双頭の怪鳥とムカデが融合した魔物の醜悪な見た目に嫌悪感を示しつつ、リオに問いかける。


「して、主よ。まずはこやつを外に運び出せばよいのだな?」


「うん。ここで戦うと街に被害が出ちゃうから。ねえ様は女性さまの護衛をお願い!」


「任されたぞ、リオ」


 ローズマリーがさらなる隠し球を用意している可能性を考慮して、リオはアイージャにセルキアの護衛を任せる。双翼の盾をひるがえし、空高く飛び上がる。


 スフィンクスの背中に跨がり、『引き寄せ』を発動して融合獣の敵意を自分に向けさせ、街の外に誘き出してセルキアたちの安全を確保する。――はずだった。


「グガギャアアアア!!」


「そんな! 『引き寄せ』が効いてない!?」


 よく見ると、融合獣の耳は潰されており、音を遮断するようにされていた。それに気付いたスフィンクスは、融合獣に飛び掛かり胴体に噛みつく。


 前足で融合獣の頭を押さえつつ、翼を広げ飛び立っていった。リオの先天性技能コンジェニタルスキルが効かない以上、それ以外に打つ手はなかったのだ。


(主よ、聞こえているか? 主の能力が効かない以上、力ずくでこいつを街の外に引きずり出すしかない。暴れて逃げないようサポートを頼む!)


「……分かった。絶対逃がさないからね!」


 スフィンクスから念話でサポートを頼まれたリオは、暴れに暴れて拘束から逃れようとする融合獣に向かって攻撃を始める。三つの頭に集中的に攻撃し、昏倒させようと狙う。


 リオの攻撃によるサポートもあり、スフィンクスは無事融合獣を街の外に引きずり出すことに成功した。双頭の怪鳥と戦った岩山に向かって融合獣を叩き落とし、両者は睨み合う。


「ギイィグギャアア!!」


「主よ、来るぞ!」


 真っ先に動いたのは融合獣の方だった。身体を真っ直ぐ伸ばして空中にいるスフィンクスへ襲いかかる。スフィンクスら噛みつき攻撃を避けつつ、身体を回転させ翼で相手を殴る。


 融合獣はぐらつくも、踏みとどまり毒液を口から飛ばし反撃を行う。スフィンクスは垂直に上昇して毒液を避け、猛スピードで降下し相手の右の翼を食いちぎった。


「よし、これで翼は……」


「スフィンクスさん、気を付けて! こいつ、再生能力があるんだ!」


 片翼を奪ったことで安堵するスフィンクスに、即座にリオが警告をする。彼の言う通り、食いちぎられた融合獣の翼が元通りになっていく。


 双頭の怪鳥とムカデ、二体の魔物が融合したからか再生速度は先ほどの比ではなく、リオたちがまばたきをしている間に完全に再生してしまった。


「ふむ……再生能力、か。これは面倒な……。こうなれば、こいつが再生する前に一撃で葬るか……あるいは、再生が追い付かない速度で攻撃を叩き込み続けるしかあるまい」


「問題は……どっちが効果的か、ってことだね!」


 融合獣の再生能力を目の当たりにしたスフィンクスは、二つの作戦をリオに提示する。再生される前に倒すか、再生することを念頭に入れ連擊を食らわせるか。


(どうしようかな……さっきみたいに光刃の盾を使えば一撃で両断出来るけど……それで倒せなかったら魔力切れになってピンチになっちゃうし……)


 リオはスフィンクスから降りて攻撃を繰り返しながら考える。大量の界門の盾を展開したり光刃の盾を用いた結果、リオの魔力はガス欠寸前だった。


 そんな状態で必殺の一撃が不発に終わってしまえば、一気に不利な状況に陥ってしまう。かと言って、融合獣の再生能力を上回る速度で連擊を打ち込めるとは自信を持って言えなかった。


(……ダメだ、考えれば考えるほど逆転の策が思い付かない。……仕方ないや。何かいい案を思い付くまで……とにかく殴ってやる!)


 打開策を思い付けなかったリオは、己の頭脳が妙案を閃くことを祈りながら融合獣へ飛刃の盾を投げつける。スフィンクスも爪による攻撃を行い、着実に傷を与える。


 が、融合獣の持つ再生能力は彼らが思っていたよりも遥かに高く、即座に傷を再生されダメージを蓄積することが出来ない。融合獣は翼を広げ、大空へ飛び立ち反撃を行う。


「ギイイィ……グギャアアアア!!」


「なんだ、この毒々しい羽根は!?」


 大空へ飛び立った融合獣の翼から、大量の羽根が抜け落ちる。羽根はムカデの魔物が持つ毒に染まり、鮮やかな赤から禍々しい紫色に変わっていた。


 融合獣が翼を勢いよく下に振り下ろすと、羽根が一斉にリオたち目掛けて飛来していく。もし掠りでもすれば、猛毒に侵され命を落としてしまうだろう。


「くっ、主には触れさせんぞ! ウィンドシャッターガード!」


 スフィンクスはリオを守るべく、翼を激しく羽ばたかせ突風のバリアを作り出す。羽根のほとんどは突風によって撃ち落とされたが、融合獣には別の狙いがあった。


 リオたちが羽根の対処に気を取られている間に、長い胴体をこっそりと下から彼らの最後へ移動させる。尻の部分にムカデの顔を移動させ、背後からリオに襲いかかった。


「ギィ……ゲェー!」


「主よ、危ない!」


「スフィンクスさん!」


 融合獣の不意打ちに気付いたスフィンクスはリオと敵の間に割って入り、ムカデの毒牙にかかった。牙を通して猛毒を流し込まれ、力を失ったスフィンクスは墜落していく。


 リオはスフィンクスを追って急降下し、地面に激突しないよう彼女の下に潜り込んで身体を支える。結果、スフィンクスは激突を免れたものの戦闘不能リタイアとなってしまう。


「ごめんなさい、スフィンクスさん。僕を庇ったせいで……」


「気に、するな……。私は君の召喚獣……身体を張って主を守るのは当然のことだ……」


 謝るリオに、スフィンクスはそう声をかける。融合獣は身体をくねらせ、スフィンクスを仕留めたことを喜びつつリオを挑発する。明らかに知性が芽生えつつあった。


「聞いてくれ、主よ。幸い、私には毒への耐性がある。死にはしないが、しばらくは戦えない。だから……私の魔力を、主に託す。私の魔力があれば全力で戦えるはずだ」


「……分かったよ。ありがとう、スフィンクスさん。あなたの分まで……戦うからね」


 リオは召喚の指輪を通してスフィンクスの魔力を譲ってもらい消耗した力を回復させる。身体に力がみなぎり、全身を濃厚な魔力が満たしていく。


「よくもスフィンクスさんをいじめたな……絶対に許さないぞ! ビーストソウル、リリース!」


 己の中に眠る魔神の力を呼び覚まし、リオは全身に冷気を纏い上空へ飛ぶ。それを見た融合獣は、再び大量の羽根をバラまきリオへ向かって飛ばす。


「シィ……ネェェ!」


「お前なんかに殺されるもんか! 出でよ! 凍鏡いてがみの盾!」


 リオは氷で出来た巨大なヒーターシールドを作り出し、融合獣が放った羽根を受け止める。羽根がぶつかるたびに凍鏡の盾にエネルギーが蓄積し、青い光を纏う。


「食らえ! ミラーリングインパクト!」


「ギッ……ガァァ!!」


 全ての羽根を防ぎきったリオは融合獣に肉薄し、必殺のカウンターを叩き込む。蓄積されたエネルギーが解き放たれ、融合獣に凄まじいダメージを与える。


 半身を消し飛ばされた融合獣は再生を開始するも、リオは回復を許さない。すかさず氷爪の盾を作り出し、残った融合獣の半身へ向かってトドメの一撃を繰り出した。


「これで終わりだ! アイスシールドスラッシャー・クロスエンド!」


「バッ……カナアアァァァ!!」


 凍てつく氷の刃で斬られた融合獣の肉体が一瞬で凍り付き、醜い氷像へ変わる。リオの魔力に侵されて再生能力を阻害され、融合獣は氷ごと粉々に砕け塵となって消滅した。


 融合獣を滅ぼしたリオは、急いでスフィンクスの元へ向かう。必要最低限の魔力を確保して残りを彼女へ返し、毒の除去と身体を休ませるため指輪の中へと戻す。


「ありがとう、スフィンクスさん。おかげで融合獣に勝てたよ」


「主の役に立てたならなによりだ。しばらくは解毒に集中せねばならぬ故、戦いには加われぬが……いつかまた、主の助けとなろうぞ」


 そう言い残し、スフィンクスは現れた時と同同じように光の糸へ戻り、指輪の中へ帰っていった。リオは一息ついた後、双翼の盾を纏いハールネイスへ帰還する。


「……むー。結構自信作だったのに、また負けちゃったよ。これじゃあおかーさまに怒られちゃうなぁ」


 岩の陰に隠れていたローズマリーは、西へ飛んでいくリオを見ながら残念そうに呟く。切り札を敗られ、意気消沈していた。


「はあ、まーいいや。最後の作戦はあるし……それで挽回するもんね。魔神め、覚えてろー」


 悔しそうにステキセリフを残し、ローズマリーは溶けるように姿を消す。連戦の果てに、リオは女王を守り抜くことが出来たのだった。

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