04.今日で二回目よ
すぐには
隣に並んで、俺の表情を探るようにジイッと覗き込んでくる麗。
「ん? えっと……ど、どういう意味?」
あまりにも
「あ、ゴメン。その、
「うん」
「多分、モンスターハント対抗戦の頃からだと思うんだけど……何か、それまでの紬くんと雰囲気が変わったなぁ、って言うか……」
まあ、そりゃそうだろうけど……。
「自分では、全然分からないけど」
そう、答えるしかない。
そもそも、それ以前はどんな俺だったのかも知らないわけで。
「あ! えっと、ガラッと変わったとかそういうんじゃないんだけど、雰囲気がなんとなくね」
「そ、そうかな」
「うん……もしかして、何かあったのかな、って思って」
さっきリリスにも指摘されたが、こちらの世界に関するリサーチが進まないのは俺の境遇を知っている人間が一人もいないのが主な原因だ。
唯一知っているリリスは、ご覧の通り能天気ぶり。
この二週間、慎重に家族や友人と接してきた結果、皆の記憶の中の〝
最近の出来事でも記憶が曖昧なので少し心配されるような場面もあったけど、もともとこっちの俺も
性格は後天的なものだし、ガラッと変わっていたら面倒だと思っていたが、周りを見ても大きな変化はなさそうだ。
だが、それにも関わらず微妙な違和感を覚えたという麗。
いい機会だし、いっそ麗には打ち明けてしまおうか?という衝動が頭をもたげる。
リリスも、『言え! 言え!』というふうに大袈裟に口をパクパクさせている。
ただ、逆の立場になって考えると……どうだろう?
これまで数年、長ければ十年以上も付き合ってきた友人が、実は最近別の世界線から転送されてきたばかりで、自分との記憶をまったく共有していないと聞かされたら?
もし俺が相談される立場なら、にわかには信じられないだろう。それどころか、下手をすれば病人扱いしてしまいそうだ。
もちろん、そんな心持ちでは親身になって相談に乗ってやれる自信もない。
麗から見れば綾瀬紬と姿形は一緒でも、中身はまったく別の習俗や価値観の中で育ってきた人物だ。
逆に、俺が知っている長谷川麗も、目の前の少女とは別人。
そんな面倒臭そうなやつとは距離を置きたい……と、俺なら思うかもしれないし、逆の立場でそう思われたとしても、責めることはできない。
思い切って話してしまえば、意外と真剣に聞いてくれるんじゃないか?……なんて期待をするのは、いささか希望的観測に過ぎる気がする。
改めて、麗のことをまじまじと観察する。
髪の色と眼鏡のせいでだいぶ印象が変わっているが、確かに可愛い。
元の世界の勇哉の話では隠れファンも何人かいたらしいし、奴がハーレムメンバーに選んだのも頷ける。
身長は百六十センチに少し足りなりくらいだろうか。
中肉中背。同学年の女子の中では平均的な体つきだが、丸顔に、クリッとした黒目の多い大きな瞳が印象的だ。
キュッと結ぶとアヒルのようになる唇も、自然であざとさはない。
元の世界では、教室で堂々とBL(ボーイズラブ)系の文庫本を読んでいるような腐……サブカル女子で、クラスの皆からは遠巻きにされているようなところはあった。
ネットゲームも麗の方が先にハマっていて、それを知った勇哉がお近づきになるために後追いで始めたと聞いた。
とりあえず、俺とは接点が少なかったことは確かで、それは恐らくこちらでも同じだろうと思っていたんだが……。
こんなふうに気軽に話しかけてくるところを見ると、この世界の俺は普通にうまく付き合っていたんだろうか?
そう言えば、戦闘準備室で華瑠亜も、D班になる前も俺と麗が一緒の戦闘班だったようなことを言っていたよな。
俺があまりにも凝視していたせいか、麗が顔を赤くする。
「紬くん、見過ぎっ!」
片方の頬だけプクッと膨らませて目線を逸らす。
あれ? なんだこの可愛い生き物は!?
とりあえず、事実を告げるにしろ隠すにしろ、この世界でどんな程度の付き合いだったのかは確認しておいて損はないだろう。
さっきの反応を見る限り、かなり心置きない間柄だったんじゃないだろうか?
「えーっと、あのぉ、麗? つかぬことをお伺いしますが……」
「な、なに? 改まって……」
「俺と麗って、今日で話すの、何回目くらい?」
びっくり顔で俺の目を見つめ返す麗。
オーバルフレームの眼鏡に俺の顔が映り込む。
やばいやばい、だいぶおかしな訊き方だった。
「ごめんごめん。最近、物忘れがひどくってさ。正確じゃなくても、だいたいでいいんだけど」
頭をかきながら笑ってごまかす。
いや、ごまかせてるかこれ?
「今日で二回目よ。一回目は、モンスターハント対抗戦の翌日」
はあ? いや、まさか――。
それじゃあつまり、俺がこの世界に来るまで話したことがなかったってこと?
元の世界ですら両手の指で足りない程度には話していたんだぞ?
しかも、戦闘班まで同じだったはずなのに、さすがに少な過ぎないか?
「ほんとに? たったそれだけ?」
束の間、麗がじっとこちらを見つめたあと、質問で返してくる。
「逆に、紬君は、それ以前に私と話した記憶はあるの?」
「え……いや、それは……」
イエスともノーとも答えられない。
「ほんとに、二回目だと思うよ。こっちでは……」
さっきと一緒の答えを繰り返す麗。
思う? こっちでは?
もしかして、何か鎌でもかけられてるんだろうか。
だとしたら、素直に『そうなんだ』と相槌を打つのも拙い気がする。
と、その時――。
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