04.ラッキーだったよ

 キャンプ場に着いたのはお昼前。

 何度も転んだせいで、優奈ゆうな先生のせっかくのお洒落スカートもあちこち土で汚れてしまっている。


「茶色のスカートでラッキーだったよ。白系統だったら汚れが目立っちゃってたね」

「……そうですね。ラッキーでしたね」


 ここまで転んでラッキーと言えるとは、耐性ついてるなあ。


 休憩所で軽食を取ったあと、しっかり入山記録を付けて、キルパンサーと戦った川原まで降りる。

 俺も、六尺棍ろくしゃくこんを出してブルーを召喚しておく。


「やだそれ、可愛い!」


 ブルーを見て歓声を上げる先生。


「ベイビーパンサーだそうです。見た目はただの青い猫ですけど」

「そうなんだぁ。可愛いねぇ。私もテイマーになればよかったなぁ」


 すいません先生。ノートの設定上、先生には回復術士ヒーラーの道しか……。


「よし、ブルー! 適当にその辺の魔物を退治してろ!」

「ブルーっていうんだ……青いから?」

「そうです」

「ぷぷぷっ」

「なんですか?」

「単純だなぁ~、と思って」


 それを優奈先生に言われるのはなんとなく釈然しゃくぜんとしない。


「で、綾瀬くんの探し物って、何なの?」

「立夏からテイマー用の縦笛を借りたんですけど……先日のテイムキャンプで無くしちゃって」

「そっかあ。じゃあ、さっそく探す?」

「もう探してるんですけど……ありませんねぇ……」


 この辺りは、勇哉ゆうやと可憐がキルパンサー――つまり、テイム前のブルーとやり合った場所だ。俺も、笛で殴ってブルーの注意を引いたことまでは覚えている。


 そのあと、みんなから引き離すためにあっちへ走って――。

 あの時は、笛、持ってたっけな?


 ゴロゴロと大小の石が拡がる川原を見下ろしながら、走ったルートを辿たどる。と、その時。


「きゃあ!!」

「どうしました!?」


 先生の悲鳴に慌てて振り返ると、石につまずいたらしく尻もちをついていたので、すぐに手を取って助け起こす

 今日で何度目の光景だろう。

 骨盤だか股関節だかの不調で、左右の足の長さが違っている人が結構いるって聞いたことあるけど……先生もそれなんじゃないだろうか?


「先生は、じっとしててください。俺が探しますから」

「はい……」


 リリスもポーチから顔を出して、辺りをキョロキョロと見回している。


「何か見つけたら教えてくれ」

「一応探してはいるんだけど……私が紬くんを発見した時は何も持ってなかったと思うよ?」

「だよなあ。つえ~を出した時も、何か持っていれば気づいたはずだし」


 土手の土は、今の水位よりも三十センチほど高い場所まで色が変わっている。

 恐らく、あの日の雨で少し遅れて増水したんだろう。あそこまで水嵩みずかさが増したのならこの辺りも水没したはずだ。


「先生! 俺、下流の方を見てくるんで、そこで休んでてください!」

「ええ!? 私も行くよ~!」


 先生が慌ててこちらへ歩いてくる。

 責任感からかもしれないけど、正直、いない方がはかどるんだよなあ。


 あ、ほら、また転んだ!

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