14人目 一分間のドラレコ    ★★☆☆☆

 皆さんは自動車を運転しますか? 週にどれくらいハンドルを握りますか?

 一昔前は、ジジババやDQNからのもらい事故でも、納得のいかない過失割合を突きつけられることがほとんどでした。

 が、現代では自衛のためにドライブレコーダを備えている方が増えています。どんな状況であれ、事故に巻きこまれたくないのが本音ですけれど。

 これから紹介するのは、ドライブレコーダにまつわる事故――ではなく、どこかプロ意識が感じられる運転手の話です。


   ✽ ✽


 私はいち業務で、トラック運転手のドライブレコーダチェックを行っていました。

 例えば、一時停止線は守っているか。あるは、右折左折時の確認は充分か。

 あるは、信号のない横断歩道で歩行者が居たら一時停止をするか。◇◇ですね。

 あるは、ETCレーンの通過速度は適切か? etc...

 映像は、運転のほかにも車内の様子が録画されており、携帯電話は使用していないかとか、ヘンなこと(?)はしていないかとかもチェックされています。


 いつかの日。

 端末でひとりの男性をチェックしていると、トラックが赤信号で止まりました。停止中にはなにも起こらないだろう。動画を飛ばそうと思い、マウスに手を伸ばした矢先、運転手がある動きを見せたのです。


――――停止後五秒経過―――――――――――――――――――――――――――

 運転手の男性はギアをNへ入れ、サイドブレーキを上げると、シートベルトを迷いのない速さで外しました。なにがはじまるんです?

――――十秒経過――――――――――――――――――――――――――――――

 運転手はすかさず羽織っていたジャンパー、また下に着ていた半袖も脱いで、半裸になったのです。カメラに映る突然のワガママボティ。すると近くに用意してあった長袖を着衣しました。見事な早着替え。

――――二十秒経過―――――――――――――――――――――――――――――

 運転手はすぐさまジャンパーを羽織ります。日付は一月でしたからそりゃあ寒いですよ。であれば、家で長袖を着てくれば良かったのでは?

 いいえ、それは禁句です。のっぴきならない理由があったのでしょう。

――――三十秒経過―――――――――――――――――――――――――――――

 用意しておいたハンガーに半袖を丁寧に通し、後方のハンガーラックへそっとかけると、華麗にシートベルトを再着用。

――――四十秒経過―――――――――――――――――――――――――――――

 辺りに散乱した古いペットボトルを片づけて、助手席周りの整理整頓。その他、備品の位置の調整を終えると満足そう。どうやら、いつもの車内に戻ったようですね。

――――五十秒経過―――――――――――――――――――――――――――――

 マスクを外して、二リットルサイズの水をぐびぐび。キャップを閉めてすぐ、バックミラーで髪型をチェック。今日もばっちりオールバック。いかちい。

――――六十秒経過―――――――――――――――――――――――――――――

 スマホをチェック。

 通知なし!

――――六十五秒経過――――――――――――――――――――――――――――

 青信号。サイドブレーキを下げ、ギアを二速に入れて発進しました。

 気をつけて行ってらっしゃいませ。


   ✽ ✽


 運転手が取った、新体操のような流れる動作。

 はたまた、フィギュアスケートのジャンプをも想像させる優雅さ。

 あるは、格闘選手が見せるラッシュさながらの熾烈しれつさ。

 一切の無駄のない――無駄な動作は、プロの成せる業でした。

(無粋なことを言えば、すべて出発前にできることですが……理屈じゃねえんだ!)


 物流が止まったら、世界も止まります。

 ドライバーの方には、手放しに『ありがとう』と伝えたいものです。


                                   了

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