27話―リオからの贈り物

 ディマオーラ神殿を後にしたリオは、冒険者ギルド本部へと帰還した。本部の入り口で待っていたカレンたちと合流した後、リオは神殿で手に入れたお宝を鑑定しに向かう。


「そんなことがあったのか……。しかしまあ、すげえんだなリオはよ。スフィンクスを召喚獣にしちまうんだから」


「……見たかったものだ。後少しで邪魔者を振り切れたというのに……」


 神殿での出来事を聞いたカレンとアイージャは、それぞれの感想を口にする。不穏なことを口にするアイージャに苦笑いしつつも、リオはベティに案内され鑑定室に到着した。


 中に入ると、ギルドに所属する鑑定員たちが忙しく部屋の中を行き来していた。鑑定を終えたお宝を受付カウンターへと運んでいる鑑定員のうちの一人が、リオたちに気付く。


「おや、いらっしゃい。鑑定の依頼かい? おーい、誰か来てくれ! 新規の鑑定を頼む!」


「あいよ! さ、こっちに来てくんな」


 リオたちは鑑定員の指示に従い、部屋の隅へ移動する。鑑定員のドワーフは、太鼓腹を撫でながら大きな白いテーブルを指差し、そこへ持ってきたお宝を出すよう告げた。


「ここに持ってきたもん全部出しな。俺が鑑定してやっから」


「分かったー。じゃあ、よいしょっと」


 近くの壁に立て掛けてあった脚立を借りたリオは、上に乗りポーチをひっくり返す。机の上に大量の錆びた剣や棒、宝石がブチまけられ、鑑定員は顔をひきつらせる。


「おおう……こいつぁまた大量に持ってきたな……。へっ、やってやろうじゃねえか!」


 鑑定員は気合いを入れ、リオが持ってきたお宝一つ一つに鑑定魔法をかけどれだけの値打ちがあるかチェックを行う。先に宝石の鑑定が終わり、買い取り価格が提示される。


 残念ながら宝石はあまりいい値段がつかず、全て合わせて金貨三枚の値が付いた。持っていても使わないから、とリオはその場で宝石を売却し金貨を受け取る。


「さて、お次はこいつらか……。剣が三振りに杖みてえな棒が一本……さてさて、何が飛び出すやらな。鑑定魔法……コノッシス!」


 鑑定魔法がかけられたお宝が光を放ち、錆が少しずつ消え本来の姿へと戻っていく。今度こそいいお宝が出ますように……とリオが祈っていると、光が収まった。


「さて、まずは剣の方から見るか。……ふーむ、こいつは普通のロングソードだな。こっちも……お、これはこれは……」


「おじさん、いいお宝あった?」


 武器を調べていた鑑定員は、リオの問い掛けを受け顔を上げる。ニヤリと笑いながら、一振りの剣と杖を指差す。


「喜べ坊主。とんでもねえシロモノが二つもあったぜ。まずこっち……剣のほうはアルズーロの剣っていうシロモノだ。切れ味抜群で自動修復能力持ちだ」


 そう言うと、鑑定員は一振りの剣を掲げリオたちに見せる。蛇腹状の刃を持つ禍々しくも美しい剣に、カレンは惚れ惚れしていた。


「へえ、こりゃすげえや。運がいいなぁ、リオは」


「えへへ、それほどでも……」


 リオとカレンがイチャイチャしていると、面白くなさそうに頬を膨らませたアイージャがもう一つの武器について説明するよう鑑定員に催促する。


 鑑定員はアルズーロの剣を机の上に置き、今度は金色に光る杖を持ち上げ説明を始めた。


「こいつはな、アルズーロの剣よりもっとすげえぞ。この杖はアムドラムの杖って言ってな……選ばれし者だけが手に入れられるって伝説のある杖だ」


「ほう、それは興味深い。まさしくリオにピッタリな逸品ではないか」


 選ばれし者だけが手に出来る、伝説の杖。その言葉に部屋の中が沈黙に包まれる。皆がリオに注目し、尊敬の眼差しを向けていた。


「この杖は普通の杖と違ってな、身体を覆う鎧に変化する性質があるんだよ。全身に魔力を巡らせ、打撃に魔法を乗せられるようになるんだ。だから、どっちかと言うと魔法使いよりは武闘家向けの武器だな」


 そこまで言うと、鑑定員はリオに向かって勢いよく頭を下げた。ゴンッという鈍い音が響き渡り、リオたちはぎょっと驚いてしまう。


「頼む! この剣と杖、売ってくれねえか!? こんないい武器は滅多に手に入らねえ。なんだったら言い値で買うぞ! それくらい貴重な武器なんだよ、こいつは!」


 そう言われたリオは困惑してしまう。何気なく手に入れたお宝が、まさかここまで言われるほど値打ちのあるものだとは夢にも思っていなかったからだ。


 成り行きを見守っていたベティは、頭を下げたまま動かない鑑定員に声をかけ、落ち着くよう促す。


「あのね、バッシさん。少し落ち着いて、ね? 言い値で売ってくれなんて言われても、リオくんも混乱しちゃうから……」


「んなこたぁわーってる! だがよ、俺たちドワーフにとっちゃ垂涎の品なんだぜ! この武器を元に、より優れた逸品を造る。そのためなら靴だって舐めてやらあ! だよな、おめえら!」


 バッシの言葉に、部屋の中にいた他の鑑定員たちも頷いて同意する。その時、鑑定室の中にベリオラスがひょっこり顔を出した。


「何か騒がしいと思うて来てみれば……何を揉めておるのかの? ほれ、全員落ち着きなさい」


「グ、グランドマスター!? こりゃ失礼しました……」


 流石にベリオラスが来ては熱弁出来ず、バッシは頭を上げこれまでの一部始終をリオたちから聞く。話を聞き終えた後、顎を撫でながら話し出す。


「ふむ、話は分かった。じゃがの、バッシ。お主は言い値でいいと言うたようじゃが、その権限はお主にはない。それは鑑定部門のトップが決めることだ」


「も、申し訳ありません……」


 ベリオラスに叱られ、バッシは項垂れる。少し可哀想になったリオは、バッシに声をかけた。


「あの、両方は無理ですけど……こっちのアルズーロの剣なら売ります。杖の方は、ねえ様にあげたいので売れませんけど」


「ん? リオよ、お主が自分で使わなくてよいのか? せっかく手に入れた貴重な武器なのだぞ?」


 予想外のリオの言葉に、アイージャは驚きをあらわにする。リオは頷き、アイージャに笑いかける。


「うん。だって、僕にはねえ様から受け継いだ魔神の力があるもん。それに、ねえ様にお礼がしたかったんだ。だから、この杖をもらってほしいの。……ダメかな?」


「リオ……お主は、妾のためにそこまで……! よし分かった。そこまで言うのであれば、この杖はありがたく妾が使わせてもらうとしよう」


 リオの言葉に感動したアイージャは、目尻に涙を浮かべながら杖を手にする。二人の美しい絆を見たバッシやベリオラスたちは、リオへ拍手を送る。


 その後、リオはアルズーロの剣の売却手続きを行い、金貨三百枚を受け取り鑑定室を去っていった。ダンテにダンジョン探索の結果を報告するため、一行はギルドを歩いていく。


「しかしまあ、羨ましいもんだな、リオからプレゼント貰うなんてさ。アタイにも後でなんかくれよなー、リオ」


「うん、楽しみにしててね、お姉ちゃん」


「ふふ、リオからの贈り物か……。これは末代までの宝にせねばなるまい。ふふ、ふふふふふ……」


 リオとカレンが和気あいあいと話をしている側で、アイージャはニヤニヤと締まりのない笑みを浮かべていた。三人の少し後ろを歩いていたベティは、微笑ましげに見つめる。


「よーう、帰ってきたか。待ってたぜ坊主。さあさ、神殿での出来事を聞かせてくれよ」


 グランドマスターの執務室を訪れたリオたちは、ソファーでくつろいでいたダンテに声をかけられる。報告を聞いたダンテは、目を丸くした後大笑いし始めた。


「ハッハハハハハ! こりゃ傑作だ! まさかあのスフィンクスを召喚獣にしちまうとはな! いいねえ、オレの予想以上の結果だよ! 気に入ったぜ、お前」


「ありがとうございます。でも、スフィンクスさんがいるって言って事前にほしかったです」


 誉められたリオはお礼を言った後、ジッとダンテを睨む。ダンテはどこ吹く風と受け流し、パイプに火をつけ煙を吸う。


「へっ、いいサプライズだっただろ? よし、下に降りようぜ。坊主のSランク昇格記念パーティーの準備が出来てる。他の冒険者たちも、皆集まってるぜ。英雄の誕生を祝いにな」


 ダンテに連れられ、リオたちは下の階へ降りていく。四階にある渡り廊下を通り、西にあるホールへと向かう。そんな彼らを、遥か上空から見つめる者がいた。


『……忌まわしき魔神よ。浮かれていられるのも今だけだ。もうすぐに、私の恐ろしさを思い知らせてやるぞ』


 街を覆う結界の外から、一つ目のコウモリに化けたザシュロームがリオを見ながら呟きを漏らした。

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