20人目 クレプトマニア     ★★★★☆

【容疑者】

 性 別:女

 容 姿:二十代前半くらい メガネ 色白 頬紅 色の濃い口紅

 特 徴:大きなエコバッグを持っている

     出現時間は十七時以降

     店に滞在する時間が異様に長い


   ✽ ✽


 ――窃盗症。クレプトマニア

 ストレートなタイトルのとおり、私がアルバイトをしていたスーパーでは、万引きGメンに捕まって事務所に連行される壮年や、老年を何人も見てきました。

 そんな中でも、最後まで捕まらなかった女が今回の主役です。御用だ御用だ。


 容疑者の女が来店するのは、万引きGメンはおろか社員も居ない日暮れでした。

 そうかといって、夕勤のアルバイトが必死になって万引き犯を捕まえようとはしません。徒労は金にならないのですから。けれど商品が盗まれれば、売り上げが減ってしまう。この板挟みがもどかしい。

 そんな中、バイト仲間のヤンキー高校生が、

「こないだオレのダチが来てたんで、あの万引き女を見張るように頼んだんっす。そしたらフツーにキャベツ一玉、エコバッグに詰めてんすよ。マジウケる!」

 有用な情報を持ってきたのです。さすが、見た目はヤンキーだけど、仕事はしっかりする縁の下の力持ち。頼りになります。

「それはウケるな。というかレジ打ちの奴ら、さすがに気づけよ……」

「ホントそれっすね」

 内務をしている店長、仕事を残して帰る無能社員、レジ打ちに必死なアルバイター――Gメン撤収後の夜間では、容疑者を捕獲できる店員は居ません。

 けれど、このままやられっぱなしも癪でした。そうして、私を含めた夕勤の店内係と、夜のみ出勤する代理責任者の夜間店長が立ち上がりました。

 安易ではありますが、容疑者が現れたら包囲網で追い返す作戦です。一番良いのは『捕まえる』ことですが、『抑止力として、盗ませない』というのも大事な役目ですから。


   ✽ ✽


 そうしているうちに万引き女が来店しました。はい、いらっしゃーせー。

 見れば見るほど、一般客とは異なるオーラ(スピリチュアル的なアレ)が窺えます。なにはともあれ、我々は配置につきました。

 品出しをしつつ、棚の陰から女に目を配らせる常陸乃わたし

 日配に値引シールを貼りながら、女に睨みを利かせるヤンキー。

 店内をブラブラするフリをして、女を誘導する夜間店長。


 買いもしない高野豆腐を見たり、かんぴょうを見たり、右に左に通路をウロウロする女。そのうち十分、二十分――と、アクションを見せないまま時間だけが過ぎてゆきました。

『マークされている』ということに気づいていれば、さっさと退散するでしょうから、違和感には気づきながらも犯行を行っていないだけか、あるいは『マークされていても盗んでやる』という挑戦状か。

 女の滞在時間が三十分に近づくと、ヤンキーは値引作業を終え、私も品出しを終え、夜間店長は別の業務に回ってしまいました。店内係は、ひとりの犯罪者に構っているほどヒマではありません。

 このまま包囲網が崩れてバッドエンド――かと思った矢先、

「あの女、さっき盗ってたっすよ。あそこに置いといた商品、アイツが居なくなったらなくなってたし。で、カゴにはなんも入ってねえっすから」

 ヤンキーが、ちゃっかりをしていたのです。確かに、ぺったんこだったエコバッグ少し膨らんでいます。

「グッジョブ。あとは、あの女が店を出ればこっちのモンか」

 私はその日の業務を半分捨てて、女をマークし続けていると、加工肉売場で商品をバッグへしまうような動作を見せました。遠目でしっかりは見えませんでしたが、なんらかのアクションを起こしたのです。

 引き続き女を追っていると、乾物売場へ向かい、のです。盗んだ動作ではありませんでした。――怪しい。私は女が去ったあとそこを調べると、捨て置かれた魚肉ソーセージが転がっていたのです。

「……どういうこと?」

 盗ったと思わせて、それを別の売場へ捨て置く精神はわかりかねます。が、マークされていることに気づかれたなら、こちらもコソコソする必要はなくなりました。私は、その魚肉ソーセージを手に取り、女に見せつけながら横を通りすぎると、目も合わせずにそそくさと離れてゆきました。


 客も従業員も減った店内――ふたたび女が動きました。今度は、加工肉売場の棚に手を突っこんで、ガサガサと商品をかき回しているのです。

 そうかと思えば、女は買い物かごを置いて退店しました。

「え、アイツ帰りやがった……」

 急いでその売場へ向かうと、女が盗もうとしていた商品――野菜や甘味が、まったく脈絡のないウインナーに埋もれていたのです。私は発掘したそれらを元の売場に戻し、容疑者が居なくなった店内で溜息をつきました。


「――あの女どうしたんすか?」

「盗もうとしてた商品を捨てて、逃げてった」

「店の外で声かけなくて良かったっすね」

「あぁ。それにもう……来ないんじゃないかな」

 我々の勝ち――とは、とても言いがたい終わり方でしたが、三人の活躍によって未遂に終わらせることができはのは事実です。

 案の定、女は翌日から姿を見せなくなりました。抑止力にはなった――とりあえず、それで充分でしょう。店長や社員や、その他アルバイターたちは誰ひとり知らない、静かな戦いでしたが。


 彼女は新しい活動場所で、今でも犯罪を繰り返しているのでしょうか。

 浮世のためにも、誰か彼女を救ってあげてほしいものです。


                                   了

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