06.雰囲気が違うね
施療院で言われた信二の言葉を思い出しながら家路を急ぐ。
『それ、もしかしてテイムできてるんじゃない?』
俺があのキルパンサーの捕獲に成功?
もし本当にあんなのが使役できるなら、かなりの戦力アップだよな。
家に着くと、
蓋を開けると三×三マス、計九マスに仕切られた枠の一つに、初めて見る青色の宝石が。
「これが、あの、キルパンサー!? マジかよ!?」
トゥクヴァルスで対峙した獰猛な化け猫の姿が脳裏に蘇る。
リリスもポーチから首を出して覗き込み、
「あんな弱いやつ飼ったって意味ないじゃん。ぷぷぷ~」と、両手を口に当てる。
「なんか鼻につくな。おまえが強いのは分かったけど、使役できるのが数分じゃ、汎用性に難ありだろ」
「汎用性とか……紬くんもつまらない男になったものね」
「おまえが面白すぎるんだろ」
「あのね、私なら、数分もあれば大概のモンスターは撃滅できるんですけど?」
「おまえはボス戦しかしないつもりか? たどり着くまでどうすんの? テイマーって言えば、求められるのは瞬間火力より持続力だからな?」
あくまでも、ゲーム内の傾向だが。
「あ~あやだやだ、男のくせに細かい性格」
「おまえが大雑把過ぎるんだよ!」
今すぐ召喚してみたいが、さすがにあいつを部屋の中で出すのはまずいだろ。
明日、時間を見つけてその辺りの広場で試してみるか。
いや、待て待て!
ビーストテイマーのことはまだよく分かってないし、少しでも知識のあるやつと一緒の方がいいかもしれないな。
確か、クラスメイトでテイマーを専攻しているのは、俺以外では
――黒崎初美。
今のクラスで唯一、元の世界のクラス……どころか学校にすら存在しなかった生徒だ。
なぜそんな生徒が紛れ込んでいるのかよく分からないが、改変にともなうゴタゴタでそんなイレギュラーもたまに発生するのかもしれない。
今日の立夏の様子を思い出す。
『私の初めてはあれだから』
あれはどういう意味だったんだろう。
覚えてろよコノヤロ~!的な?
まさか『大切な思い出にします』なんて意味合いではないだろうが、今日の明日で召喚実験の付き合いなんて頼んだら、まるで俺が舞い上がっているみたいだよな。
とはいえ、他にテイマーに詳しいやつなんてなぁ……。
というか、大事なことを忘れていた!
どうやって連絡を取る?
夏休みだから学校では会えないし、家も知らない。
通話器という、何やら電話ちっくなアイテムはあるが、番号も知らない。
可憐なら知ってるかな?
明日、もし会えたら聞いてみるか。
◇
翌日、家を出たのは午前十時ごろ。
可憐の家族にも会うことを想定して、いつものラフな格好よりも多少マシな服を選ぶ。
街並みは変わっても、ファッションの類似点が多いのは助かった。
もちろん、鎧やローブ、略刀帯など、戦闘用の装束や小道具は存在する。洋服にもこの世界独特のテイストがなくはない。
ただ、基本的なデザインは元の世界の服装が基調になっているので、俺がもともと持っていた服でも特に違和感もなく外出できる。
そういえば名前も、みんな日本風の氏名のままだよな。
ノートに書いた設定上、改変しなくても無視できる部分はそのまま放置されてるのだろうか?
――翌朝。
一晩考えて、召喚実験は俺一人でも構わないから試してみようと決めた。
一度テイマーに捕獲された魔物は、使役契約を解除するか使役者――つまり俺が死なない限り危険はないはずだ。
もし、万が一不測の事態に陥ったとしても、リリスがいるというのも心強い。
立夏とはもしかしたら二学期が始まるまで会えないかもしれないし、さすがにそれまでは我慢できないだろう。
ウエストフナバシティ駅から可憐の最寄り駅、ヤーワンまでは
ヤーワン駅に着き、出口の階段を下りていくと見覚えのある人影が――。
ん? あれは……、
「立夏!?」
なんという偶然!
わざわざ連絡したわけでもないし、このシチュエーションなら召喚実験の付き添いを頼んだって不自然ではないよな?
駅舎の壁に寄り掛かって俯いていた立夏が、俺の声に気付いて顔を上げる。
昨日はどこかぎこちない空気をまとっていたようにも感じたが、今はすっかり普段の立夏に戻っているようだ。
が、それにしても……なんというか、今朝はやけに女の子っぽい装いだ。
膝丈スカートの裾に、二本の水色のボーダーがあしらわれた白地のフレアワンピース。ハイウェストの後ろベルトのおかげか、小柄な立夏でもスラリとした立ち姿に見える。
足元は、白いレースのソックスにリボンの付いた黒のエナメル靴。
二の腕をふんわりと包み込むパフスリーブは、上品さと少女らしさを同時に醸し出している。
そして何より、水色のセーラーカラーと胸元の黒いミディアムリボンがガーリーで可愛らしい。
何だ何だ? もしかしてデートの待ち合わせ?
道行く人の中にも、立夏を見ながら通り過ぎていく人がちらほら。
この世界の感覚で見ても、今日の立夏はやっぱり可愛いんだ。
「よう……」
「おはよう」
「今日は、なんて言うか、いつもとだいぶ雰囲気が違うね」
「そう」
「もしかして……あれか! デートの待ち合わせか!?」
少しおどけた調子で先ほどの疑問をぶつけてみる。
もしそうなら、長く話しているわけにもいかないだろうから……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます