17人目 女音楽教諭       ★★★☆☆

 啄木たくぼくの雲は天才である、クラベルの23分間の奇跡、八島やしま太郎のからすたろう。

 ジャンルは違っても、『教諭』とは創作で題材にされやすい職業です。

 現代ではブラック企業として揶揄やゆされていますがひとふた昔前はどうたったのでしょう? 前回は、給食の時間に激昂した数学教諭の話をしましたが、今回は依怙贔屓えこひいきばかりしていた音楽教諭と、それに付随した音楽発表会を紹介します。


   ✽ ✽


 ウェーブのかかったロングを揺らして、姿勢よく優雅に歩く姿が印象的な、高身長の女教諭が居ました。化粧が濃くなければ、まあまあ悪くない見た目をした人物で、この女こそ中学時代に唯一存在した音楽教諭でした。

 仮にM先生――いや、通称『依怙贔屓先生』と表記しておきましょう。通称のとおり普段からの贔屓目は見るに堪えず、気に入らない生徒はさんざ攻撃する、お気に入りの生徒の成績は常に5をつける――そんな悪名が高い人物だったのです。

 また顧問を務める吹奏楽部では、業務のストレスを発散するように汚い言葉で怒鳴り散らす日々でした。


 皆さんも経験した――およびこれから経験するであろう、不毛な合唱コンクールでも、依怙贔屓先生は抜群のパフォーマンスを発揮してくれました。

 コンクールは学校単体で行っていたもので、学年ごとに四クラスが歌の統率を競い合う内容でした。依怙贔屓先生が担任を務めるクラスは、優勝圏外と言われており、実際の発表でも、『選曲』、『リズム』、『音の強弱』、『表情』――明らかに、ほかのクラスより劣っていました。

 ですが、優勝したのは意外にも二組――そう、依怙贔屓先生のクラスだったのです。というか今思うと、あれって誰が審査していたのだろう……。

 ざわつく会場、納得のいかなそうな生徒たち、苦笑するクラスごとの担任。ですが依怙贔屓先生はそんな不穏な空気なんてお構いなしに、勝者の優越からか、

『舞台に上がって、最後にみんなで歌いましょう!』

 台本のようなセリフで会場をぎょっとさせました。

 昨日の敵は今日の仲間――中学生を言いくるめるには、少年雑誌の展開で事足りるということでしょう。

 あゝ、不毛な時間。痩せたいと言いながら、特保コーラを毎日喫する奴の行動くらい不毛な時間でした。


   ✽ ✽


 また、卒業が近づくと音楽の授業で発表会を強制されました。要は、仲良し同士で楽器を演奏したり歌を披露したりする内容です。

 悲しきかな。私は単音で、

『こぎつね コンコン やまのなかー やまのなかー』

 しか弾けなかったので、地獄の時間でしかありませんでした。

 私は思うのです。もっと別の方法で、音楽の成績を決められないものかと。

 例えばイントロ早押しクイズとか、音楽家にまつわるクイズとか――

「ピンポン! ヴィヴァルディの冬!」

 的なやつです。


 ともあれ、私も班を作りました。当時仲の良かった、吹奏楽部の子と一緒に。

 おや、これならどうにかなるのでは? その考えは、とちおとめくらい甘いです。

 クラスには不登校児と問題児――ふたりのトラブルメーカーが居ました。当然、ほかの班の連中は、そのふたりを是が非でも指名したくないので、メンバーが集まらなかった私たちの班に、しれっとアサインしやがったのです。


  ままよ、グダグダ言っても仕方ないぜ!

  ここでウチらのメンバーを紹介するぞー!

【ギター  不登校児】  【トロンボーン 吹奏楽部の子】

【ボーカル  問題児】  【ピアノ    常陸乃ひかる】

 いやはや、香ばしい面々。事故の匂いしかしません。

 言うまでもなく、私はピアノに関して無知です。財津〇郎さんの歌しか知りません。売ってちょーだーい。

 そうしてアンダンテな日々が流れ、うちの班は一度もメンバーが揃わず――


  お待ちかね、発表会当日のメンバー紹介だ!!!

【ギター  欠席】  【トロンボーン 吹奏楽部の子】

【ボーカル 欠席】  【ピアノ    仮病】

 やったぜ! どっちみち大事故だあ!


 あとで吹奏楽部の子から、当日の様子を聞きました。

『先生……あの、僕以外……今日、来てないんですけど』

 吹奏楽部の子は怯えながら、依怙贔屓先生にピアニシッシモ気味に意見すると、

『あなたたちはもう良いわ』

 と威圧的な一言でフェルマータ! やったぜ、地獄の発表会をストライキだ!

 なんだよ、良い先生じゃないか!(錯乱)


 その学期、私の音楽の成績は2でした。

 あれ? 1じゃないってことは、やっぱり良い先生じゃないか!

 どうも作者の混乱が解けないので……ここでF.O.フェードアウト


                                   了

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