13人目 落とし物【下】     ★★★★★

 ある三箇日の朝。

 帰省中の私の正月ボケを覚まさせてくれたのは、母の強烈な一言でした。

「ちょっと! 庭にウ〇コが落ちてるんだけど! でっかいの!」


 ――先に申しておきます。この話の【変人】にあたる主役および、真相は不明です。あと小学生並のサイテーな文章です。

 実際に起きた珍事に基づき、犯人像を語ってゆきます。


   ✽ ✽


 母者よ――新年早々、が落ちている話とは、実にめでたいではないか。

「なにを言ってるんだよ。そんなワケが――ってマジだ! でけえ!」

 私は、現場が見える台所の窓から下を覗くと、ブビビ〇マンが歓喜しそうな大きさのブツが、ヌメヌメときらめくベリーダークトーンをもって、徐々に朝日を浴び、何物にも代えがたい威圧と存在を、この世に誇示していたのです。

 それでもって、庭の片隅にちょこんと――可愛らしさも醸しているそれは、一本ではなく、ナメクジの交尾のように怪しくに絡み合っています。

 私はフリースを引っかけて外へ。近くで見たそれは、攻防の両方を兼ね備えたフォルムだと思い知らされました。人を近寄らせず、また個体自体が威嚇の役割を成しているのですから。

 ――鎮座の仕方が、まるでコンビニの前にたむろしているヤンキーです。


「え……これ、野良ネコの仕業?」

「にしてはスーパーサイズじゃないか? 動物だとしたら相当の大型犬だろ」

「そんな野良犬この辺に居る?」

「俺は普段こっちに住んでないから知らないよ……。いやでも、居るんじゃね?」

 混乱の中、繰り返される母子の不毛な問答。

「まさか……人間のじゃないよね?」

「ははっ、まさかそんな。今言っただろ? 犬の仕業だって……」

「そうよね。まさかねえ、ハハハ……」

 いや。その『まさか』がありうるくらいの、たくましい黄金だったのです。ゆえに私は現実を受け入れたくないあまり、クリティカルシンカーを忘却していました。


【もしかしたら、〇〇という理由があり、△△が、××をしたのかもしれない】


 できれば、この例文に『可能性』を当てはめたくありませんでした……!

 朝から叩き起こされ、異形いぎょうのウ〇コを見せられ、絶望やら嫌悪やら、あるいは異世界にあるとも言われる興奮を覚えてしまった私は――この時、まともな思考では居られなくなりました! 

 ですから、現実から目を背けるため二度寝をしてしまったのです!

 母にすべてを託してお布団へ逃げたのです! 最低な人間です!

 あゝ、全知全能の神様! どうか……どうか、ご教示きょうじたまわりたく存じます!

 どうして庭にウ〇コが落ちているのでしょうか!

 どうして――


   ✽ ✽


 ふたたび起床すると昼下がりでした。

 どうやら母が懐疑かいぎ的なの処理をしたようで、トンズラこいた私は、ブツブツ文句を言われました。ごめんね。

 さて。ここからが推理パートです。

 が発見されたのは朝七時。昨晩までなかったことを考えると、犯行時刻は我々が就寝し、起床するまでの間です。

 あまり『常識』なんて言葉は使いたくありませんが、この事件は常識的に考えて、まず落ちているわけがないものが落ちていました。

 仮に――クラスメイトが朝、浮かない顔をして登校してきたら、

「どうした、憂鬱そうな顔して? 家の庭にウ〇コでも落ちてたか?」

 という励ましの例文にも使用できるくらいの、インパクトがあるでしょう。

 つまり、この謎を解くには常識を捨てる必要があります。私は、困った時のインターネット様に縋りました。恐る恐る打った単語は、『庭にウ〇コ』です。すると、予測変換で『嫌がらせ』が表示されました。

 けれど嫌がらせにしては、アレのフォルムが、完全に姿でしたし、近所でいざこざなんて起こしていない我が家では、その線を除外しました。


 次に検索に引っかかったのは『ハクビシン』です。実家はそこそこ田舎なので、家の裏ではちょくちょくハクビシンが目撃されています。が、ネコ同様にがまったく違う。この線は捨てて良いでしょう。


 こうなってくると、もう犯人像が絞られてきます。

 そう――紙が落ちていなかったので、ある哺乳類の線を捨てていましたが、『可能性』から目を背けていては真実へ辿りつけません。犬以外の線で考えるとやはり、人類しか考えられないのです。

 もし仮に……仮に! そういう趣味の人間が居たとしたら?

 ところ構わずひり出して、拭かずに去ってゆく性癖があったとしたら?

 ――さあ、パンドラの箱を開ける時間です。

 ……私は調べました、そういう単語やWebサイトを。カクヨムのような健全な場所では、決して口にできないワードをくまなく。

 そのうちたどり着いた可能性は、【〇〇が、△△して、××をする】動画でした。


 私はこう推論します。

 どこぞの変人が、スリルを味わいたいがために、夜な夜な他家の敷地に忍びこみ、お尻からコンバンハしたジュニアと、今生の別れをしたのではないかと。

 この謎を解くには灰色の脳細胞も、安楽椅子探偵も要らなかったのです!

 必要なのは『世界』を知り、どんなイレギュラーにも対応できる柔軟な志でした!


 けれどこれでは、

【100人の変態たち】

 にタイトルを変えなくてはいけないような気がします。

 い、嫌だなそれは……。


                                   了  

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