05.添い寝
『むしろ俺の方がメアリーのお世話になるんじゃないかな』
――言った。確かに言った!
でも、あの〝お世話〟は、使い魔としてスキルで助けてもらう場面もあるだろう、って意味だ。それなのに、まさかこいつ……。
「お世話っておまえ……もしかして〝夜の相手〟的なものだとでも思ってる?」
「それ以外に何があるんですか? 身寄りのない女子は他の家族のお世話になる代わりに、大人になるまでそういう役目を果たさなければならないのです」
「いやいやいや! 俺がメアリーにそんなことを求めたこと、一度もないだろ!?」
「さっき言ってたじゃないですか。『俺の世話をしろ。メアリーがいいんだ』と」
――確かに単語的にはそんな感じだったけど、言い方が……。
「どうせあのままでも、ジュールバテロウの連中の慰み者になるだけでしたからね」
「そんなことは、俺が絶対に――」
「それの相手がパパに替わっただけです。メアリーとしても、あいつらに比べればパパの方がちょっとはマシです」
――ちょっとかよ!
「っていうかメアリー、慰み者って、どんなことをされるのか知ってるのか?」
「あたりまえじゃないですか! いつも寝室で、本当のパパがママが夜にやらせていたようなことですよ」
「ええっ!? も、もしかして、パパとママ、おまえの横でセ、セ、セ、セック……」
「添い寝していました。裸で」
「……そ、それだけ?」
「はい。それが安心感に繋がるんだと言っていました」
ホッと胸を撫で下ろす。
そりゃそうだよな。メアリーの両親のことだからやりかねないとも思ったけど、さすがに
――いやまて。ちゃんとって何だ!? 子供の横で裸で寝てるだけでもおかしいだろ!?
「とにかくだ。俺が言った お世話ってのはそういう意味じゃないから。さっさと服を着ろ! ……そう言えば、おまえ、服は?」
「部屋で、脱ぎ散らかしてきました」
「脱ぎ散らかしてくるなよ! まとめとけ!」
急いで
――
部屋中を回ってメアリーのローブ、シャツ、スカートを拾い集める。残るは……、
「おぉ――い、メアリー! おまえ、パンツはどこで脱いだ?」
「ベッドの近くだったと思いますよ」
キャノピーの向こう側から、メアリーのくぐもった返事。
ベッドの周りをもう一度探してみるが、見当たらない。
――もし先に可憐に見つけられでもしたら、また厄介なことに……。
その時。
ドアのすぐ外から可憐とリリスの話し声が聞こえてきた。
――もう戻ってきたのか! 言わんこっちゃない!
とりあえず、拾った服だけを持って急いでキャノピーの中へ戻る。
「どうしたんですか、そんなに慌てて?」
「おまえもちょっとは慌てろ! 可憐たちが戻って来ちゃったんだよ!」
「問題あるんですか?」
「ないわけないだろ! 時間がない、とにかく隠れて!」
メアリーと一緒に毛布の中へ戻ると同時に、入り口のドアの開く音が聞こえた。
「あれぇ? メアリーのやつ、先に戻るって言ってたよね?」
――これは、リリスの声か。
「うん……と言うか、なんで
可憐の足音が近づき、バサッとキャノピーの
「
「ん……あ、ああ、ごめん、なんだか疲れちゃって、つい、ウトウト……」
今起きたように、少し寝呆けた感じで答える。
――名演技だ!
しかし、毛布の中は、二人でいることがバレないよう、メアリーとピッタリと寄り添うような体勢。
いくら実質七歳くらいの女の子とは言え、裸同士で密着するという状況に平常心でいられるはずがない。
自分には小児性愛の傾向はないと自負しているが、それでも歳の割には大人びた顔立ちで、見た目だけなら間違いなく超絶美少女の部類に入るメアリーだ。
毛布の中からほんのりと、湯浴み直後のいい匂いも漂ってくるし、子供特有のすべすべしたたまご肌も、なんとも言えず触り心地がいい。
いかがわしい気持ち……というよりも、犬や猫のモフモフを愛でるような、触角を通して細胞レベルで訴えかけてくる快感に思考停止しそうになる。
――やっべぇ……メアリーだけでも隣のベッドに移動させときゃよかった。
可憐が天蓋の内側を探るように、キョロキョロと視線を動かしながら、
「ところで、メアリーを見なかったか? 先に戻ったはずなんだが……」
「い、いや、見てないな……」
「そうか。ノームの集落内とは言えちょっと心配だな。少し、その辺を探してくる」
カーテンが閉じられ、可憐の足音が遠ざかっていく。
(よし、今のうちだメアリー! パンツは後で探すから、まず服だけでも着ろ!)
声のトーンを落としてメアリーの肩を揺らすが、反応がない。
(お~い、メアリー?)
――寝てるんかい!
無邪気な寝顔で幸せそうに抱きついているメアリーを引き離し、軽く頬を叩く。
(おい、メアリー! 起きろ!)
「う~ん……何ですか、パパ……」
(シッ! 声がでかい! 今のうちに服だけでも着とけ!)
回収してきた服を渡すと、ゆっくりと体を起こし、面倒臭そうにシャツの袖に腕を通し始めるメアリー。
そこへまた、リリスの声が聞こえてきた。
「ねえ、これ、あの新米のパンツじゃない?」
隣のベッドの辺りからだ。やはり、近くに脱ぎ捨ててあったようだ。
――バカリリスめ! いつもボケッとしてるくせに、こんな時だけ
(おい、メアリー! もう一回隠れろ!)
「えぇ――……、出たり入ったり、面倒臭いです……」
(見つかったらもっと面倒臭いことになるんだよ!)
直後、再びバサッとカーテンが開き、隙間から覗かせた可憐が、
「ベッドにメアリーのパンツが置いてあったんだが、紬、何か知って……」
と、そこまで言って固まった。
可憐の瞳に映っているのは、上半身裸の俺と同じベッドの上で、シャツに腕を通しただけの半裸……と言うよりも、ほとんど全裸のメアリー。
可憐の顔に、みるみる侮蔑の色が広がっていく。
――そりゃ、引くよなぁ……。
状況を客観視すれば、無理もない、と自分でも思う。
誰がどう見ても、大きいお兄さんと幼女が背徳行為の現場を押さえられた図だ。
数秒間固まった後、可憐がカーテンの向こう側に姿を消した。
――おや? もしかして、見なかったことにしてくれた?
……と思ったのも束の間、突然カーテンが勢いよく開け放たれる。
仁王立ちで現れた可憐の手には……。
――クレイモアですとっ!?
「お、おい! ちょっと待て! 早まるな可憐!」
しかし、俺の声など届いていないかのように、半眼のまま可憐が鞘から剣を抜いた。
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